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産業新聞社主催/第1回日本鉄スクラップシンポジウム ― 拡大するアジアマーケット (5)

【パネル討論】
アジアの鉄スクラップ市場はどのように変貌をとげるのか
内外エンジン 「変貌」を追う
日本、巨大輸出国に / 内需縮小で「厳冬期」

日刊産業新聞 09/11/24

 日本の鉄スクラップマーケットは大きく言えば2つの要素、『内部エンジン』と『外部エンジン』が動かしているが、内部エンジンである鉄スクラップの内需は現在停滞している。2009年の普通鋼電炉全体の粗鋼生産量は2000万トン前後、もしくはそれを下回る見通しが出ていることに加え、一般的には先行きも厳しい状況が続くとみられている。一方、外部エンジンである鉄スクラップの輸出は08年の輸出量が543万トン、09年は1000万トンに達する見通しで、ここ数年高水準が続いている。日本国内のマーケットや、米国やロシアといった鉄スクラップ主要輸出国と中国や韓国など輸入国の10年の動向などに関し、4人のパネリストが考えを述べた。
パネリスト 韓光熙・東部製鉄社長
  中辻恒文・日本鉄リサイクル工業会会長
  山口敦・UBS証券アナリスト
  乗田佐喜夫・三井物産メタルズ執行役員
  重松憲治郎・産業新聞社常務(コーディネーター)
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 ――まずは中辻会長に、ピークアウトしたと言われる発生の問題や輸出動向、電炉業界について語ってもらいたい。

 中辻会長 「最近は新聞社のインタビューをすべて断っているが、それほど先の見通しは不透明。まず、ピークアウトとは決して、今から鉄スクラップの発生が減少していくという意味ではない。年間の粗鋼生産量が1億トンと仮定した場合、73年の年間の鉄鋼蓄積増分は3000万―5000万トン、ところが数年前からは1000万トン台で蓄積増分は推移している。鉄スクラップ発生の元となる蓄積量は増加しているが、蓄積量の増加率は年々減少傾向にある。今年生産している鉄が20―30年後にスクラップとして発生すると仮定した場合、現在は70年代後半から90年代後半あたりの蓄積分が市中に流通している。そういう意味ではピークに近いかもしれない」

 「03年ごろから鉄スクラップ市況が回復してきたものの、年間の鉄スクラップ発生量は大きくは増加していない。ここ数年間、鉄リサイクル企業は取扱数量でなく主にトン当たり差益で業績を伸ばしてきたが、その時に設備投資を行ったことが今現在、われわれの経営を圧迫している一つの大きな要因となっている。現状では自然増による業界の拡充化は非常に難しい」

中辻氏 発生減は経済要因

 「輸出について一つの大きな転換点と言えるのは、統計上で日本が鉄スクラップの純輸出国となった95年だろう。それまで鉄スクラップの商売は地産地消で、半径20キロメートル圏で発生するものを近隣のメーカーへ納めていたが、湾岸にストックヤードを設け鉄スクラップを輸出するという業態が始まった。以降、必ずしも近隣に輸出会社があるか否かにかかわらず、そういったものと密接に業務を行う会社の規模が随分と大きくなったと言える。90年から00年にかけ、小・中規模の企業と輸出市場を狙ったストックヤードを所有する企業に規模の差がかなりついてきたと思う。ただ、こういう大不況に陥るとおそらく、設備投資によりある程度規模を拡大した企業が苦境に立たされていると考えられる。山口さんが先ほどの講演で、株価が動いてから経済に影響が出るのは半年先と言っていたが、先行指数がある程度一致してから半年後に鉄スクラップの発生に結びつくとみている。発生は自然増という意味でピークアウトしたと言いながらも、現状の30―40%減は経済的なもので異常現象と言える。いつの時点か分からないが、ある程度の回復は見込まれるのでは」

