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インド事情と将来見通し 鉄鋼生産・消費が安定成長

小野瀬宗孝氏(インド三井物産会長兼社長)に聞く

日刊産業新聞 2010年07月06日

 2009年に鋼材消費量で世界3位に躍り出たインド。現地鉄鋼メーカーが次々と拡張計画を打ち出し、鉄鋼省は国内粗鋼能力が2年後に1億2000万トンを超える予測を立てている。自動車や家電など日本企業の進出が活発で、日本鉄鋼大手も現地企業との提携を進め、伸びる市場をとらえようとしている。現地事情と将来の見通しを、インド三井物産の小野瀬宗孝会長兼社長に聞いた。  

――鉄鋼需要は安定して増えているが、先行きの見通しは。

 「09年4月からの年度の鋼材消費は5632万トンと前年比7・2%増えた。未整備のインフラの拡充や住宅不足問題の解消、中間所得層が増えることによる購買力増加で、11年度は6000万トンを超えるとの見方もある。需要は緩やかだが、確実に増加するだろう。足元はメーカーが4―6月に急激な値上げを行った反動で値下げムードが漂い、バイヤーが買い控えているが、在庫が消化されれば需要は増えてくるはずだ」

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――各鉄鋼ミルが能力を増強しているが、鉄鋼生産はどの程度増えるのか。

 「国内鉄鋼メーカーの09年度の生産量は、過去最高の5957万トンと、供給能力は着実に拡大している。鉄鋼省は11年度1億2400万トン、19年度2億9500万トンを予測するが、土地問題などで幾つかのプロジェクトは遅れ気味。能力拡大が急速に進むかは不透明で、11年度は7500万―8000万トン程度にとどまるとの見方が大半だ。主要鉄鋼メーカーは、国営2社を除きすべて民営で、国営主体の中国の状況と異なるため、鉄鋼省主導でメーカーの再編・集約が進むとは考えにくい。品質面では、日本はじめ海外ミルとの技術提携などを通じて、徐々に品質レベルが向上し、従来輸入に頼っていた品種に関しても、ある程度は国内で供給できるようになるだろう」  

――日本ミルとインド現地ミルの提携が相次いでいる。インド側の狙いは何か。

 「インド側の期待は、日本からの投資による技術の供与と雇用の増加だ。第3次産業のGDPに占める比率が60%と高く、1次と2次が20%ずつ。2次の比率を高めて国民の所得を上げるとともに、日本企業にも利益を得てもらい、税収を増やしたいと考えている。進出には現地企業と組むことが重要だ。韓国POSCOは自前で製鉄所を建設しようとしたが、土地問題で進んでいない。インフラ整備のスピードが遅いことなど、難しい側面もあるが、全般的にインド人は日本に好意的で、しっかりとした法制度も根付いている。難しい側面を挙げると切りがないが、大事なのは現地企業との関係を強化し、現地市場に深く入り込むことだ」  

――日本の需要産業の進出状況は。

 「自動車メーカーの進出が一巡し、今はパナソニックなど家電メーカーが、本格的に進出し始めている。加えて、今後はITや医薬など技術の高度な産業にもチャンスがある。当社もサービスセンター事業などを通じて、日系需要家のニーズに対応する。日本の鉄鋼業としても高付加価値鋼材の供給に加え、現地の品質・価格ニーズに応じた、いわゆるボリュームゾーンへの対応が、これまで以上に求められるだろう」

 「例えば携帯電話の契約台数は、08年の8000万台から今は6億台と需要の伸び率が非常に大きい。人口は2050年に16億8000万人に増えると予測され、20年、30年先をみると、世界一の需要が期待できる。なにより中国が浸食していない。すでに日本の海外投資は、インドの伸び率が国別で最も高いが、狙うべきはインド市場だ」  

――鉄鉱石鉱山は豊富にあるが、開発は進んでいるのか。

 「鉄鉱石の国内生産2億トン強のうち、国内需要が1億トン強で、あとは輸出されている。鉱山の新規開発は政府許認可に膨大な時間がかかるなど、計画通りに進まないのが現状。東部では貧困層や部族民の利益擁護を掲げて、武力闘争を行うナクサライトと呼ばれるテロリストが鉱山周辺に攻撃を続けており、インド国内が鉱石の供給不足に陥っている。その関係で鉄鉱石の輸出税が塊鉱で、昨年の10%から最近15%に改定された。鉄鋼省は国内の鉄鋼産業への供給を強化するため、さらなる税率向上を政府に訴えている。国内ミルの拡張計画に伴う鉄鉱石の需要を賄いきれない状況になれば、鉄鉱石を輸入する可能性は低くはない」  

――多くを輸入に依存する原料炭は、鉄鋼ミルの能力拡張でより需要が増える。

 「原料炭の国内生産が約800万トン、輸入が2000万トン強。採炭条件の悪化、土地取得問題などによって、原料炭生産が大きく伸びる可能性は低い。鉄鋼ミル各社の高炉の拡張計画を背景に、原料炭需要は増加が予想されるため、輸入量は伸びる見通し。アフリカや豪州などの原料炭権益を確保している鉄鋼ミルもあるが、国として取り組んでいる案件はまだない」  

――三井物産の中期的な事業計画は。

 「物流については引き続き、電磁鋼板やレールなどの、日本からの輸出に取り組む。事業投資は現地のルチグループとの合弁である亜鉛めっき鋼板メーカーのインディアン・スチールの冷間圧延・亜鉛めっきの能力拡張を実行中。同グループとは合弁会社第2弾として、来年半ばをめどにサービスセンターを立ち上げる。ほかにもいろいろと検討している」


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