<最終回> |
中国に替わる新たな供給国の開拓やリサイクル技術開発――日本のレアメタル資源確保の動きは「黎明期」を迎えている。ただ、資源が一部地域に偏在するレアメタルの特性を考えると、海外の資源開発は容易ではない。レアメタルの中でも中国依存度が特に高い希土類。永久磁石向けに需要が急増しているが、磁石の性能を高めるジスプロシウムなど重希土類の資源不足が懸念されている。重希土類資源を研究している産業技術総合研究所の渡辺寧・鉱物資源研究グループ長にインタビューした。
――研究内容から。
「ジスプロシウムなどの重希土類元素が存在する地域や埋蔵量などを明らかにする研究をしている。希土類の資源量は、永久磁石の主成分であるネオジムやサマリウムなどの軽希土類も全て含めると、採掘可能なもので世界に推定8800万トン存在するといわれている。年間消費量は約13万トンだから、開発すれば数百年間分という十分な資源量がある」
――なぜ重希土類を研究するのか。
「軽希土類は世界各地にあるカーボナタイト鉱床から生産されているが、重希土類の含有量は少ない。重希土類は主に中国の花こう岩が風化してできたイオン吸着型鉱床から生産されている、ただ、イオン吸着型鉱床は中国南部に偏在しており、規模はカーボナタイトの100分の1、1000分の1程度しか存在しないため、供給源は極めて脆弱(ぜいじゃく)だ。さらに輸出規制強化の動きから中国からの供給量が減少傾向にある」
――中国以外の希土類はどこにあるのか。
「資源保有国はブラジル、ロシア、米国、オーストラリアだが、生産しているのはロシア、インド、マレーシアなどで、それぞれ年2000―3000トン程度しかない。中国の8万―10万トンと比較すると非常に小さい」
「希土類価格の高騰により、米マウンテンパスや豪マウントウエルド鉱床が08年に操業を開始する予定だ。しかし、この2つは希土類の量は多いが、カーボナタイト鉱床のため重希土類は少ない。それぞれジスプロシウムの確定鉱量は1000トン弱とみられる。日本のジスプロシウム消費量は年700トン弱だから、2年分にも満たない資源量しかない」
――中国以外に重希土類を供給できる可能性はあるのか。
「中国南部のイオン吸着型鉱床で起こるのと同じ現象が東南アジアで確認されている」
――同じ現象とは。
「温暖で降水量が多い気候の下で、希土類を含む花こう岩の地表付近が風化して粘土層が形成される。粘土鉱物はマイナスイオンを帯びている。そして希土類元素はプラスイオンを帯びているため、電気的に結合し、粘土層に希土類が吸着されて濃縮される」
「日本の足摺岬などにも希土類を含む花こう岩が確認されている。残念ながら、日本は地表面の粘土層が非常に薄いため、そこに希土類が濃縮しておらず、鉱床として開発できるものはない。中国では地表部の粘土層の厚さが20―40メートルある。これに相当する厚みがないと鉱床として開発できないだろう」
――重希土類が多い花こう岩の特徴は。
「花こう岩の主成分であるシリカが70%以上の花こう岩に重希土類が多い。これらはマレーシア、タイ、ラオス、ベトナムで確認されている」
――重希土類の確保には何が必要か。
「重希土類が多いイオン吸着型鉱床を開発することと、新しいソースを探す必要がある。私たちは後者に力を入れている。そのうちの一つが層状マンガン鉱床というものだ。層状マンガン鉱床の一部に希土類元素が多い鉄マンガン鉱床がある。重希土類の含有量もトン当たり1800グラムあり、現在マンガン鉱石を採掘している鉱山で副産物としてなら経済的にも回収できるだろう」
「マンガン鉱床は南アフリカ共和国が多い。鉄マンガン鉱床もある。現在は南アフリカ産の鉱石に重希土類が含まれているか分析しているところだ。この結果を基に、調査地域を決めて実地調査を行いたい」
――今後の目標は。
「世界の重希土類の埋蔵量評価と、個々の鉱床でどれくらい重希土類元素があるか見積もることが当面の目標だ。例えば亜鉛鉱石の副産物であるインジウムの埋蔵量は10年分程度といわれているが、しっかり分析すれば埋蔵量が増える可能性もある。日本は消費国として、しっかり資源評価をする責任がある」
(増田 正則)
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