かつてない相場急落にほんろうされた10月が終わった。トン73万円で始まった10月積み銅建値は1カ月間で8回改定され、3年ぶりに50万円の大台を割り込んだ。銅スクラップを扱う原料問屋は在庫評価損の拡大による赤字経営に追い込まれ、輸出停滞など流通面の影響も表れた。投機対象として沸いたバブル相場のもろさが露呈した今、銅リサイクル業界は直面する課題をどのように受け止め、克服していくのか。
9月15日、米4番手の証券大手だったリーマン・ブラザーズが経営破たんを発表。サブプライムローンの根深さを知り、世界の金融市場に暗雲が立ち込め始めた瞬間だった。
この2カ月半前の7月4日。ロンドン金属取引所(LME)の銅相場は現物セツルメントでトン8985ドルの史上最高値を記録した。国内指標となる銅建値も半年ぶりに100万円の大台を回復。例年に違わず銅需要が落ちる8月に向けて下落したものの、7000ドル付近まで下がるとモミ合い、リーマン破たん後も同水準を維持していた。
しかし、米国発の金融不安が欧州にも波及し、各国で金融機関に対する公的資金の注入が発表され始めた9月末。欧米の景気後退を不安視したファンドの換金売りが加速したことから株式市場の暴落が始まった。
原油、非鉄金属などの商品市場も換金売りから逃れられず、LME銅は9月26日の6926ドルから1カ月後の10月27日には3686ドルまで47%も暴落。同期間で銅建値は78万円から41万円に、銅スクラップの代表品種である1号銅線相場はキロ715円から350円にほぼ半減した。
9月末の時点では、銅相場の底値は「LME6000ドル」「建値で70万円」あたりを予想する向きが多かった。その予想は相場の下落に合わせて60万、50万と切り下がっていったが、「こんなに早く40万円際まで落ちるとは夢にも思わなかった」(都内の原料問屋)。この数年間で定着した相場感覚は崩れ去り、今では底値を30万円とみる声すら聞かれる。
相場が下がるたびに原料問屋は手持ち在庫の評価損が膨らんだ。高い在庫評価を足元の安いスクラップで薄めようとしても、安値と思って買ったものが次の日には赤字在庫になるような状況で、「いくらで手当てすればよいか分からない」(同)と、問屋は日を追うごとに弱気になっていった。
足元の相場でスクラップを仕入れることも困難だった。市中のスクラップ発生量は7月に高値をつけて以降は漸減傾向が続いていた。この暴落で在庫を「塩漬け」にする売り手も出てくるなど、発生状況がさらに悪化したためだ。
メーカーとの間で納入契約を結ぶ直納問屋には一定数量の納入義務がある。高い在庫を切り崩しながらなんとか納入を履行した問屋からは、「10月は仕入れ値より高く販売できたスクラップがほとんどなかった」(同)という厳しい声が聞かれ、ほとんどの問屋が単月赤字を避けられなかった。
それでも、国内メーカーに納入している問屋は出荷できたからまだ良かった。在庫を換金できれば赤字を計上しながらでも資金は循環する。相場水準が下がった分だけ必要な運転資金が少なくなるため、一時的な相場急落なら在庫を切り崩してしのげる。
これに対し、スクラップ輸出は相場の暴落に出荷停滞が追い打ちをかけ、より厳しい状況に陥った。
銅スクラップ輸出は向け先の90%前後が中国。急速な経済成長を遂げてきた中国は8月に開催された北京五輪特需などもあり、この数年でスクラップ需要が右肩上がりに増えた。
国内処理では選別費用がかさんで採算の合わない雑線や込み黄銅、そして雑品といったスクラップは現在、そのほとんどが中国向けに輸出されている。輸出の活況に伴い、日本のスクラップ輸出業者はこの数年で急速に成長した。
しかし昨年、米国でサブプライムローン問題が浮上してからは欧米で住宅、自動車といった主要産業が冷え込み、「世界の工場」たる中国産業にも影響を与えた。
日本からのスクラップ輸出に本格的な陰りが見え始めたのは本年初夏。五輪開幕を控えて工場の操業規制や交通制限が敷かれたことがきっかけだ。五輪閉幕後も中国バイヤーの引き合いは戻らなかった。中国における金融引き締めの強化により、銀行からの融資を受けにくくなったことがバイヤーの慎重姿勢を後押したとの指摘もある。