アジアの需給見通しを追うと、韓国は1000万トン程度を冷鉄源で輸入している。輸入スクラップは700万トン程度で、米国、日本が4割ずつ、残りをロシアなどが補っている。その韓国電炉の粗鋼生産は、2008年から来年にかけての設備投資で約600万トン前後伸びる見通し。さらに現代製鉄の高炉も予定通り稼働すれば、すぐ1000万トン以上増えるだろう。だが韓国の鉄スクラップ需給は22年にミートするという話もあり、鉄スクラップの需要にどこまで結びつくかはまだ不明。13、14年の間、われわれは全く違った目で韓国を見ていく必要がある。
中国の粗鋼生産は、6―8月には月間5000万トンを超える過去最高の水準。さらに鉄鉱石の輸入も過去最高を毎月更新している。年間粗鋼生産量は6億トンに迫るペースで、スクラップの購入も1000万トン以上増加した。スクラップの世界の年間貿易量を1億トンと考えると、その10%を1年間で動かしてしまっている。世界粗鋼の4割以上をたたき出し、スクラップの貿易量も1000万トン単位で上下させる中国には、期待感もさることながら、あまりにも大き過ぎる存在が懸念される。中国に、ポジティブ要因も含め何かが起これば、今の世界の鉄鋼業界には、瞬く間にそのインパクトが波及するだろう。
日本の需給を見ていくにあたり、需要サイドでは、最大の顧客である国内電炉メーカーの数量拡大は10年も期待できない。これだけ建設需要が落ち込むと普通鋼電炉メーカーは厳しい。一方、高炉メーカーも来年は鋼材市況次第で購入量は大きく揺れると思う。残る輸出は、今年は年間トータルで1000万トンを超えることが現実味を帯びてきた。
供給サイドでは、今年は良くて前年比3割減。スクラップの価格動向が経済の先行指標なら、回収量は経済の遅行指標。経済活動が活発になった1、2クオーター後に発生が潤沢になる。そのため、自動車産業の回復があるものの、来年も発生が急激に増えることは考えにくい。だがこれにより、需給バランスはある程度保たれると考えている。
インドは人口11億人で粗鋼生産は5500万トン程度。中国より人口は1割少ないレベルで、粗鋼生産は約10分の1。去年のスクラップ輸入量は300万トン前後。これが中国と同様に離陸していくかどうかがカギ。
トルコは昨年の粗鋼生産が2600万トン。鉄スクラップの輸入が1700万トンという独特の国。一言で言えば、中東への鋼材供給地がトルコであり、国策としてそれを行っている。中東地域に需要がある限りトルコの粗鋼生産は増え、やはりスクラップの輸入も1500万―2000万トンを維持するだろう。
この先数年の需給見通しでは、やはり中国の動向が最重要。そしてインドが大輸入国に変身していく可能性、東南アジアでの鉄鋼需要増加など、不確定要因が多いものの、スクラップの需給はタイト化する可能性が高いと思う。近年、鉄スクラップは一鉄原料ではなく、世界経済環境を色濃く反映することを証明した。(三井物産メタルズ執行役員)