銅スクラップの需要家である伸銅、銅箔メーカーと納入業者が結ぶ7―9月期の長期契約交渉が始まったが、両者の思惑に温度差が広がっている。極度の発生不足で採算悪化著しい納入側はメーカーの購入価格条件の改善を期待したが、メーカー側は条件を据え置く方針。思惑のずれは今後、長契主体の両者の関係に変化をもたらすかもしれない。
今月初め、大手電解銅箔メーカーが商社や原料問屋に通達した7―9月期長契の価格条件は、前期から据え置きだった。納入業者は「東日本大震災と5月の相場急落の影響で、市中の発生量が品種によって4―5割も減っている状況を把握しているのか、メーカーに危機感が感じられない」(大手原料問屋)と冷ややかだ。
納入側の不満は「数量抑制」という形で顕著に表れた。複数の関係筋によると、同社は数量も横ばいを要請したが、多くの納入業者が数量の削減を回答。「メーカーが予定した数量には大きく届かなかったようだ」との話が寄せられる。
一方で、「プレミアム(割増金)をトン当たり数千円乗せたところで状況が改善するのか」(伸銅メーカー幹部)との指摘もある。実際、足元の発生の少なさは「相場が暴落した2008年秋のリーマン・ショック後以来のレベル」(都内の直納問屋)で、値段を張れば買えるような状況を通り越している。
ただ、リーマン後と異なりメーカー需要は落ちておらず、問屋各社には「売値を上回るような高値手当ても辞さず、納入義務を果たしてきた」(同)との思いがある。メーカーの冷静な対応にやりきれない思いをぬぐえない。いまのところ契約交渉を終えたメーカーは一部だが、「ほとんどのメーカーで価格条件を改善は期待できない」(同)。
メーカーには原料不足に対する焦りがないのか。関東の大手板条メーカーは、発生不足を見越して4月に手当てしたスポットの輸入玉が今月到着した。同時に電気銅の調達も増やしている。別の大手黄銅棒メーカーも、今月は電気銅の調達量を通常の倍程度に増やし、電気亜鉛も震災直後に大量輸入。原料不足による生産への不安はないという。
ある伸銅メーカー幹部は、「ナゲットしか使用できない電解銅箔メーカーなどを除けば、伸銅品は基本的に電気銅や電気亜鉛などの地金で造れる。スクラップがなければ、多少割高でも地金で補えば済む」と本音を漏らす。
メーカーがスクラップを使うメリットはハンドリングの良さなどもあるが、基本的には地金より原料単価を抑えられることにある。品薄とはいえ、スクラップ購入価格を安易に引き上げることに抵抗感があるのも事実だ。
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長契主体の原料問屋には、スポットとのバランスを取った経営スタイルへの変革を迫られているのではとの危機感がある。「いま利益を出しているのは、相場の上げ下げを見ながらスポットで仲間問屋やメーカーに売っている業者。長契主体では売り手主導の高値誘導に踊らされるだけ」(同)との考えが定着してきているためだ。
スクラップがダブつけば、一定期間の販売量を確定させられる長契枠は武器となる。しかし、昨年から慢性的にタイトな状況が続き、問屋側が長契のメリットを感じにくくなっている。
目先はまず、「市中の極端な高値競争を鎮静化させ、体力勝負になるのだけは避けるべき」(大手直納問屋)との指摘がある。7―9月期は多くの問屋が1―3割程度、今期より長契枠を縮小するとみられ、過熱感が少しでも収まることに期待が集まる。10―12月期は、自動車生産の回復などからスクラップ需要もさらに増加するとみられる。売り買い双方が長契の在り方を考えていかなければならない。