 「それともう一点、業界が厳しい環境下に置かれていることもあり、『業界の寡占化』についてよく質問されるが現状では考えにくいと言える。現在、日本鉄リサイクル工業会に加盟している企業は商社を含めて800社前後だが、さまざまな企業があるため寡占化に向かうのは難しい。つい最近、米国の鉄スクラップ業者と鉄スクラップ価格がトン6000円だった01年当時の話をしたが、彼が言うには、価格が上昇するまで操業をシャットダウンしたそうだ。業として成り立つまで無駄なことはしないという発想だが、対してわれわれは何とか理由をつけて逆有償で対応しようという考えだった。企業経営に関する価値観が随分違うと実感した。シャットダウンも生き延びるための一つの方法だが、もし規模的な問題で自社の経営が成り立たない場合、本来そこにお金を費やす必要がないのだから、身売りや統合という選択肢が生じ結果的に業界の寡占化につながってしまう。この観点からとらえても、今回の大不況で日本の鉄リサイクル企業が寡占化に向かうことは考えにくい。現在、日本で年間100万トンの鉄スクラップを加工処理していれば、おそらく、処理量ではトップ5の企業規模となるだろう。だが仮に、年間の処理量が120万トン、市中老廃スクラップの流通量が2800万―3000万トン発生すると仮定した場合、それら企業の市場占有率はたかだか2―3%。処理量が月間5万トンの企業でもかなり規模が大きい言えるが、処理量を縦軸に、企業数を横軸にグラフを作ると、下の方に右横に長い線が固まる。これでは絶対に寡占化は進まない。ただし、コスト面での業務提携や出荷の共有化など、そういったことを通じて業界がまとまっていった場合、寡占化の方向に進む可能性は考えられる」

 「ここ数年、年間で数百万トンの鉄スクラップが輸出されているが、それは一つのエンジンとしてわれわれの業界にとって非常に良いことだと思う。ただ、ヤードディーラーにとっては、近隣のメーカーに安定的に供給するのが一番合理的。そういった状況下でここ数年間、日本国内の電炉メーカーが、今回の東部製鉄のような一貫したラインを立ち上げるというような大規模な新規設備投資の話を聞いていない。日本の電炉メーカーはいろいろな困難にぶつかっており、今は若干元気がなくなっている。メーカーが成長することに伴い、われわれも処理量や出荷量を伸ばし成長していく。そういう意味ではもう少し、電炉メーカーが集中的に製品戦略や技術の開発などを進め、ぜひとも活力ある姿を見せてくれれば」

 ――09年の鉄スクラップ発生量を約3200万トンとみているが。

 覚道氏 「行政の立場から言うと、鉄スクラップの発生量や取引状況を見通すのは非常に難しいことだ。この機会に鉄スクラップについて言うのであれば、今後、環境規制が厳しくなると、電気料金も含めエネルギーコストが上がり、電炉の生産減、スクラップ利用減につながる可能性もある。逆に高炉メーカーがスクラップ利用を増やす可能性もあり、スクラップ需要の構図は多少違ってくるのでは」

 ――鉄スクラップの発生量は今後、伸びないという認識で良いのか。

 乗田氏 「鉄スクラップに関して議論をする際、需要サイドの動向は粗鋼生産量などを基にすれば論理的に語ることができる。ただ、発生については、工場発生鉄スクラップに関してはある程度把握することができるが、流通量の60%を占める市中老廃鉄スクラップをカウントするのは容易でない。ここが明確であれば議論を進めることはできるのだが、確たる答えを出すことは難しい。昨年、国内の鉄スクラップ価格がトン1万円前後で推移していた時、末端の回収業者が機能しないという話しをよく耳にしたが、同様のことを米国の鉄スクラップシッパーからも聞いた。米国では集荷業者をペドラーと言うが、09年1―3月はこの方たちが全く機能しなかったと言う。決して、米国国内から鉄スクラップがなくなったわけではないが、価格により需要にミートするだけの供給がされていなかった。鉄スクラップの回収というものは、その時々の経済状況だけでなく、相場に対する人の心理的な部分も大きく影響していると言える」

山口氏 電炉再編望ましい

 ――日本国内の電炉業界について。

 山口氏 「電炉業界は現在、悲惨な状況下に置かれており、根本的な部分で改善が必要。09年の国内異形棒鋼生産量は700万トンといわれているが、来年はその水準を下回るのでは。日本の経済が良くならない限り、電炉業界の活性化はあり得ないとみている。また、現在の電炉業界の枠組みから述べると、まずは再編が望ましい。韓国の電炉業界は素晴らしくて、H形鋼のマーケットをみるとトップ3社で60%のシェアを占めていることに加え、各社フル稼働で利益を出すなどバランスが良い。国内電炉の再編が必須な状況下、個人的には共英製鋼と東京鉄鋼の統合話が立ち消えになったことは非常に残念だ」

