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[トップランナーへの挑戦]

省エネ技術を支える電磁鋼板<上>

日刊産業新聞 2002/2/27

 世界で最も厳しい省エネ規制トップランナー方式の導入を受け、新日本製鉄、川崎製鉄など鉄鋼各社は、対象となるエアコンなど特定機器の効率化に、電磁鋼板など素材面から貢献すべく技術開発を本格化している。これまで家庭用電化製品中心だった特定機器も対象がディーゼル自動車、さらに02年から産業用変圧器にまで対象が広がった。さらに自動車の42V化や燃料電池など分散型電源時代到来を踏まえ、「鉄」の持つ機能性を最大限引き出すため、世界最高レベルの技術力を誇る新日鉄、川鉄を中心とした鉄鋼メーカー各社が動き出した。

【世界で最も厳しい省エネ規制】

 「トップランナー」は、エアコンのコンプレッサ用モーターなど特定機器を指定して、現在商品化している製品の最も優れた水準を基準に平均値を下回るものは使用できないとするもの。エアコンやテレビなど9品目を皮切りに、98年の改正省エネ法で2品目、99年12月で2品目が追加され、04年からエアコンなどが実際に規制を適用される。この02年には変圧器がその対象となり、06年から規制が運用される見通しとなった。

 家電メーカーが、その適用第一弾として特に高効率化に注力しているのが、家電消費電力量の23・6%を占めるエアコン。ラベリングや省エネ性能ランキング一覧が電気販売店などに提示され、一般消費者が機械の性能を確認できるためだ。

【省エネルギー化の変遷】

 家庭の消費電力量23・6%と最もエネルギーを使うのがエアコンだ。エアコンを例にとり、これまでの素材面での省エネの歴史をたどっていくと、日本でエアコンの生産が開始されたのが1950年代。当時は、通常の冷延鋼板をベースにした鉄芯がモーターに使われており、最終熱効率は80%のレベルに留まっていた。

 これが、第一次オイルショックを機に、省エネをコンセプトに電磁鋼板を使ったエアコンが登場。これによって電磁鋼板を採用することで熱交換率は85%と効率化が図られた。さらに周波数を変えて効率的に冷却能を上げるインバータ方式エアコンが開発され、現在では、熱効率90%と世界的に見てもトップレベルの高効率化が図られている。新日鉄や川鉄が電磁鋼板の国産化に踏み切った約40年前に比べると、電磁鋼板の鉄損(エネルギーロス)は、1・8ワットから0・8ワットと半分以下になり、素材が果たす役割の大きさが分かる。

 法制面では、79年の省エネ法制定以降、技術開発が大きく進むなかで、90年代に入り再び「省エネ」がキーワードとしてクローズアップされた。97年のCOP3だ。地球温暖化の観点からもエネルギーの効率的利用の見直しが叫ばれ、その直後、98年に省エネ法が改正され、トップランナー方式の導入の方針が決まった。

【鉄の機能性を追求した電磁鋼板】

 電磁鋼板とは、電気と磁気のエネルギー変換を効率的に行う鋼板で、モーターの鉄芯に使われている。技術開発の焦点になるのは、磁束密度(磁石としての強度)と鉄損(エネルギーロス)、さらに加工性を含む利用評価技術となる。鉄鋼メーカーは、電磁鋼板の機能アップなど素材面から家電メーカーの省エネ技術に貢献していくことになる。

 世界トップの技術力を誇る国内鉄鋼メーカーとして新日鉄、川鉄、さらに後発ではあるが、自動車と分散型電源にターゲットを明確化するNKK、モーター評価技術など利用評価技術のレベルアップに取り組む住金も電磁鋼板の事業強化を図っている。

 また、06年からトップランナーの特定機器として、新たに変圧器が対象となってきたことで、従来モーターの鉄芯で使われてきた無方向性電磁鋼板に加え、国内では新日鉄、川鉄しか製造できない方向性電磁鋼板の効率も追求されるようになる。