11月下旬以降、鉄スクラップ市況は世界的に上昇基調に転じたが、依然としてギリシアを発端とした欧州金融不安や、それに伴う景気の停滞など、大きなリスクを抱えている。年明けからの鉄スクラップ市況から米国鉄スクラップ動向、今後の日本を取り巻く市場環境などを増井重紀・扶和メタルUSA社長に聞いた。
――今年を振り返って。
「一言で表すなら、国際的には通貨に振り回された年といえるだろう。1―3月の鉄スクラップ市況はようやくリーマン・ショックを拭い去り、世界経済が回復するという期待感もあって上昇したものの、ギリシャを発端とした欧州金融・通貨不安が広がった。われわれはドルで鉄スクラップを取引しているが、ドルに対して円は強いものの、他の通貨は非常に弱い。インドのルピー、トルコのリラも対ドルで大暴落した。一方で、ユーロが対ドルも大幅に切り下がっている。欧州シッパーはユーロで仕入れ、ドルで販売すると為替分だけ利益を上げるという有利な状況で競争力を強め、米国シッパーにとっては苦難の1年だった」
――足元から年明けの市況については、どう見ているか。
「日本では東京製鉄が10週連続で購入価格を引き下げ、どこまで下落するのかと思いきや、突然に上昇基調へと転じるという極端な状況だが、鉄スクラップ市況はいったん、天井感が出ているのでは。例年、米国や韓国では大雪などで荷動きが停滞し、どうしても需給が崩れるために、1―2月の市況は強く、1月を控えて天井感が出るのは珍しい。また、1月の相場での注意点は、旧正月が例年より早いことだ。これをどう見るか。通常であれば旧正月前にある程度、鉄スクラップを手当てし、休み明けまで調達をストップするのだが、非常に先が読みにくい展開だ」
「米国から台湾向けでは、今年の最安値が11月の380ドル。これが先週の成約で445ドル前後と約1カ月で65ドル上昇した。では、ここからさらに高値をうかがうかに注目が集まるが、450ドルが節目となりそうだ。台湾メーカーについては、450ドル以上の調達には難色を示している。トルコ向けについては今年安値が415ドルで、直近では457ドルで成約された。米国シッパーは、直近のオファーで460ドルまで引き上げているが、まだ成約に至っていないようだ。そもそも製品環境が非常に悪い。世界的に見て鉄スクラップ価格だけが、一方的に上げ切れるだろうか。予想以上に早く鉄スクラップは天井感が広がり、頭打ちとなる可能性もある。欧州の通貨不安もまだ続く」
――米国の鉄スクラップ市場動向については。
「大手シッパー間での、無益な仕入競争が非常に激化している。これはニューイングランドを中心に起こっているSIMSとシュニッツァー、EMRの三強に、中堅どころが絡んだ勢力争いが原因だ。東海岸では仕入価格が410―420ドル前後だった高値のシッパー在庫が、大量にあるとみられており、それに合わせて460ドルで成約すれば、多少は赤字が縮小するというレベル。本来、この在庫単価を薄めるには大幅に仕入価格を引き下げる必要があるものの、先ほども述べたようなシッパー同士の競争激化が、大きなファクターとして影響している」
――日本への影響はあるか。また、今後の日本を取り巻く市場の展望について。
「数量を確保するための米国シッパー同士の競争だが、その反動がどこに来るか。大手シッパーの日本上陸だ。日本国内に大輸出拠点の開設なども考えられる。例えばSIMSにとっては、手つかずの輸出国は日本しかない。これからの10年間で大きな1つのテーマになるだろうが、国内鉄スクラップ産業は、どのような対応措置を取るのか」
「もう一つは今後の韓国をどう見るか。これまで鉄鋼メーカーの設備投資で、鉄スクラップ需要は伸び続けてきたが、これから大幅に伸びることはない。一方で、国内供給は増え続けて鉄スクラップの自給化は進む。そうなれば、余剰した日本の鉄スクラップはどこに行くのか。もっと大きな国際市場に出ていくしかない。インフラもノウハウも、その準備が日本の産業には全くない。どのような事業でも日々、一生懸命稼ぐ商売をしなければならない。しかし、経営とはその商売とは別に、5年10年先の手を打つこと。だからこそ、扶和メタルグループでは10年先を見据えた企業経営に取り組み続けている」