 「ただ、世界に目を向けると、新興諸国の建設投資により条鋼類の需要は増加傾向にある。今のコスト構造だと難しいのは承知しているが、海外の成長にうまく対応していってほしい。そのためには、稼働率を上げ競争力をつけることが必須。CO225%削減が課題となっている状況下、高炉メーカーは鉄スクラップ購入量を増やすことが考えられ、高炉と電炉のコスト構造が近づく。電炉メーカーは競争力をつける必要がある」

韓氏 需要左右する“現代”

 ――韓国の10年の粗鋼生産量と鉄スクラップ輸入量について。

 韓社長 「韓国では東部製鉄や東国製鋼、現代製鉄が設備増強を実施している。これらを加味すると粗鋼生産量は09年比で1000万トンは増加し、6000万トン程度になる見通しだ。当然だがこれに伴い、鉄スクラップに対する需要も増加する。カギとなるのは現代製鉄の新高炉で、立ち上がりが順調か否かによって韓国国内の鉄スクラップ需要にかかわってくる。高炉メーカーが自家発生スクラップをどれくらい使うのかによっても違ってくるが、多く見積もれば10年の鉄スクラップ輸入量は1200万トンを少し下回る水準だろう」

 ――東部製鉄は本年9月、初めて日本から鉄スクラップを輸入したが。

 韓社長 「韓国では鉄スクラップの規格が完全に統一されていないため、国内で調達する鉄スクラップに関しては供給業者によってバラつきがある。それに対して、日本はどの企業でも『H1』なら大体それが認識できるものとなっている。品質に問題がなく当社にとっては非常に使い勝手が良いため、価格メリットがあれば利用しない手はない。米国から鉄スクラップを調達する場合は日本より輸送コストがかかるため、米国と日本を比較した場合、当社にとっては日本から輸入した方がメリットがある」

 ――米国から鉄スクラップを輸入する際、カーゴベースではなくコンテナ船を活用しているが、その理由は。

 韓社長 「コンテナ船での鉄スクラップ輸入はバルク船と比較し、輸送費が割安なことに加え個別管理が容易。品質面も安心できるし、小口で購入できるところもメリットと言える。引き続き、コンテナ船を有効に活用していきたい」

 ――日本の09年の鉄スクラップ輸出量は1000万トンに達するとみているが、10年も同水準で推移するのか。

 中辻会長 「国内電炉メーカーの減産率がどう推移するかによる。仮に鉄スクラップの発生量が前年比30%減、メーカーの生産量が40%減と現行のような形で推移した場合、09年の鉄スクラップ輸出量は1000万トンに達するかは断定できないが、800万トン程度にはなるのではないか。10年の輸出量に関しては現時点では何とも言えない。少なくとも、われわれは無理やり鉄スクラップの輸出量を増やしているわけではない。あくまで、経済原則に則った結果である」

 「話はそれるが山口さんが先程、電炉業界のことを明確に説明してくれたが、もし電炉メーカーの再編や集約が一気に進んだ場合、それを機にわれわれの業界もそうなる可能性が考えられる。鉄スクラップ業界では、ある程度の数量または継続的に品物を供給している企業に対しメリットが与えられるとか、あるいは商品の品質が高いところに発注が集中するといった事象がない。これも企業の集約化につながらない要因だ。仮にあるメーカーが統合し、ヤードディーラー1社に対するミニマムの買い付け量が2000トン以上となった場合、それをクリアできる企業とそうでないところが出てくる。そういった流れになると恐らく、われわれの業界も集約や資本提携といった動きが一気に進むだろう。私は以前から、商社が鉄リサイクル企業に手形を出したらどうかと言っている。無理やり差別化を図る形になってしまうが、仮に集約されることが業界の浄化を促進することにつながるのであれば、金融面で企業間の差をつけるのも一つの手段ではないか。ただ、それを決行した場合、商社がヤードディーラーから鉄スクラップを集めづらくなるが」

 ――鉄スクラップの商圏が拡大している状況下、商社の収益は悪化しているという話を聞いた。商社の鉄スクラップ事業に対する取組などについて。

 乗田氏 「商社にとって鉄スクラップの商売には歴史があり、当然だが、われわれは生きていくためにいろいろな将来像を描いている。ただ、日本には特殊鋼を含め40社以上の鉄鋼メーカーがあるため、そう簡単に戦略を立てることはできない。ある業界関係者は、『現在米国の大手鉄スクラップシッパーは2、3社だが、日本もいずれ米国と同じようになるのでは』との持論を述べているが、商社が業界の集約を主導するという形にはならないだろう。われわれが現在生き延びているのは、その時々と少し先の経済状況を見据えながら、自分たちの姿を変化させてきた結果と言える。収益に関して言えば、去年のショックを引きずっている状況で、思っているほどの収益を上げられないのが現実」

