日本経済のマクロな状況をGDPから俯瞰(ふかん)すると、2009年4―6月は実質でプラスに転じた。背景には、依然として成長率の高い中国をはじめ、アジアを中心に世界経済に持ち直しの動きが広がるなか、輸出の増加、経済対策効果による家計消費や公共投資の増加がある。
さらにIMFの世界経済見通し(10月1日)でも、09暦年の世界実質GDP成長率はマイナス1・1%、10暦年にはプラス3・1%と、7月の前回見通しから上方改定されている。世界的にも、各国が協調して景気対策をうったことで世界同時不況がさらに深まる懸念はかなり遠のいており、中国は大きな落ち込みもなく8―9%の成長見通し。依然厳しい状況が続く日本は、こうした地域への輸出などを日本の景気回復にうまく取り込んでいけるかどうかが今後、大きなポイントになってくる。
日本の鉄鋼産業では、リーマンショック以降急激な減産が行われている状況。短期のトレンドとしては、今年1―3月期の粗鋼生産量が1760万トンと約40年ぶりの低水準となった後、足元では年間1億トンのペースにまで戻しているものの(1)新政権による、前政権以上の野心的な温暖化ガス削減目標(2)資源確保の問題(3)一層の競争力強化による需要の獲得といった大きな課題を抱えている。
(1)については、日本の鉄鋼業は07年度実績で日本の製造業から排出されるCO2の約40%、日本全体の約15%となる年間約2億トンを排出している。さらに日本の鉄鋼産業のマスバランスでは電炉よりも高炉が大きな位置を占めており、地球温暖化対策は最大の課題となり得る。このため、鉄鉱石をコークスで還元する際に一部水素で代替しCO2の発生を減らすとともに、CO2濃度の高い高炉ガスからCO2を分離・回収する技術の開発が進められている。
(2)では、中長期的に鉄鋼原料価格はインド、中国の需要増、供給側の寡占化により高騰が見込まれ、低品位製鉄原料の利用拡大を促進し、資源全体のパイを増やす研究が必要。そのため低品位の鉄鉱石、石炭から塊成物を開発し、現行高炉操業に対し約10%の省エネルギー化を実現するプロジェクトを進行中。
(3)には、高品位製品の供給が不可欠となる。高付加価値の鋼材を生産する技術の開発はもちろん、溶接技術の改善で鋼材の付加価値を高めていく研究や、鍛造技術の高度化を進めている。また鉄スクラップでも、スクラップ中の不純物(銅)除去技術の開発により、利用が難しく輸出などに回されていたスクラップの利用拡大に向けた取り組みが図られている。
鉄鋼産業全体を見たとき、世界の鉄鋼需要が伸びていくのは間違いない。効率的に課題をクリアしつつ鉄鋼産業が成長していくことが望ましいと考えている。(経済産業省鉄鋼課製鉄企画室長)