1970年から00年まで、世界の鋼材消費量はほとんどゼロ成長。この間に鉄鋼業の市況は、先進国の経済循環でスウィングしてきた。それが00年以降の鉄鋼業は7―8%の成長。この成長ドライブの背景には7、8年続く中国のけん引があった。
00年代の中国の成長は誰も予期しておらず、用意もしていなかった。例えば鉄鉱石や石炭。鉱山の設備も船も足りず、迎え入れる港の整備、鉄道網も不足していた。当時、あらゆる鉄に関するインフラが増えるとは考えられておらず、世界の粗鋼見掛け消費量上限も7、8億トンで、10億トンを突破するとは予想されていなかった。それがあっという間に2、3年できてしまったことでボトルネックが起こり、03、04年を基点に、大量消費を始めた中国を主役に資源の高騰が起こった。
原料需給の予想について結論を言えば、金融危機でいったん下がった市況は堅調さを取り戻しており、今後とも原料は情け容赦なく上がっていくと考えている。特に石炭は数少ない資源メジャーが権益として押さえてしまっている。さらに、中国が海外に石炭を依存し始めている点が大きい。これは鉄鉱石も同様。中国の鉄鋼業は今、量的、質的に非常な発展を遂げており、高品質な鋼材を造るため、歩留まりの落ちない輸入鉄鉱石のレートが上がっている。この影響で、海上貿易国である日本の原料も、来年にはおそらく、石炭、鉄鉱石とも価格は上昇すると思われる。そして鉄スクラップの価格も上がっていくだろう。
こうした環境下での鋼材市況の上昇は、コストプッシュ型のインフレーション。最大の背景は、資源メジャーによる鉄鉱石や石炭の寡占化。資源の寡占化が進み、資源価格が先行して上昇するなか、鉄鋼業界にはトッププレーヤーが多いことで価格が上がりづらく、業界全体としてはスクイズされる方向に動いている。
来年度にかけて、鋼材の消費は世界で6%程度成長すると考えている。世界景気は不安定で先進国経済の発展が難しいなか、中国、インドがドライバとなり、その都市化によって鉄、資源の消費は間違いなく伸びていく。そのなかで、日本の鉄鋼業の立ち位置は(1)鉄は内需型産業で輸出には限界がある(2)円高で輸出競争が厳しい(3)温暖化現象のハンディキャップという点で微妙。日本の鉄鋼メーカーが利益を上げられるかは別の話となるが、スクラップは非常に重要な原料として視線を浴び、向こう10年のスパンでも、高めの市況水準で推移していくと考えている。(UBS証券アナリスト)