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われわれが暮らす地球環境を維持するためには温室効果ガスの削減が欠かせない。しかし世界を見渡すと中国やインドなど新興国の急速な経済成長により、二酸化炭素(CO2)排出量が多い石油、石炭などの化石燃料の需要は拡大傾向にある。そこで低炭素社会実現のためのカギを握るのが太陽電池、燃料電池、二次電池(蓄電池)という「3種の電池」だ。このうちハイブリッドを含めた電気自動車や電子機器などに搭載され今後の市場拡大が期待できる二次電池に焦点を当てて特集した。
この地球環境を現在と同じ姿で未来に残すためには、太陽電池や二次電池などを活用した低炭素社会への転換が待ったなしの状況となっている。
日本のエネルギー安全保障上の問題もある。世界のエネルギー需要は30年にかけて現在の約1・4倍に増加するという。とくにインド2・2倍、中国は1・9倍となり、資源獲得競争の激化により、世界のエネルギー需給はひっ迫する。
日本は第二次オイルショック以降、一次エネルギーに占める石油の割合が8割から5割以下に、発電量に占める割合が7割から1割以下に低下した。しかし、「一次エネルギーや発電電力量に占める化石燃料全体の割合は依然として高い」(石田徹・資源エネルギー庁長官)。
エネルギーの消費構造も産業部門は横ばいだが、民生部門と運輸部門が2倍以上に増加している。このため日本政府としても「太陽電池や燃料電池、電気自動車などの普及が重要」(同)な政策と考えており、これら環境関連技術の普及・拡大を後押ししている。
経済産業省の機械統計をベースに電池工業会がまとめた電池の市場規模(生産)は8461億円(07年)。このうち85%を占める7208億円が二次電池となっている。また二次電池の中で最も規模が大きいのはリチウムイオン電池で、市場規模は3858億円と二次電池市場全体の54%を占めている。以下は鉛蓄電池1695億円で23%、ニッケル水素電池1277億円で18%となっている。
市場も拡大傾向にある。01年の二次電池市場の総額は5153億円だったから、07年にかけて40%増加したことになる。このうちリチウムイオン電池は54%増、ニッケル水素電池は86%増加した。鉛蓄電池もこの間に19%伸びているが、リチウムイオン電池とニッケル水素電池の伸び率が圧倒的に大きい。
ニッケル水素電池は携帯電話やノートパソコン、デジカメなどの小型電子機器の普及の立役者となった。カドミウムを使わないことから、環境面でも評価されニカド電池からのシフトなども進んだ。ハイブリッド自動車に搭載される二次電池としても大きな役割を果たしている。
一方、ここ数年で市場規模が急拡大しているリチウムイオン電池。電子機器が小型・高性能化する中で、ニッケル水素電池以上のエネルギー密度を持つ電池として普及・拡大。小型電子機器の電池としては、ニッケル水素電池からのシフトが進んでいる。
最近では電動アシスト自転車や電気自動車など高出力タイプの用途でも搭載され始めており、「自動車用が小型電子機器並みの市場になるのは確実」(インフォメーションテクノロジー総合研究所の竹下秀夫副社長)。
野村総合研究所では主に民生用の小型電子機器に搭載されているリチウムイオン電池の市場は現在約9000億円と推定している。しかし、自動車用の市場が立ち上がることで、自動車用リチウムイオン電池の市場規模は今から12年後には約9500億円になると推定。「民生用市場に匹敵する市場が今後10年の間に立ち上がる」(同社グローバル戦略コンサルティング1部の風間智英グループマネージャー)とみている。
まずは電池容量の向上やリチウムイオン電池の安全性向上。例えば電気自動車用途。現在のように1回の充電で100キロ程度の走行距離では不十分だ。長時間・長距離走行を可能にするため、電池容量を飛躍的に高める必要がある。同時に充電インフラなどの整備も重要な課題だろう。
高容量のリチウムイオン電池は充放電を繰り返すことで膨張して発火する危険性も一方で指摘されている。しかし、こうした技術的な課題は必ず解決されるだろう。正極材や負極材など電池部材への新規参入などが相次ぎ技術開発競争が激化。研究開発も活発化しているためだ。二次電池のコストダウンも普及・拡大への課題だが、これも量産効果でコストダウンは可能だ。
こうしたレアメタル資源は偏在しており安定供給に不安を抱えている。この中でもニッケル、コバルト、マンガンは日本企業も海外権益を保有しており供給が完全に途絶えるリスクは比較的小さい。資源確保が急務なのが希土類とリチウム。
