2011年上半期の国内鉄スクラップ市況は、東日本大震災の影響で一時的な乱高下はあったが、総じて見れば海外動向にけん引され推移した。鉄スクラップが国際商品となった昨今、国内メーカーは鉄スクラップ需給や市況をどう見ているのか。東京製鉄の今村清志取締役購買部長に、需給や市況動向における年初からの回顧や7―9月期の展望、鉄スクラップ購買動向を聞いた。
――上期の鉄スクラップ需給、市況を振り返り。
「1月から2月にかけては、世界的な鉄鋼需要増や天候動向により鉄鋼主原料の4―6月価格に先高観が台頭し、同じ原料である鉄スクラップの市況も強基調で推移した。しかし2月下旬になると、米国のトルコ向け輸出市場の停滞を受け国際市況が先行的に下落し、3月初旬には日本でも同じ展開となった。その後震災により価格は急落したが、4月になると、夏場の電力規制に備え集中生産に動いたメーカーが出始めたため、鉄スクラップ価格は急騰した。ただその間、海外の輸出価格など国際市況はなだらかに下落しており、下旬になると国内市況も下落した。瞬間的に特殊なことが起きても、国内市況は海外の動向に左右されると改めて実感した」
――7―9月期の展望を。
「4―6月期の電炉生産は堅調に推移しているが、鉄鋼製品の需要を先食いしている雰囲気がある。その分、7―9月期の生産活動が例年以上に落ち込む可能性が考えられ、同時に鉄スクラップ内需も減少するとみている。また、現状は海外からの日本玉に対する需要が停滞していることに加え、円高により鉄スクラップを輸出しづらい状況となっている。鉄スクラップの発生量が極端に落ち込まなければ、需給緩和により7―9月期の鉄スクラップ市況は弱基調で推移するのでは」
――鉄スクラップが国際商品となった昨今、鉄スクラップの輸入をどう考えている。
「メーンは国内での調達だが、輸入も一つの手段として常に意識している。基本的な構造として日本は鉄スクラップ余剰国だが、5月の連休や8月のお盆前後は鉄スクラップの流通網が一時的に滞る。一つの例で言えば、そういった時期の対策として、輸入が選択肢として浮上する」
――鉄スクラップ購入価格を公表するメリットと、供給側に対する個別対応について。
「価格を公表することで、当社の購入価格がマーケットの中でどのように位置づけられているかが明確にわかる。製品の販売価格もオープンしているため、現時点では鉄スクラップだけを非表示にする考えはない。購入価格に関して個別対応する電炉メーカーもみられるが、特定の流通業者に対しスポット的に価格を引き上げたりすることは基本的に行わない。供給側に序列をつけてしまうと、調達ソースが狭まり、結果的に当社にとって不都合な状況になる恐れがある」
――田原工場の製鋼工場が稼働開始し約1年を経過したが、現地の鉄スクラップ入荷状況は。
「去年を振り返ると、購入価格を引き上げたことにより、入荷が著しく増えた時期があったため、購入開始1年目だったが手応えはつかめた。しかし、田原の11年度の生産量は前年度比で増加するため、鉄スクラップ調達に関しては去年と状況が異なる。震災の影響により、足元は東北の品物が海上輸送で多く出荷されてきているが、引き続き安定調達できるよう注力する」
――今後の購買戦略を。
「成熟した日本の鉄鋼市場において、よほどのことが起こらない限り、厳しい環境は改善されない。生き残るためには新たな方策が必要不可欠。購入価格を公表しているため、発生工場から直接鉄スクラップを買うことも難しいことではないと思う。製品の販売先と連携して鉄スクラップを調達するなど、これまでにない新たな仕組みを構築していきたい」