米、欧の金融危機を発端とする世界景気の悪化が一段と深刻化している。自動車、家電といった日本の基幹産業も大打撃を受けており、それに伴って原材料である非鉄金属の内需も減少している。ただ、隣国の中国に目を向ければ4兆元(58兆円)の景気対策が効果を上げており、日本国内の非鉄金属が中国をめざして一斉に動き始めた。中国需要は昨秋以降の価格急落と需要減に見舞われている日本の非鉄金属産業の救世主となるのか。年明け以降の中国向け輸出の動向を追った。
2009年1月から拡大傾向が続くアルミ原料の中国向け輸出。日本国内の需要激減が長期化する中、原料市況はノミナル安が加速し国際市場における日本のアルミ原料に割安感が強まっているためだ。国内の売り先確保に苦慮する問屋側にとっては、販売量を少しでも回復するための好機。ただ、現在の中国筋の買いは、中国の内需に見合うものではなく思惑買いが大半を占めることから、中国向け需要には今後、多くを望めないとの弱気な見方も多い。
中国のアルミ原料選別工場 |
中国大陸の南に位置し東シナ海に面する中国広東省。経済特区を有する同省は中国有数の工業地域だ。2月初旬、アルミ再生塊ベースメタルメーカー、斉藤エンジンの斉藤喜一会長は、同省北部にある清遠市の工業団地、「石角華清工業園」を訪れた。同所は鉄・非鉄金属スクラップ工場が500社以上も集中する中国最大規模の工業団地。輸入された鉄、アルミ、銅、電線スクラップを原料として使用する。工業団地周辺は一般住宅地になっており、家内工業でナゲットに加工する民家が立ち並ぶ。斉藤会長は「工場は門扉を閉めているところが多く、生産ラインや作業現場が見えないところもあった。稼働している工場も少なく、従業員の数もまばらだった」と言い、中国の生産状況は依然低迷していると語る。ただ、非鉄スクラップについては、「各工場のヤードに積み上げられたアルミ・銅などの非鉄原料は非常に少なかった。生産が少しでも上向けば原料不足に陥るのではないか」と予測する。
中国にアルミスクラップなどを含むミックスメタルを輸出するNNYの神保正徳社長は、「年明け以降、これまで取引のなかったトレーダーからの引き合いが増えている。輸出先は天津から広州まで中国全土に広がった」と語り、3月も同社としては過去最高水準となる数量を中国向けに出荷する予定だという。
新東亜交易100%出資子会社のアルミリサイクル(株)も、1―2月にかけてビス付きサッシなど1000トン近いアルミ原料を中国に輸出した。関東地区全域でも年明け以降、輸出業者を介したスクラップの中国向け販売が騰勢を強めている。
ただし、好調を続ける中国向けアルミスクラップ輸出が、中国の内需回復を上回るペースで行われていることは間違いない。中国側の多くは、春先以降の需要・相場回復を期待し、割安な原料を日本から思惑買いし、在庫として積み上げているとみられる。
輸出されたアルミ原料のほとんどが使用される中国のアルミ二次合金メーカーは、おおむねピーク時から比較して50%前後の稼働率で推移している。上海シグマのように、アルミ二次合金の輸出割合が大きい一部の大手メーカーは、操業率30―40%にまで落ち込んでいる。生産が底を打ち、徐々に上向きつつあるとはいえ、自動車関連市場の冷え込みが長期化する中、大幅な需要回復にはしばらく時間がかかりそうな雰囲気だ。
3月に入りこれまで下落に歯止めが掛からなかった日本のアルミ原料市況は、高値の輸出価格に引っ張られる格好で反発基調に転じている。ただし、2月下旬以降の円安ドル高進行に伴い日本のアルミスクラップ価格は、以前にも増して割安感が強まっているとみられる。
このため、3月も中国からの引き合いは衰えるどころか、勢いを増している。中国側の購入意欲が一段と強まる中、これまでアルミ原料を取り扱ったことのない、日本の中堅商社の中でも、スクラップの仕入れ先開拓に力を入れるなど、輸出に向けた準備を進めているところが増えている。
ただし、いまだ目に見えた形での実需回復がない中では、中国の旺盛な購入意欲にも限度がある。関係者は「トレーダーの中には資金力がそろそろ限界に近づいているところもあるのではないか」と指摘するなど、日本の原料扱い筋は、中国の購入意欲がいつ減退してもおかしくない状況とみている。一方で、アルミ新地金の備蓄など中国政府は積極的な景気対策を進めていることから、「世界で一番立ち直りが早いのは中国だろう」(関係者)と中国の景気回復に期待する見方も多い。
いずれにせよ、この先の中国向け輸出動向は予測し難いものの、日本国内の需要不足が長期化する状況下では、「引き合いがあるうちは、値段が合えば中国向けに販売するより仕方がない」(問屋筋)のが実情だ。