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21世紀に入り、鉄鉱石や原料炭、ニッケル、亜鉛など鉄鋼原料を含む資源価格は、中国などBRICs諸国の経済成長による需要拡大を受けて高騰し、鉄鋼メーカーの収益を圧迫してきた。米リーマンショック後、資源価格は軒並み下落したが、今後の景気回復局面で再び上昇に転じる可能性もある。世界の資源事情に詳しい丸紅経済研究所の柴田明夫所長に聞いた。
――資源価格が大きく変動している。
「21世紀に入ってからの国際資源価格の高騰は、均衡点価格の変化が背景にある。安い資源の時代が終えんし、高いレベルへ価格帯が移っていく移行期に入った。ところが100年に一度ともいわれる国際金融危機を受けて、企業やファンド、投機筋、個人がなりふり構わず、あらゆるものを現金に置き換える行動をとった。雇用不安もあり自動車や家電、住宅など個人消費が消えた。耐久消費財のメーカーは大規模な生産調整を迫られ、軒並み赤字転落した。世界的な信用収縮が一気に進んだこともあり設備投資にも急ブレーキがかかった。耐久消費財をつくるためのエネルギーや原材料の需要が消え、サプライヤーは生産調整と価格調整を同時に行ってきた。バレル100ドルを大きく超えていた原油が30ドル台、銅もトン7000ドルから3000ドル近辺まで急落。これら原油や非鉄など先物市場がある商品は5年前のレンジまで下がった。鉄鉱石や原料炭など相対取引商品は、行き過ぎた分もあって、そこまでは下がっていない」
――均衡点の変化後の価格レベル感は。
「80年以降、鉄鉱石や石炭、天然ゴム、原油など資源価格は大きく動かなかった。この間、世界の先進国の一般物価は2・5倍から3倍くらいになっている。資源国にとってみれば、資源の輸出価格が変わらない中で、工業製品の輸入価格が大きく上昇してきた。中国などの工業化が進展する中で、抑えられていた資源の価格が一般価格に追いつく動きが始まった。均衡点は20世紀後半の少なくとも3倍くらいになるだろう。90年代後半にバレル30―40ドルだった原油は120ドルへ向け上昇していく」
――今後の資源需給をどうみる。
「中国、インドなど人口大国が工業化過程に入り、ここ数年間で安い資源の枯渇と地球温暖化の2つの危機が始まった。2つの危機は不可逆的な動きで誰も止められない。ほっておくと成長の限界を迎えてしまう。30年あたりに、あらゆる面で臨界点を迎える。地球が養えるとされる人口80億人を超え、オイルサンドや深海の油田開発も含めた広い意味でのオイルピークが始まる。ベースメタル、レアメタルもピークを迎える。省エネや省資源に努めて消費のスピードを緩やかにする一方で、新エネルギーや代替原燃料の開発を急がなければならない。いま太陽光発電や太陽熱発電、風力発電などが注目されているが、地下系の資源によって成り立ってきた経済成長が限界に近づき、太陽系のエネルギーによって成り立つという21世紀型にモデルチェンジが始まった。モデルチェンジは自然体だと50―60年かかり間に合わない。こうした大きな流れが資源価格の均衡点の変化を促していく。価格が上がれば革新的な技術開発が促進され、悪条件での資源開発も可能となる」
――中国やインドの資源消費は拡大を続けるのか。
「中国は早ければ今年にも日本を抜いて米国に次ぐ世界第2位の経済大国に浮上するが、1人当たりGDPは3300ドルと日本の10分の1以下。1万ドルをめざすとしても、あと10年以上かかる。8%成長が10年続けば資源の消費量は2倍になる。インドも工業化の歩みを始めており、両国のみならず発展途上国によるエネルギーや資源の爆食は続く」
――資源需要の拡大が見込まれる一方で、サプライサイドの寡占化も進みつつある。
「既存の資源メジャーによるM&Aに加えて、中国、ロシア、ブラジルなど資源国の新たな資源メジャーが同様の動きを見せ始めている。国策として資源の囲い込みを始めている国も少なくない。とくに中国は胡錦濤氏をはじめ技術系の指導者が多く、資源の重要性を強く認識し、03年に国家資源戦略を打ち出して着々と実行に移している」
――資源価格が再び高騰する可能性は高いということか。
「資源価格は均衡点価格を模索しながら上昇していくだろう。グローバル経済が発展する中で製品は値上げが難しくなり、資源インフレ、製品デフレが起こってくる可能性もある。メーカーは創意工夫して製品の機能を高め、価値を引き上げるとともに、製造コストを引き下げていかなければ利益を生み出すことができなくなる。それができる企業のみが生き残っていける」
――日本が取り組むべき課題は。
「政府による資源外交は急務であり、企業においては資源権益の確保が大きな課題。また鉄スクラップなどリサイクルという側面からのアプローチも不可欠。日本はレアメタルの世界最大の再資源化国であり、世界第2位の鉄スクラップ発生国でもある。この強みを生かすための方策を講じていくべきだろう」
価格変動に揺れる 資源需給を聞く
丸紅経済研究所 柴田明夫所長
