出席者:
普通鋼電炉工業会猪熊研二会長(合同製鉄社長)
高島成光副会長(共英製鋼会長兼CEO)
日本鉄リサイクル工業会鈴木孝雄会長(鈴徳社長)
中辻恒文副会長(中辻産業社長)
司会:
産業新聞社青木廉典編集局長
世瀬義久企画編集局長
司会=鉄スクラップ業界の将来について聞かせて下さい。
鈴木「米国のように企業規模が二極化するとみている。米国の鉄スクラップ流通形態は、ベースとなる集荷、加工業者は主にファミリー企業で構成されており、全米で4000―5000社ある。それ以外に、鉄スクラップの輸出業者は1ヤードの取扱量が月間10万トン超と規模が大きい。最大手の鉄スクラップ業者は年間取扱量が500万トンを超えており、年間300万トン超でも5―6社ある。日本では90年代まで大、中、小のヤード業者がそのままの形態で存続すると思っていた。だが、90年以降は総合リサイクル業化の波が押し寄せ、自分の置かれた状況においてビジネスモデルを
変える必要性が出てきた。自動車、家電、建設リサイクル法などにより、土地、設備、リサイクル技術など相当な経営資源が必要となった。マニュフェストも廃棄物一つずつに必要となり、会社の業務全体をIT化しないといけない。00年以降はその動きが顕著になり、それを取り込んだ力のあるヤード業者が急速に業績を伸ばしている。電炉業では共英製鋼、東京鉄鋼が独自で破砕機(シュレッダー)を設置し、廃棄物を焼却炉に投入し再資源化している。建設廃棄物を扱う業者が鉄スクラップ業に進出するケースもあり、最終的に強い企業が残る」
司会=鉄スクラップ業界では人材採用の面で苦労はありませんか。
中辻「最近の学生は鉄スクラップ業という認識でなく、環境リサイクル業としてとらえている。環境リサイクルを志す学生は多く、昔と比べ採用しやすくなった。とくに、00年に循環型社会形成基本法が施行されてから、学生の意識が変わった。中には“日中リサイクルネットワーク”と題した論文を書き修士号を取っている人もいる。10年前には考えられなかったことで、企業の姿勢次第ではないか」
司会=鉄スクラップ業は将来の期待が持てる業種ですね。
中辻「鉄スクラップ問屋時代は外からみると何をやっているのかよくわからず、少なくとも大企業が投資する魅力はなかった。だが、法律や枠組みを整えると、ノウハウを蓄積している企業は応用展開し始めた。大企業でも廃棄物の無害化技術などを行う過程で、鉄スクラップビジネスに乗り入れる企業が出てきた。既存の鉄スクラップ業者は鉄リサイクルを専業としてやってきたが、必要に迫られて統廃合が進む可能性がある。総合化と専業化など、企業経営者の価値判断が分かれそうだ」
猪熊「鉄スクラップは重要な資源で、出てきただけの量は使われる。鉄スクラップ需要が減っても、価格が安くなるため高炉メーカーが使う。昨年の世界の粗鋼生産量11億トンのうち、5億トンが鉄スクラップによるもの。粗鋼が11億トン、12億トンと増える限り、鉄スクラップだけでは追いつかないため、鉄鉱石とコークスから造る高炉法が利用される。だが、世界の粗鋼生産量の伸びが止まると、鉄スクラップを使用する電炉法が増加する」
中辻「将来の鉄スクラップビジネスは、輸出で事業を伸ばすのではなく、マテリアルリサイクルの一環として鉄スクラップを扱っている業者が成長しそうだ。中国国内では鉄スクラップの回収率が急速に高まっており、韓国においても10年から15年にかけて鉄スクラップ自給率が100%になる見込み。いずれかは韓国も日本と同様に鉄スクラップの純輸出国に転じる。15年ごろには東アジアで売り切れない可能性が出てくる。インドなど遠方に輸出するケースを考えた場合、現状では3万―4万トンの玉を集めて売ることは難しい。その時点でいろいろな環境リサイクル技術を蓄積をしてきたところが、急速に力を伸ばすのでは」
鈴木「日本における鉄鋼蓄積量の推移をみると、最盛期である20―30年前は年間4000万トンの割合で増えていった。市中鉄スクラップの発生元となるものだが、ここ数年は増加量が1200万―1300万トン程度に減少しており、将来鉄スクラップの発生量は減るかもしれない。そういった意味でも、環境リサイクルビジネスは飛躍する可能性を秘めている」
中辻「日本の粗鋼生産量1億トンのうち、7000万トンは日本に残る計算だが、そのうち約半分は車など中間製品として輸出されている。60、70年代ほど日本の鉄鋼蓄積量は増えないと思う。鉄スクラップのリサイクルについては、地域密着型の処理が理想。仕入れコストのかからない集荷をやり、近隣の製鉄メーカーに供給する」
猪熊「今も基本的にそうなっている。使えないものが輸出されているだけで、基本的に地域に密着している」
座談会<上>
座談会<中>
座談会<下>