中国広東省の清遠市。総面積1万9015平方キロメートル(岩手県の1・2倍の広さ)、人口390万人の同市から、日系自動車メーカーやダイカストメーカーなどの工場が集中する広州市までは北に100キロメートルほどだ。清遠市内には非鉄原料問屋や二次合金メーカーが多数あり、広州に工場を構える自動車関連メーカーにとっては、重要な原料供給先となっている。だが、世界的な景気低迷の影響などで、今春以降、清遠市に集荷される非鉄スクラップが大幅に減退しているという。
清遠市内を車で移動していると、荷台に雑線やアルミビス付きサッシなどを山積みにして走行するトラックや、三輪バイクを頻繁に目にする。ただ、地元業者によると、景気が悪くなる前と比べ、こうした車の数は半分程度にまで激減しているという。確かに取材に訪れた7月末、まだ午前中だというのに、人通りの多いにぎやかな区域の道路脇には、仕事がないためか駐車したままのトラックが少なくない。
清遠市清城区にある工業団地「石角華清工業園」とその周辺地域には、さまざまな規模の非鉄スクラップ業者がひしめいている。一説には「清遠市全域で大手から小規模な問屋も含め200―300社は下らない」(関係者)とされる。
工業団地内の業者は例外なく、ヤードの外壁が高さ4メートルほどのタイルもしくはレンガ張りになっており、引き取りや持ち込みトラックの入出以外、門は施錠されている。団地の外にある中堅以上の原料問屋のヤードも同様のつくりになっている。防犯のためと思われ、外部からはヤード内にどのような品物が積まれているか、操業しているのかなど内部の様子は全く分からない。
「需要は旺盛なのに、5月ごろからモノの集まりが悪くなっている」と今回取材に応じた地元の非鉄原料業者は語る。同市に集まる雑線やアルミ系スクラップはその大半が米国から輸入される。不況に伴い米国の発生量が大幅に減退しているため、同市に入荷される非鉄スクラップの数量も急減しているようだ。
地元業者はまた、今春からコンテナの検査が厳格化され、モノの流れが悪くなっていると指摘する。中国政府は車やバイクなどの中古エンジンの輸入を全面的に禁止している。だが、年明けから悪質な業者が、コンテナの8分ぐらいまで新品同様のエンジンを積み、入り口をミックスメタルや雑品などで覆うなどし不正申告するケースが多発した。
こうした違法行為を取り締まるべく、春に入ると、政府は入港した非鉄スクラップに対して、パワーショベルなどの重機を使い、無造作にコンテナをひっくり返して中身を検査し始めた。取材したアルミ原料問屋のヤードには、検品の際に重機で食いちぎられたとみられるフレコンバッグから、機械鋳物やモータースクラップなどがこぼれ、地面に散乱していた。この業者は「選別作業が非常にやりづらい。われわれのようにまじめにやっている業者が割を食っている」と嘆く。また、税関の検品作業に大幅な時間がかかるようになった影響で、「1日当たりに処理されるコンテナ本数が10分の1程度にまで減少しているのではないか」と地元業者はみている。これに伴い港に船積みが到着してから、荷物がヤードに届くまでの時間が大幅に延びているという。
不正な業者に対して多額の制裁金のほか、懲役刑まで科せられるなど罰則が厳しくなったことで「この1、2カ月の間に悪質なブローカーはほとんどいなくなった」(地元業者)とみられ、こうした政府の対応策が一定の効果を上げているようだ。とはいえ、現在も港での厳正な検査は続いており、問屋業者は「一刻も早く、通常の状態に戻ってほしい」と願っている。