金融危機に伴う景気後退で需要、供給ともに低迷が続くマグネシウム。世界市場開拓のためには何が必要か。来日した国際マグネシウム協会(IMA)のグレッグ・パッツァー事務総長に話を聞いた。
――2010年の世界マグネ市場をどうみる。
「需要、供給ともに本格的な回復は期待しにくい。使用量の多いアルミ合金の添加剤およびダイカスト向けが大幅に減退しているからだ。自動車市場の深刻な冷え込みが主因で、年内は横ばい推移する可能性が大きい。一方で、アップル社のアイポッドに採用されたように、パソコンや携帯電話など電子機器の筐体としての需要は今後も伸長するだろう。ニッチ市場である医療機器向けも自動車に比べ落ち込みが小さく、さらなる需要増が期待できそうだ。中国ではマグネ合金およびダイカスト産業が成長を続けており、内需を刺激するだろう。中国精錬メーカーの合併はゆっくりと進展しており、当面は供給力過剰が解消されそうにない」
――先進国の中でも北米の落ち込みが大きい。
「北米市場でのマグネ需要開拓には、価格競争力のある中国産マグネ地金の流通が必要不可欠になるとみている。今年は米政府による中国産マグネ地金に対する反ダンピング措置を、米国際貿易協会(USITC)が再審査する年に当たる。国内マグネ精錬メーカーはUSITCに対してこれまで同様、反ダンピング措置の継続を請願するだろう。これに対して、IMAは会員である中国マグネ精錬メーカーや苦境に立つ米ダイカストメーカーを救済する目的で、USITCに対して現在の税制を見直すよう働きかけている」
――中国の精錬メーカーが世界マグネ地金供給量の80%を占める状況を問題視する声もある。
「確かに需要家の中には、中国の一極支配による供給および価格の不安定性を懸念する見方も少なくない。とくに自動車メーカーは通常、どの部品、素材に関しても複数の供給ソースを確保している。従って、ユーザーの多くが一国からのマグネ供給を不安視するのは想像に難しくない。事実、08年夏にマグネ相場が約2倍に暴騰した際、多くの需要家がマグネからアルミに用途開発を移行した。マグネ市場が再び成長路線に転じるには相場および供給の安定性が必要となるだろう」
――ノルウェーではシルマグがノリルスクの旧工場で精錬事業再開の準備を進めている。韓国のPOSCOも精錬工場の建設をスタートした。
「両社に加え、コンゴやマレーシアでもマグネ精錬プロジェクトが動いている。ただ、これらプロジェクトはマグネ相場が高騰していた際に決定されたものであり、現在の相場で採算に合うかは不透明だ」
――5月16―18日に香港で開催される第67回国際マグネシウム会議のテーマは。
「大きな目玉として、今年から温室効果ガス削減などを対象とした環境大賞を新設する。受賞対象は2つに分かれ、一つは生産工程における温室効果ガス削減で大きな成果を挙げたマグネ精錬および合金メーカー、もう一つはマグネ素材を採用し二酸化炭素排出量の大幅減を実現したメーカーだ。2月初旬に訪中し、この賞の共同スポンサーである中国マグネシウム協会(CMA)や、中国有色金属工業協会(CNIA)とこの件について話し合いを行った。周知の通り、毎年開催される国際会議はアジア、欧州、北米の3地域の持ち回りになっている。IMAでは今後、開催国のマグネ関連団体がこの賞の共同スポンサーとなることを望んでいる」
――アジアでの国際会議の次回開催は2013年だが、日本が開催国となる可能性は。
「日本は、韓国や中国、シンガポールと並んで、非常に有力な候補地の一つであることは間違いない。IMAは過去に2回、東京と山口県宇部市で世界マグネ会議を開催し、ともに大成功に終わっている。今回は日本政府観光局(JNTO)の招聘(しょうへい)で金沢や松本、岐阜の各都市を訪問し、コンベンション推進機関の関係者と情報交換を行った。これらの都市はサポート体制が万全で宿泊施設が充実しており、良い印象を持った。一方で交通機関の利便性改善が課題となるだろう」
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