希土類は中国が世界生産の90%以上を生産している。日本はほぼ全量を中国からの輸入に頼る。ただ最近は自国資源の保護や内需拡大を理由に供給量を段階的に削減しており、常に供給への不安感がつきまとっている。
リチウムは希土類ほどの偏在性はないが、生産国はチリ44%、豪州25%、中国13%と上位3カ国が82%を占めているのが現状。最近ではボリビアのウユニ塩湖のリチウム資源に注目が集まっているが、リチウム権益を獲得したいのは日本だけではない。中国や韓国なども同国での権益確保をめざしている。
激しさが増す資源確保競争。日本企業は大手商社が中心となり海外の権益確保に乗り出しているが、実際に成果が出ている。1月には豊田通商が豪社とアルゼンチンのリチウム資源開発に関する覚書を締結した。リチウムの日の丸権益として第1号の案件となるが、今後のリチウム需要の増加を考えると、第2、第3の案件が待たれる。
海外権益の確保と並行して、集荷システムや技術も含めた国内でのリサイクル体制の整備も喫緊の課題。二次電池のリサイクルでは鉛蓄電池からの鉛地金の回収が最も進んでいるが、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池のリサイクルはこれから本格化する。
リサイクル自体への取り組みは始まっており、すでに使用済み電池からコバルトなどのレアメタルも回収している。ただ電池から回収した金属は品質の問題から特殊鋼向けなどに販売されているのが実情。今後は電池から回収したレアメタルを再び電池用の素材として使うような水準までリサイクル技術を引き上げる必要があるだろう。
拡大する二次電池市場
立ち上がる自動車需要/低炭素時代に不可欠な技術
日刊産業新聞 2010年03月18日われわれが暮らす地球環境を維持するためには温室効果ガスの削減が欠かせない。しかし世界を見渡すと中国やインドなど新興国の急速な経済成長により、二酸化炭素(CO2)排出量が多い石油、石炭などの化石燃料の需要は拡大傾向にある。そこで低炭素社会実現のためのカギを握るのが太陽電池、燃料電池、二次電池(蓄電池)という「3種の電池」だ。このうちハイブリッドを含めた電気自動車や電子機器などに搭載され今後の市場拡大が期待できる二次電池に焦点を当てて特集した。
背景/低炭素時代に不可欠な技術
エネルギーを起源とする世界のCO2排出量は1990年時点で210億トンだった。しかし2000年以降の先進国景気の拡大に中国など新興国の急速な経済成長が加わり、07年には38%増の290億トンに急増した。さらに今後はインドやブラジル、中国以外のアジア諸国の経済成長などもあり、50年のCO2排出量は550億トン規模になる見通し。この地球環境を現在と同じ姿で未来に残すためには、太陽電池や二次電池などを活用した低炭素社会への転換が待ったなしの状況となっている。
日本のエネルギー安全保障上の問題もある。世界のエネルギー需要は30年にかけて現在の約1・4倍に増加するという。とくにインド2・2倍、中国は1・9倍となり、資源獲得競争の激化により、世界のエネルギー需給はひっ迫する。
日本は第二次オイルショック以降、一次エネルギーに占める石油の割合が8割から5割以下に、発電量に占める割合が7割から1割以下に低下した。しかし、「一次エネルギーや発電電力量に占める化石燃料全体の割合は依然として高い」(石田徹・資源エネルギー庁長官)。
エネルギーの消費構造も産業部門は横ばいだが、民生部門と運輸部門が2倍以上に増加している。このため日本政府としても「太陽電池や燃料電池、電気自動車などの普及が重要」(同)な政策と考えており、これら環境関連技術の普及・拡大を後押ししている。
市場動向/リチウムイオンとニッケル水素 普及のけん引役
二次電池といっても種類はさまざま。今から100年以上前に発明された「ニカド電池」から、現在市場が伸びている「ニッケル水素電池」や「リチウムイオン電池」、さらに自動車に搭載されている「鉛蓄電池」も二次電池である。経済産業省の機械統計をベースに電池工業会がまとめた電池の市場規模(生産)は8461億円(07年)。このうち85%を占める7208億円が二次電池となっている。また二次電池の中で最も規模が大きいのはリチウムイオン電池で、市場規模は3858億円と二次電池市場全体の54%を占めている。以下は鉛蓄電池1695億円で23%、ニッケル水素電池1277億円で18%となっている。
