――日本鉄リサイクル工業会の新会長としての抱負から。
「私自身、鉄スクラップ業界に入って約30年になるが、自己責任に基づく、自由闊達(かったつ)な商売ができる良い業界だと思う。約束や互いの信用を守る中で誠実な市場経済を構築すること、こうした鉄スクラップの自由な市場の擁護、維持、発展することが工業会の役割と思う」
「わが工業会の良き伝統と精神と理解するが、工業会は機能集団であって、政治的圧力団体ではない。行政とは密接に意思疎通をとるが、政治とは適切な距離感を保っていく」
「経営者は己を信じて、己の責任で会社を運営しなければならない。会社はその経営者の独創だが、独創とは独善ではない。経営者は常に自分の姿を客観的に見なければならない。その姿を映す鏡の役割をわが工業会の諸活動が担っていると思う。世阿弥の言葉にある己を映し出す鏡――”離見の見”の場が工業会だと思う。同時に『論語』に『己の欲するところに従って矩(のり)を踰(こ)えず』とあるように一つの規範、今で言うコンプライアンスを確認し合える場所に、工業会がなっていければと考えている」
「具体的にどうしていくかというと、『鉄スクラップの加工処理の深耕』と『総合リサイクル業への展開』ということになると思う。内外の鉄鋼メーカーに良い品質の製鋼原料を提供する、という個々の企業の姿勢が必要であり、経営者から社員までが意義ある仕事という自覚で取り組むことが理想だ」
「『事業の定義』を個々の企業が再度行い、どの市場を取り込んでいくかを考える必要があると思う。鉄だけにこだわらない、総合リサイクル業の展開も一つの方向だ。最近、地方の鉄スクラップ業者も視察してみたが、鉄だけではなく非鉄金属を扱うところも多い。それも精緻(せいち)な手間ひまをかけた処理をしているところもある。地方の方がかえって先進的業態、次の段階に進んでいるという感じを受けた」
「永守重信氏が率いる日本電産の経営方針に『3Q6S』がある。3Qとは、良い社員、良い会社、良い品質のことを指すのだという。わが工業会はこの3Qプラスワン、つまり『善(よ)い社員』『善い会社』『善い品質』、そして『善い業界』を目指す団体でありたい。各地域の若手、後継者との交流により経営力や人間力の涵養もやっていければと思う」
――2012年上期の鉄スクラップ動向について。
「4月ごろまで鉄スクラップ価格は上昇してきたが、5月以降足元では市況が大幅に下落し、日本の鉄スクラップ価格は海外市況と比べて割安になっている感がある。日本産鉄スクラップは瞬間的に行き場がなくなっており、国際的な価格が日本の価格水準に収斂するのか、値戻しの方向へ向かうのか、その岐路とみている。昨年と比較すると平均単価は数千円安くなっている。高炉メーカーによる市中発生鉄スクラップの購入が低調なため、上級スクラップの価格上昇も見込み難い。仕入れ面での先安リスクはやや薄れたが、業界各社の収益を圧迫する要因になっている」
▲業界、新ステージへ/競争の中で自社鍛える
――12年後半に向けて展望を。
「輸出に関しては韓国も夏場に向かっての電力制限の影響が懸念され、一方の日本国内は製品市況の低迷もあって反発は考えにくい。夏場まではこうした状況が続くのではないか。今後は、秋口以降に経済状況が上向くことに期待したい」
――中長期的に鉄スクラップ業界が抱える課題などは。
「鉄スクラップ業の様相が変化する中で、今までと同じやり方ではうまくいかなくなると思う。日本は戦後60年で約12億トンの鉄鋼蓄積を積み上げてきた。高度経済成長期やバブル期には10年ごとに2億―3億トンの蓄積増があり、鉄スクラップ発生も増加するそのダイナミズムの中でわれわれは生きてきた。今思えば『坂の上の雲』を目指した良い時代であった。しかしながら、2000年代以降はブレーキがかかってきている」
「これからの鉄スクラップ業では、発生量も鈍化するだろうし、元となる国内の鉄鋼蓄積量の増加ペースも停滞するだろう。以前のような10年ごとに2億トンペースで蓄積増となる環境ではない。外部環境が変化したのだということを真摯(しんし)に確認した上で、自分の会社をどうしていくべきか考える時代になったのだと思う」
「現今の鉄鋼蓄積量や鉄スクラップ発生量の変化(鈍化)は、『日本の産業構造の変化』の結果である。日本の産業構造のあるべき姿を描く仕事はわが工業会の守備範囲を超えている。この鈍化傾向を所与として、生きるすべを会員諸兄と考えていきたいと思う」
「日本の鉄スクラップ業が今までと違うステージに入ったということ、共通の歴史認識を確認し合うことは工業会の役割の一つだと思う。そして、周辺の市場を取り込みながら、かつ競争の中で自分の会社を鍛えながら生き残っていくことが鉄スクラップ業者の一つの姿ではないか」