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レアメタルの国家備蓄拡充

年度内、4鉱種積み増し/“もろ刃の剣” 価格高騰招く恐れも

日刊産業新聞 2009年06月18日
 日本のレアメタル確保戦略の一環である国家備蓄の拡充が本格始動した。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)はこのほど、一般競争入札によるコバルトとバナジウムの備蓄積み増しを発表した。同機構はタングステンとモリブデンも今年度中に備蓄積み増しを予定。さらに今後はインジウムとガリウムが新たに備蓄対象となる見込みだが、産業界からは価格高騰を警戒する声も上がっている。

 JOGMECは今回の入札を通じてリチウムイオン電池の原料であるコバルト地金130トン、高張力鋼に使うフェロバナジウムを319トン(純分重量)買い入れる予定。

 買い入れ自体は昨年の超硬原料のタングステン以来となるが、コバルトは93年以来、16年ぶりの備蓄積み増し。バナジウムは98年に売却分の買い戻しを行っているが、純粋な備蓄積み増しは94年以来、15年ぶりとなる。

 コバルトの備蓄量は現在22・2日、バナジウムは18・9日となっているが、この買い入れにより国家備蓄目標の42日分まで引き上げたい考えだ。

 国家備蓄の対象になっているのはコバルト、タングステン、バナジウム、モリブデン、ニッケル、マンガン、クロムの7鉱種。このうちバナジウム、コバルト、タングステン、モリブデンの4鉱種は、07年7月の総合資源エネルギー調査会レアメタル対策部会報告書で「積み増しを行うべき」とされた。

 資源の希少性や生産国の寡占度、需給動向などを考え、供給が途絶した場合の国内産業への悪影響が大きいのが理由だ。今年6月3日の同調査会鉱業分科会でも、レアメタル確保戦略の一環として国家備蓄の強化が盛り込まれた。

 今回の買い入れ対象はコバルトとバナジウムの2鉱種だが、これらの答申を背景にJOGMECは年度内に4鉱種すべての備蓄量を42日まで引き上げる。タングステンとモリブデンについては、「使用状況などを考え積み増す形状を検討中」(JOGMEC)という。

 現在タングステンは20・1日、モリブデンは17・1日分の備蓄量となっている。42日分まで積み増すには、タングステンを約300トン、モリブデンは1000トン規模を買い入れする必要がある。

 レアメタルの国家備蓄拡充は、資源を持たない日本にとって重要な資源確保戦略であることは間違いない。ただ、産業界には備蓄積み増しによる価格高騰への警戒感を強める向きもある。

 今回の入札対象であるフェロバナジウム。国際価格は現在ポンド22ドル前後(バナジウム純分)と、5月の底値からジリ高基調で20%上昇した。「これで原料の五酸化バナジウムからの加工費が出るようになった」と安どする生産者は、価格上昇について「備蓄の影響も少しはあるかもしれない」と話す。

 備蓄積み増しは供給リスクの軽減に加え、金融危機で急速に悪化したレアメタル市況を押し上げる効果も期待できる。しかし、タイミングを間違えると、市場のタイト感を強め国際価格を必要以上に急騰させることになり、返って産業界に悪影響を与える「もろ刃の剣」でもある。

 備蓄積み増しを検討中のモリブデンにその懸念がある。景気悪化の影響で世界需給はこれまで余剰感が強かった。しかし国際価格の下落で中小鉱山が停止している中国が輸出から輸入に転換。足元の需給は引き締まる傾向にある。

 さらに年後半の景気回復局面で、在庫調整が終わった需要家の購入が活発化することも予想される。「そのタイミングで備蓄が積み増されたら、タイト感が一気に強まり価格が急騰する」と、ある業界関係者は警戒する。

 新たに備蓄対象に追加されるインジウムとガリウムにも価格急騰の懸念が付きまとう。

 世界需要がインジウム約1300トン、ガリウム約200トン。10万―20万トン規模のモリブデン、バナジウムとは比較にならない小さな市場である。

 2鉱種を備蓄対象に加えるためには、省令の改正やJOGMECの内規改定も必要になるため、実際に買い入れが行われるまでには時間がかかる。

 しかし市場が小さいだけに、備蓄が正式決定された段階で投機筋の思惑買いから価格が急騰する危険性をはらんでいる。これらレアメタルの備蓄積み増しは時期や需給などを十分考慮した上で、投機筋などに察知されないよう隠密裏に動く必要があるだろう。    


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