乗田氏 米輸出は安定推移

 ――鉄スクラップ輸出国の動向だが、10年の米国の輸出量を3000万トン、ロシアはゼロから100万トンという認識は妥当か。

 乗田氏 「米国の08年の鉄スクラップ輸出量は2100万トンだったが、その何年か前は1000万トン台で推移していた。鉄スクラップの輸出は需給バランスとインフラが整わないと行えない。米国の鉄鋼操業率は60%位に回復したが、あの広い国には鉄スクラップが多く余っていると推測できる。ただ、それをどう評価するかだが、やはり3000万トンという数量は5年前の2倍半となる。ちょっと行き過ぎだと思う。世界経済の伸び具合にもよるが、2000万―2400万トン辺りで着地するのではないか。大きな増減は考えにくい」

 「ロシアに関しては例えば、カムチャツカ半島の西の港からしか鉄スクラップを輸出させないとか、日本からの輸入中古車に高い関税をかけ実質輸入禁止にするなど、経済学と少し違った論点があまりにも多い。ただ、さすがにゼロという数字は考えにくい。現地の鉄スクラップ企業も生きていくために色々なことを考えて商売しているはず。ロシアの輸出量減は韓国の鉄鋼メーカーにとってはうれしいニュースではないのでは。鉄スクラップを韓国へ輸出するプレーヤーが一人いなくなるのだから」

 山口氏 「米国の輸出についてだが、中国の粗鋼生産量がポイントとみている。中国の10年の粗鋼生産量は09年比で8000万トン増との見通しだが、見掛け消費という観点からみると中国は来年の需要を先食いして生産している。このため、需給をミートさせたいのであれば、本来なら粗鋼生産量は4000万トン増でなくてはならない。加えて、先進国の動向にもよるが、09年から10年にかけての生産の勢いは鈍化しないとつじつまが合わない。ただ、一つだけ分からないのが、中国国内では投機目的で鋼材や鉄スクラップを買うという事象があることだ。先高とみれば一斉に買いに動く。そういったことが起これば、米国は中国に対し鉄スクラップを大量に輸出する可能性がある」

 ――鉄スクラップの輸入国であるトルコについて。

 乗田氏 「トルコは鉄スクラップ自給率をあまり考える必要がないため、ある意味、とてもわかりやすい国。高炉メーカーが1社あるが生産量が少ないため、まさに粗鋼生産量の増減が鉄スクラップ輸入量に直結している。現地では建設用鋼材をメーンに生産、それをお金のある中東諸国に輸出し利ざやを稼ぐ中継加工貿易をしている。輸出先が産油国なため、トルコの生産活動は原油の価格次第と言える。ただ、残念ながら産油国は人口が比較的少ないため、中国やインドみたいに人が鉄を呼ぶのではなく、お金が鉄を呼ぶ図式だ。産油国に潤沢な資金がどれだけあるかにより勝負が決まると思っている。原油の価格が大きく下落しない限り、トルコは鉄スクラップの大輸入国であり続けるのでは」

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日時:
2009年11月13日 13時00分―17時00分
場所:
鉄鋼会館(東京・茅場町)8階大ホール
主催:
(株)産業新聞社
協賛:
(社)日本鉄リサイクル工業会
後援:
経済産業省、普通鋼電炉工業会、(社)日本鉄源協会
総合司会: 谷藤真澄・産業新聞社執行役員編集局長
  1、開幕、主催者挨拶
 山村俊郎・産業新聞社社長
2、特別講演
 「東部製鉄の経営戦略」韓光煕・東部製鉄社長
3、テーマ別講演
 (1)「日本経済の現状と鉄鋼産業の今後の方向性」 覚道崇文・経済産業省鉄鋼課製鉄企画室長
 (2)「世界の鉄鋼需給見通し」 山口敦・UBS証券アナリスト
 (3)「世界の鉄スクラップ需給見通し」 乗田佐喜夫・三井物産メタルズ執行役員
4、パネルディスカッション
 テーマ:「アジアの鉄スクラップ市場はどのように変貌をとげるのか」
 パネリスト:韓光熙・東部製鉄社長、中辻恒文・日本鉄リサイクル工業会会長(中辻産業社長)、山口敦・UBS証券アナリスト、乗田佐喜夫・三井物産メタルズ執行役員、重松憲治郎・産業新聞社常務取締役(コーディネーター)


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