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鉄鋼新経営 最悪期からの成長シナリオ

神戸製鋼所社長 佐藤廣士氏

海外で得意分野展開

日刊産業新聞 2009年12月16日

 神戸製鋼所は中長期ビジョンの策定に着手し、海外市場で収益基盤を拡充していくための新たな成長戦略と経営目標を描き始めた。「海を越えたバリアフリーを加速し、世界に向けて大きく広がり、成長を続けられる企業にしていく」と語る佐藤廣士社長に話を聞いた。

 ――足元の経営状況から。

 「ピークとなった2008年度上期と比較すると鉄鋼、アルミ・銅の生産が8割を上回る水準まで戻っている。機械エンジは受注残があり比較的堅調に推移している。建設機械は欧米市場が凍りついたままで、国内もピークの6割程度にとどまるが、好調な中国が先進国市場のマイナス分を補いトータルでプラスになっている。足元はこのような状況で、下期は鉄鋼部門が黒字転換し、損益ほぼゼロとみていたアルミ・銅がプラスに振れる可能性もある。機械エンジ、建機、IPP(電力卸供給事業)はいずれも黒字を続ける。下期は240億円の連結経常利益を見込むが、上期の赤字が大きく、通期では200億円程度の赤字が残りそうだ」

 ――最悪期を脱したようだが成長シナリオをどう描いていくのか。

 「中期経営計画を本年4月にスタートさせる予定だったが、経営環境が急激に悪化したため数値計画の策定を中断し、収益・キャッシュフローの最大化を柱とする緊急対策に注力してきた。ここにきて来年度以降の黒字転換が視野に入ってきたことから、世の中が大きく変化していることも踏まえて中長期の成長戦略を描き直すことにした。『ものづくり力の強化』と『オンリーワン製品の拡販・創出』をベースに持続的成長をめざすという基軸は変えず、5―10年先を見据える中長期ビジョンを策定する。キーワードは人材育成、グローバル化、収益構造。市場環境の変化をチャンスととらえ、複合経営のシナジーをさらに引き出す形で、成長が見込める海外市場で収益基盤を拡充していくことが基本となる。その中長期ビジョンをブレークダウンし、10年度からのグループ中期経営計画を策定し、来年4月にスタートさせる予定だ」

 ――前中計3カ年では連結売上高1兆9000億円、経常利益1800億円の目標を超過達成し、ROSも10%に迫った。新中計、中長期ビジョンでめざすレベル感は。

 「新中計における数値目標の議論はこれからだが、中長期ビジョンは連結売上高2―3兆円を前提に描いていきたい。原料価格や為替、地球温暖化対策、製品の環境規制など変数が増えており見通しにくいが、復配した上で成長戦略投資を続けるためにも、まず来年度は経常黒字化をめざさなければと思っている」

 ――基本方針として海外市場での収益基盤の拡充をめざすということだが、主力の鉄鋼部門の方向性を。

 「得意とする特殊鋼線条とハイテン鋼板を武器に成長が見込める自動車分野などの海外市場対策を加速していくことになる。特殊鋼では中国やタイ、米国などで線材二次加工事業を展開しており、その拡充が一つのテーマとなる。ハイテンでは、USスチール、フェストアルピーネとのそれぞれの提携がベースとなる。USSとは合弁事業のプロテック・コーティングを活用して北米に自動車用のハイテン鋼板を供給しており、将来的には中南米・南米にも供給していきたい。CAL(連続焼鈍ライン)新設投資は大きなテーマであり、タイミングを逸しないように市場調査を行っていく。フェストとは100キロ超級ハイテンと加工技術とのセットでの海外市場対策を検討したいと考えている。独自の新鉄源プロセス、ITmk3を鋼材ビジネスとして取り込むための海外事業の検討も進める。とくに成長が期待されるインドではエサールとの包括提携を軸にあらゆる可能性を探っていく」

 ――ITmk3は米ミネソタ州で建設を進めていた商業機第1号機が動きだすはずだが。

 「今月中に商業機第1号機がアイアン・ナゲットの生産を開始すると聞いている。その後、ラインをチューンアップして来春から商業生産に入る。ITmk3プラントにはインドやベトナム、カザフスタンなど数多くの海外企業から関心が寄せられており、商業機が動きだせば商談が相次ぎまとまるのではないかと期待している」

