2009年の鉄スクラップ輸出量は過去最高数量を記録した。09年1―11月の輸出量は累計で約876万トン、年換算では950万トン前後となる見通しだ。国内鉄鋼メーカーの大幅減産により、日本国内の鉄スクラップ需要が減退していたことや、海外から見て日本の鉄スクラップが調達しやすい価格帯だったことが背景にある。9月終了時点で過去最高だった06年の765万トンを突破するなど、旺盛だった東アジア向け輸出は国内需給と市況に影響を与えた。
09年の輸出量(1―11月)を振り返ると、1月から5月までは右肩上がりで推移、6月から11月までの各月は前月を下回った。そのなかで、4月、5月、6月に関しては3カ月連続で月間の輸出量が100万トンを突破、5月の輸出量110万3000トンは単月ベースで過去最高となる。鉄スクラップ発生量の減少幅を上回る内需減だった09年、鉄スクラップの輸出が国内需給の下支え材料、時には引き締め要因となったが、「数量が過去最高となったのは結果論。これまでと同様、輸出にはリスクが伴う」(流通筋)と言う。
実際、市中流通量が停滞しているなかで、商社やシッパーが埠頭で鉄スクラップを確保する場合、メーカーの購入価格と同水準、あるいはそれより高い価格を提示しないと集まらない。国内メーカーは輸出価格も考慮に入れ購入価格を設定している。状況によっては、商社やシッパーが成約価格に見合わない値段で品物を仕入れるケースも珍しくはない。
内需が低迷している状況下、流通業者にとって販路が拡大することは決して悪い事象ではない。地域によっては近隣の岸壁に出荷した方が合理的な企業もある。ただ、発生の落ち込みにより流通量が大幅に増加する兆しが見えないなか「販路が拡大した場合、確実に仕入れの過当競争が起こる」(ヤード筋)。ここ数年、海需増に伴い全国的にシッパーや輸出を主としたストックヤードが増加しているが、輸出専業の企業が発生工場に直接買い付けを行うという過去に例をみない商流が出始めている。
09年、日本の鉄スクラップが最も輸出されていたのが中国。暦年の中国向け輸出量は過去最高だった05年の水準(346万1000トン)を9月終了時点で突破。日本の鉄スクラップ価格が手当てしやすい水準となったため、輸入を積極化したとみられる。実際、日本の炉前価格(H2)がトン3万円前後となった8月下旬ごろは輸入を抑えており、「トン3万円が一つの境界線と考えられる」(商社)。
韓国向けも暦年では過去最高数量となった。ここ数年、韓国ではメーカーが相次いで新規設備を立ち上げており、鉄スクラップ需要は増加傾向にある。20年までは鉄スクラップを自給できない状況下、国が備蓄を目的に輸入入札を開始するなど、引き続き鉄スクラップ輸入を継続すると考えられる。台湾向けに関しては08年を上回ったものの、直近のピークである06年(118万5000トン)と比較すると大幅に低い。バルク船から主に米国のコンテナ船での調達にシフトしたことが要因。
日本の主要輸出先である中国、韓国、台湾は他国からも鉄スクラップを輸入している。海外の需要家から見て日本の鉄スクラップを輸入する最大のメリットは、「価格以外の部分では、1回の成約が小口でも対応可能なことと、成約からデリバリーが短期間で済む」(海外メーカー筋)。当面は日本へのオファーが途絶えることは考えにくいが、需要や価格によっては10年の輸出量は09年を下回る可能性も考えられる。
中長期的にみて世界の鉄スクラップ需要が増加すると見込まれている状況下、「外需に対し、いかに合理的な対応ができるかがカギとなる」(流通筋)。