2018年3月16日
鉄のアートで町おこし/アーティスト・そのだ正治氏/鉄鋼関連企業からの依頼広がる
鉄を使ったアート作品で町おこしに挑むのは、アーティストの其田(そのだ)正治さん。故郷であり現在も拠点を置く福岡県飯塚市をはじめ各地にあるオブジェが人々を引きつけ、気軽にアートに触れている。
元々は二科展で入選するなど絵画の道で活躍していたが、1990年代初頭に訪れたニューヨーク在住の友人を訪ねた際、条例の関係でさまざまな場所にオブジェが設置され、日常生活の中でアートに触れられる環境に衝撃を受ける。直後から強化プラスチックを使ったオブジェを制作。さらなる耐久性を求めて鉄に行き着いた。
飯塚市本町商店街の旧飯塚高等学修館(現飯塚高校)の壁面にある高さ5・8メートルの巨大な鉄製の椅子のモニュメント「大きなイス」が視線を集める。地元建設業社長の久保井伸治さんが発起人となって市民から寄付を募り、03年に製作。身構えずにアートに触れられるよう皆に親しみのある椅子をモチーフに選んだ。珍しさが話題を呼び、現在も多くの人が訪れる。このほか、飯塚と福岡を結ぶ八木山峠の展望台には東日本大震災へのエールとしてハート形の鉄板1296枚を使った「しあわせの鐘」(12年制作)はカップルなどが訪れる筑豊の新たな観光スポットになっている。
08年、50歳を迎えたのを機に「人のために創れるものを作る」と決心。テレビで偶然見ていたスロベニア共和国特集で国名にLOVEが含まれ、お土産などでハートが使われていることを知る。「ハートは単純な形だが楽しく、皆を幸せにする」として、鉄板をハート形に切断し、赤く塗装したピースを組み合わせた椅子「LOVE・IS・ART」(10年制作)を皮切りにハート形のピースを用いた作品を多数制作。
鉄鋼業界でも広がりを見せ、11年に日新製鋼ギャラリーで招待個展を開催。12年には伊藤忠丸紅鉄鋼の翌年カレンダーに起用された。地区鋼管特約店の丸喜鋼業(北九州市八幡西区、川口貴弘社長)は昨年7月にパイプコースター事業部がISO9001を取得したのを機に同事業部建屋看板と同社入り口看板に設置するオブジェの制作を依頼。社員が切り出したハート形ピース634枚を使って立体のハート型オブジェを制作。上部には社章と幸せを運ぶためハートのピースをくわえた鳩があしらわれている。「鉄を扱う者として鉄好きをアピールするとともにデジタル化が進むなか、AIなどに勝てる人間の心・本質を表現してもらった。使われた枚数は同事業部が携わった東京スカイツリーの高さと同じ数字で縁を感じる」(川口社長)と話す。
作品に使うのは中板(板厚3・2ミリメートル、4×8)が多い。鉄については「強さもあるが扱いやすい」と語り、定尺で購入し、自ら切断やピースの曲げ加工を行う。アート活動で休止していた看板や表札、門扉などの制作も再開。今後について「町を楽しく、日本に響くことをやりたい」と鉄のオブジェでの町おこしに意欲を燃やす。【福岡】
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