 ――アルミ・銅、機械エンジ、建機それぞれの成長戦略は。

 「アルミ・銅は地金コストが大きく変動する一方で、プレーヤーが多いこともあり販売単価をタイムリーに是正できず、収益見通しが立てづらい構造になっている。相手もあることだが、まず国内の合従連衡が不可欠と考えている。海外では成長著しい中国、インドなどでの成長機会を探っていく。中国のマーケット調査、現地パートナーの発掘などを目的に上海に駐在員を置くことを決めた。機械エンジ、建機はともに省エネや環境対応など時流に乗った商品メニューを数多く持っており、まさにグローバル化が成長戦略となる。この分野は必ずしも投下資本が大きくなく、経験と知恵、技術を持って出れば相当なことができる。すでに建機は中国に続いてインドの製造拠点設置を決めた。インドでは製鉄機械の販売会社も立ち上げた。KOBELCOブランドの市場浸透を図りながら、品質面での評価を高めていけば海外でさらに大きく伸ばせるとみている」

 ――4月の社長就任時、複合経営のシナジーを引き出すために部門や組織の壁を取り払う「バリアフリー」の企業文化をグループ全体に根付かせたいといっていた。進ちょく状況を聞きたい。

 「この半年間、主な事業所、支社・支店などを回って考え方を説明してきたが、バリアフリーという言葉がいろんな場面で使われるようになってきた。世の中が大きく変化しているが、当社は素材、機械、溶接など幅広い事業分野があるため自由度が高く、団体戦で立ち向かうことで勝機が大きく広がる。ここにバリアフリーの発想がうまく活用できる。これまでに『社長プロジェクト』をいくつか立ち上げたが、例を挙げると、自動車の軽量化ニーズに対応するための名古屋を拠点とするタスクフォースがある。鉄鋼、アルミ・銅、機械、技術開発本部などのメンバーが参画し、各部門が持つ情報を一元化した上で自動車、部品メーカーへのソリューション提案を開始している。また、ものづくりというテーマで本社にタスクフォースを作った。これまでグループ企業の数多くの現場で技術伝承や人材育成、コストダウン、効率化などに取り組んできた。それぞれの現場に、原材料の在庫が少ない、あるいは仕掛品が少ない、または安全成績が良いといった特徴があるはず。そうしたフロントランナーのノウハウをいったん本社で集約し、グループ全体に横展開することで、ものづくり力の底上げを図っていくのが狙い。経営企画、技術開発本部から参画するタスクフォースのメンバーが生産現場を回っており、近く出てくる1回目の報告を楽しみにしている。バリアフリーを浸透させるには繰り返し言い続けるしかないが、1―2年後には必ず大きな成果が出てくると確信している」

 ――神戸製鋼をどのような企業にしていくのか。

 「頭の中にイメージはあって、ぴったりくる言葉を探しているところだが、神戸製鋼は杉林や松林ではなく、杉や松、くぬぎや楓など多種の木がある雑木林のようなもので、それぞれの木が補完関係にあり、ほかの木の落ち葉を栄養に伸び、また新しい芽が出てきて育つことで、大きくなってきた。例えば溶接事業は鉄鋼部門の線材の付加価値策として出てきて、いまや世界トップ3の一角を占めるまでに成長している。製鉄所のインフラや石炭調達のノウハウがベースとなるIPPも安定収益を稼ぐ事業の柱となっているが、燃料備蓄からの一貫技術を体系化してエンジの観点からアプローチすれば新たなビジネスとして立ち上げられる。ここにインドネシアで実証試験を進める改質褐炭プロセスを絡めることもできる。社内でも気づいている人は少ないだろうが、これが神戸製鋼の遺伝子であり、強みであると思う。バリアフリーによるシナジーは、既存ビジネスの強化はもちろん、新たなビジネスを生み出していくことにもつながる。この強みさらに伸ばしていくために複合経営の継続を宣言し、バリアフリーと言い続けている。海を越えたバリアフリーを加速し、世界に向けて大きく広がり、成長を続けられる企業にしていく」

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