市場も拡大傾向にある。01年の二次電池市場の総額は5153億円だったから、07年にかけて40%増加したことになる。このうちリチウムイオン電池は54%増、ニッケル水素電池は86%増加した。鉛蓄電池もこの間に19%伸びているが、リチウムイオン電池とニッケル水素電池の伸び率が圧倒的に大きい。
ニッケル水素電池は携帯電話やノートパソコン、デジカメなどの小型電子機器の普及の立役者となった。カドミウムを使わないことから、環境面でも評価されニカド電池からのシフトなども進んだ。ハイブリッド自動車に搭載される二次電池としても大きな役割を果たしている。
一方、ここ数年で市場規模が急拡大しているリチウムイオン電池。電子機器が小型・高性能化する中で、ニッケル水素電池以上のエネルギー密度を持つ電池として普及・拡大。小型電子機器の電池としては、ニッケル水素電池からのシフトが進んでいる。
最近では電動アシスト自転車や電気自動車など高出力タイプの用途でも搭載され始めており、「自動車用が小型電子機器並みの市場になるのは確実」(インフォメーションテクノロジー総合研究所の竹下秀夫副社長)。
野村総合研究所では主に民生用の小型電子機器に搭載されているリチウムイオン電池の市場は現在約9000億円と推定している。しかし、自動車用の市場が立ち上がることで、自動車用リチウムイオン電池の市場規模は今から12年後には約9500億円になると推定。「民生用市場に匹敵する市場が今後10年の間に立ち上がる」(同社グローバル戦略コンサルティング1部の風間智英グループマネージャー)とみている。
技術的課題/新規参入、開発底上げ
二次電池の普及・拡大には、解決すべき課題もある。まずは電池容量の向上やリチウムイオン電池の安全性向上。例えば電気自動車用途。現在のように1回の充電で100キロ程度の走行距離では不十分だ。長時間・長距離走行を可能にするため、電池容量を飛躍的に高める必要がある。同時に充電インフラなどの整備も重要な課題だろう。
高容量のリチウムイオン電池は充放電を繰り返すことで膨張して発火する危険性も一方で指摘されている。しかし、こうした技術的な課題は必ず解決されるだろう。正極材や負極材など電池部材への新規参入などが相次ぎ技術開発競争が激化。研究開発も活発化しているためだ。二次電池のコストダウンも普及・拡大への課題だが、これも量産効果でコストダウンは可能だ。
資源確保/権益獲得とリサイクル
日本にとって最も重要な課題が電池に使うレアメタル資源の確保だ。ニッケル水素電池にはニッケルはもちろん、負極の水素吸蔵合金に希土類(レアアース)のミッシュメタルを使う。リチウムイオン電池の正極材料にはコバルト、マンガン、ニッケルを使う。当然のことながらリチウム資源も必要だ。こうしたレアメタル資源は偏在しており安定供給に不安を抱えている。この中でもニッケル、コバルト、マンガンは日本企業も海外権益を保有しており供給が完全に途絶えるリスクは比較的小さい。資源確保が急務なのが希土類とリチウム。
希土類は中国が世界生産の90%以上を生産している。日本はほぼ全量を中国からの輸入に頼る。ただ最近は自国資源の保護や内需拡大を理由に供給量を段階的に削減しており、常に供給への不安感がつきまとっている。
リチウムは希土類ほどの偏在性はないが、生産国はチリ44%、豪州25%、中国13%と上位3カ国が82%を占めているのが現状。最近ではボリビアのウユニ塩湖のリチウム資源に注目が集まっているが、リチウム権益を獲得したいのは日本だけではない。中国や韓国なども同国での権益確保をめざしている。
激しさが増す資源確保競争。日本企業は大手商社が中心となり海外の権益確保に乗り出しているが、実際に成果が出ている。1月には豊田通商が豪社とアルゼンチンのリチウム資源開発に関する覚書を締結した。リチウムの日の丸権益として第1号の案件となるが、今後のリチウム需要の増加を考えると、第2、第3の案件が待たれる。
海外権益の確保と並行して、集荷システムや技術も含めた国内でのリサイクル体制の整備も喫緊の課題。二次電池のリサイクルでは鉛蓄電池からの鉛地金の回収が最も進んでいるが、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池のリサイクルはこれから本格化する。
リサイクル自体への取り組みは始まっており、すでに使用済み電池からコバルトなどのレアメタルも回収している。ただ電池から回収した金属は品質の問題から特殊鋼向けなどに販売されているのが実情。今後は電池から回収したレアメタルを再び電池用の素材として使うような水準までリサイクル技術を引き上げる必要があるだろう。