昨秋以降の世界的な景気悪化を受け、普通鋼電炉鋼材、鉄スクラップ価格ともに1年前と比べて半値近い水準で推移している。とくに主要建設資材である異形棒鋼やH形鋼需要は民間、公共ともに建設需要が振るわず、長期低迷の様相を呈している。鉄スクラップは内需減退も中国向けを中心とした輸出が大幅に増加。グローバル商品化を加速させる一方で、「取扱数量の減少による経営悪化は深刻化しつつある」(ヤード経営者)という。かつて車の両輪と呼ばれた、普通鋼電炉メーカーと鉄スクラップ業者それぞれの“今”に迫る。
今年1―6月の国内鉄スクラップ供給量(日本鉄源協会まとめ)は、約1450万トンと前年同期比48%減まで落ち込んだ。「鉄スクラップの発生・流通・回収量は、景気動向を映す鏡だ」(ヤード大手)というように、マンションやオフィスビルなどの大幅な着工減を受けて建物の解体は進まず、自動車など国内の製造業は軒並み不振に陥って生産縮小を余儀なくされ、全国的に鉄スクラップの発生が滞ったためだ。
「経済活動が停滞すれば、鉄スクラップの発生が落ち込むのは当然のこと」(同)という大手ヤード筋では、取扱量は建物解体がピーク比で約30―40%、鉄鋼関連工場からの発生品ついては50%以上減少したという。
発生減で過当競争 / 適正利益 確保難しく
鉄スクラップ業界では、仕入れ価格と販売価格の売買差で利益を得る。「仕入れと販売の値差は、ギロチン加工処理なら一般的にトン5000―7000円あれば、加工処理費用などを引いても利益が出る」(ヤード筋)が、現実にはそれほどの値差をとるのは難しいのが現状だという。鉄スクラップの発生減による仕入れ流通段階での過当競争が原因だ。
とくに今年は過当競争が激化しているようだ。大型物件の解体、工場からのまとまった鉄スクラップの発生が例年以上に少なく、「そういった入札では、地場電炉買値をはるかに上回る価格が出るのも珍しいことではなくなった」(中堅ヤード)。
電炉メーカーが製品需要の停滞から大幅減産を余儀なくされ、鉄スクラップ国内需要が減退する一方、中国を中心とした東アジア向け輸出が急増したことも市中の流通に影響を与えている。「鉄スクラップ消費が進まない電炉、取扱量の減少に歯止めをかけたい商社、売り先を確保したい鉄スクラップ業者という動きが重なった」(商社)ことで、鉄スクラップ輸出は加速。国内市況を買い支える半面、中小問わず全国的に輸出業者が増加し、なかには「輸出専業の業者が直接、鉄スクラップ発生工場に価格を提示し、買い付けることもある」(商社)などを問題視する声も聞かれる。
国内鉄スクラップ市況は中国を中心とした東アジア各国の需要増によって今年4月から上昇に転じ、8月には2008年10月以来、約10カ月ぶりに指標品のH2価格がトン3万円に到達。中国向けを中心とした東アジア向け輸出の停滞によってそのわずか1カ月で反落し、10月に入っても国内市況の下落に歯止めがかからず、国内H2価格は再びトン2万5000円割れに迫っている。
「その間、仕入れ価格が乱高下するケースも多く、4月以降は相場に救われた部分は少なくない」(ヤード経営者)ものの、同時に「取扱数量の減少による過当競争の激化、売買差の縮小など、慢性的かつ大きな問題は市況の上昇で隠れているだけ」(同)で根本的な部分は何も変わっていない。
国内市況が続落するなか、下期は生産が回復に向かう高炉・特殊鋼メーカー向けなど国内鉄スクラップ需要は増加が見込めるものの、ヤード取扱量の大きな回復は今のところ見込めない。「今年はこれまで蓄えた会社の財源を削って経営しているようなもの。今後、扱い減に加えて仕入れの過当競争による売買差の縮小は致命的。来期もこの状況が続けば経営に行き詰まる可能性もある」(中堅ヤード)。
鉄スクラップ加工設備の新設はここ数年で大幅に増加したが、国内流通量の減少で稼働率の低下が問題となっている。「取扱数量の確保は死活問題。好況期に大型投資を進めた業者を中心に、今まで以上に商圏を拡大する動きなどが広がるのでは」(同)と危ぐする声も出始めている。
鉄鋼製品、鉄スクラップとも活況を呈した時期から1年。国内の市場規模が縮小するなか、どこに活路を見いだすのか。生き残りをかけて、鉄スクラップ業界は岐路に立たされている。