中国市場に変化の兆しが出ている。電力、鉄道などのインフラ整備に重点投資される4兆元の景気対策。これにより年明けから世界の非鉄金属産業、とくに銅にとっては需要と価格の両面を押し上げる効果があった。しかし、これまでの中国買いが本当に実需に結びついたかどうかは、市場関係者の間でも意見が分かれるところ。銅の国際相場は中国要因などで昨年12月の安値から70%上昇しているが、中国への過度の期待感がはげ落ちれば相場急落は必至。週明けの相場動向を見るとすでにその兆候が表れている。
中国では年初から銅スクラップ需要が高まった。一方、日本では需要が回復せず相場も低迷。割安感が出た日本産スクラップを中国筋は高値攻勢で積極的に買い付けた。
3月中旬以降は銅相場の上昇速度が速まったこともあり、中国向け価格は連日のように上昇。「輸出業者の買値が午前より午後のほうが高い日もあった」(都内の直納筋)というほどの急騰ぶりを見せた。代表的な輸出向けスクラップである込み黄銅の市中相場は、4月初めのキロ210円から2週間余りで275円と約3割上昇した。
従来はほとんど輸出されなかった銅スクラップも、中国筋が市中相場を大きく上回る価格で買い付けはじめたことで輸出が拡大。銅分99・99%の高品位スクラップである1号銅線は、中国向け価格が国内銅地金価格の指標になる銅建値を上回るという異常事態にまで至った。
極端な中国向け価格の高騰に、原料取扱筋は警戒感を強めた。中国筋はこれまで、旺盛な買い気を示したかと思えば、一転して手控え姿勢に転じることが多かったが、その潮目が変わるタイミングは「高値感が出てきたとき」(同)という認識があったためだ。
ロンドン金属取引所(LME)銅相場が昨年末の直近安値から7割強上昇し、「そろそろ中国筋に高値感が広がり始めているのではないか」と原料扱い筋が警戒し始めた直後、今週に入ると複数の銅スクラップ輸出業者から「中国筋が大幅に買値を下げてきた」という話が寄せられるようになった。
先週末に天津のバイヤーと交渉した大手原料問屋は、「1号銅線の買値を520円強から一気に50円近く下げてきた」と話す。込み黄銅は高品位で量がまとまれば輸出業者が350円で買い付けるケースがあったが、週明けからは310円程度まで切り下がった。
警戒していたとはいえ、LME銅相場が底堅く推移していた中での中国筋の方向転換に原料取扱筋は驚きを隠せない。ある大手輸出筋は、「多くの中国筋が5月は相場が崩れるとみているようだ」と指摘する。
年間を通じたような中長期的な見方では、中国の銅スクラップ需要は引き続き底堅いとの見方が大勢だ。しかし目先に関しては、「中国筋は次の底値を探りながら慎重な手当てを続け、状況が一変するだろう」(大手輸出筋)との憶測が飛び交う。
市中には、中国向けの高値取引が沈静化することで「市中相場に秩序が戻る」(都内の直納筋)と好意的な見方もある。ただ、内需回復にまだ時間がかかりそうな状況で、中国向けにブレーキがかかることは、スクラップ業界の活気を奪うことになりかねない。