日刊産業新聞 2009年10月13日21世紀に入り、鉄鉱石や原料炭、ニッケル、亜鉛など鉄鋼原料を含む資源価格は、中国などBRICs諸国の経済成長による需要拡大を受けて高騰し、鉄鋼メーカーの収益を圧迫してきた。米リーマンショック後、資源価格は軒並み下落したが、今後の景気回復局面で再び上昇に転じる可能性もある。世界の資源事情に詳しい丸紅経済研究所の柴田明夫所長に聞いた。
――資源価格が大きく変動している。
「21世紀に入ってからの国際資源価格の高騰は、均衡点価格の変化が背景にある。安い資源の時代が終えんし、高いレベルへ価格帯が移っていく移行期に入った。ところが100年に一度ともいわれる国際金融危機を受けて、企業やファンド、投機筋、個人がなりふり構わず、あらゆるものを現金に置き換える行動をとった。雇用不安もあり自動車や家電、住宅など個人消費が消えた。耐久消費財のメーカーは大規模な生産調整を迫られ、軒並み赤字転落した。世界的な信用収縮が一気に進んだこともあり設備投資にも急ブレーキがかかった。耐久消費財をつくるためのエネルギーや原材料の需要が消え、サプライヤーは生産調整と価格調整を同時に行ってきた。バレル100ドルを大きく超えていた原油が30ドル台、銅もトン7000ドルから3000ドル近辺まで急落。これら原油や非鉄など先物市場がある商品は5年前のレンジまで下がった。鉄鉱石や原料炭など相対取引商品は、行き過ぎた分もあって、そこまでは下がっていない」
――均衡点の変化後の価格レベル感は。
「80年以降、鉄鉱石や石炭、天然ゴム、原油など資源価格は大きく動かなかった。この間、世界の先進国の一般物価は2・5倍から3倍くらいになっている。資源国にとってみれば、資源の輸出価格が変わらない中で、工業製品の輸入価格が大きく上昇してきた。中国などの工業化が進展する中で、抑えられていた資源の価格が一般価格に追いつく動きが始まった。均衡点は20世紀後半の少なくとも3倍くらいになるだろう。90年代後半にバレル30―40ドルだった原油は120ドルへ向け上昇していく」
――今後の資源需給をどうみる。
「中国、インドなど人口大国が工業化過程に入り、ここ数年間で安い資源の枯渇と地球温暖化の2つの危機が始まった。2つの危機は不可逆的な動きで誰も止められない。ほっておくと成長の限界を迎えてしまう。30年あたりに、あらゆる面で臨界点を迎える。地球が養えるとされる人口80億人を超え、オイルサンドや深海の油田開発も含めた広い意味でのオイルピークが始まる。ベースメタル、レアメタルもピークを迎える。省エネや省資源に努めて消費のスピードを緩やかにする一方で、新エネルギーや代替原燃料の開発を急がなければならない。いま太陽光発電や太陽熱発電、風力発電などが注目されているが、地下系の資源によって成り立ってきた経済成長が限界に近づき、太陽系のエネルギーによって成り立つという21世紀型にモデルチェンジが始まった。モデルチェンジは自然体だと50―60年かかり間に合わない。こうした大きな流れが資源価格の均衡点の変化を促していく。価格が上がれば革新的な技術開発が促進され、悪条件での資源開発も可能となる」
――中国やインドの資源消費は拡大を続けるのか。
「中国は早ければ今年にも日本を抜いて米国に次ぐ世界第2位の経済大国に浮上するが、1人当たりGDPは3300ドルと日本の10分の1以下。1万ドルをめざすとしても、あと10年以上かかる。8%成長が10年続けば資源の消費量は2倍になる。インドも工業化の歩みを始めており、両国のみならず発展途上国によるエネルギーや資源の爆食は続く」
――資源需要の拡大が見込まれる一方で、サプライサイドの寡占化も進みつつある。
「既存の資源メジャーによるM&Aに加えて、中国、ロシア、ブラジルなど資源国の新たな資源メジャーが同様の動きを見せ始めている。国策として資源の囲い込みを始めている国も少なくない。とくに中国は胡錦濤氏をはじめ技術系の指導者が多く、資源の重要性を強く認識し、03年に国家資源戦略を打ち出して着々と実行に移している」
――資源価格が再び高騰する可能性は高いということか。
「資源価格は均衡点価格を模索しながら上昇していくだろう。グローバル経済が発展する中で製品は値上げが難しくなり、資源インフレ、製品デフレが起こってくる可能性もある。メーカーは創意工夫して製品の機能を高め、価値を引き上げるとともに、製造コストを引き下げていかなければ利益を生み出すことができなくなる。それができる企業のみが生き残っていける」
――日本が取り組むべき課題は。
「政府による資源外交は急務であり、企業においては資源権益の確保が大きな課題。また鉄スクラップなどリサイクルという側面からのアプローチも不可欠。日本はレアメタルの世界最大の再資源化国であり、世界第2位の鉄スクラップ発生国でもある。この強みを生かすための方策を講じていくべきだろう」
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