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加速する鉱山開発/水・電力確保が課題

資源大国 チリ編 <1>

日刊産業新聞 07年12月17日

 海外資源大手がチリの銅資源開発を加速させている。背景にあるのが中国やインドなど新興国の銅需要の高まりや、オイルマネーの流入による銅価高騰。しかし、それ以上に世界一の埋蔵量や南米の中で最も政情が安定しているという、資源開発には欠かせないカントリーリスクが低い点も評価されている。鉱山業の活況から年率5%前後の安定成長が続く資源大国チリ。現状と課題を探った。


近代的なビルが並ぶサンティアゴ市内
  チリの首都サンティアゴ。高さ14メートルの聖母マリア像がそびえるサン・クリストバルの丘を背に東へ30分程歩くと、高級ブランドの店舗やおしゃれなレストランが軒を連ねる新市街のラス・コンデス地区にたどり着く。

  開発が進むこの地区には、チリに進出した外資系企業が入居する近代的なビルが立ち並ぶ。チリ経済の盛況さを示すように、海外からの出張者を受け入れるための5つ星ホテルの建設も活発だ。

  チリの昨年の経済成長率は4%。世界経済全体の伸びに加え税収の25%を占めるという鉱業分野、とくに銅資源産業の活況がチリ経済成長の原動力になっている。07年の成長率も5―6%に達する見通し。

  世界最大のエスコンディダをはじめ、チュキカマタ、エル・テニエンテ、コジャワシ、ロス・ペランブレス…世界の上位10鉱山のうち6鉱山までがチリにある。生産量は年536万トンで世界シェアは約36%。埋蔵量も世界の30%を占める。

  世界最大の銅資源大国であるチリには、チリ国営銅公社(コデルコ)はもちろん、BHPビリトン、アングロ・アメリカン、エクストラータ、フリーポート・マクモラン・カッパー&ゴールドなどが進出。近年の銅需要の高まりと価格高騰を背景に開発競争を加速させている。

  これまで鉱山への数%の資本参加にとどまっていた日本企業も買鉱条件が厳しさを増す中で方針を転換。唯一、日鉄鉱業のアタカマ鉱山だけが過半数の権益を取得していたが、今は日鉱金属と三井金属が出資するパンパシフィック・カッパー(PPC)が100%の権益を保有してカセロネス銅鉱床の開発に乗り出している。

  豊富な銅資源を武器に順風満帆のように映るチリ鉱業だが、操業に影響を与えかねない課題も抱えている。


褐色の山のふもとに広がるブドウ畑
  チリ北部のアタカマ砂漠に形成された第三州の州都コピアポ。市街地からアタカマ鉱山やカセロネス鉱床へと続く道を約30分程車を走らせると、草木が一本も生えていない山々のふもとに、広大なブドウ畑が広がる。

  「鉱業と違って農業分野の地下水利用の規制は緩い。使い放題だからこの辺りの水位はどんどん下がっている」と、日鉱金属の後藤敬一・チリ事務所長はこう話す。

  銅鉱山が数多く存在するアタカマ砂漠一帯の年間降水量は10ミリ以下。このため鉱山やブドウ畑にとってはアンデス山脈の雪解け水が浸透した地下水が頼り。ただ、環境汚染の懸念が伴う鉱山の地下水利用は容易ではない。

  エスコンディダ鉱山は地下水の利用と海水淡水化プラントで水を確保している。だが今後は地下水利用ができなくなる可能性も指摘されている。カルロス・メスキータ社長は「使う量を減らすなど対策は考えている」と話すが、水資源の確保は今やチリ鉱業全体の課題になっている。

  電力代の上昇も懸念材料だ。エネルギー資源に乏しいチリでは、これまでアルゼンチンの安価な天然ガスを利用して、鉱山操業を続けてきた。しかし、アルゼンチン国内の需要増により、04年以降はチリへの天然ガス輸出が段階的に削減されている。

  サンティアゴの北約200キロにあるロス・ペランブレス鉱山。現場には不安定な天然ガス供給を背景に来年から10%程度、電力代が値上げされるという報告が届いている。ただ、鉱山技師のアレキサンダー・オルティス氏は「実際はもっと上がるだろう」と予測する。

  このほか世界的な資源開発ブームを背景とする、鉱山設備の納期遅れや人材獲得競争の激化など、さまざまな問題を抱えるチリ鉱業界。実際に現地を訪れ、エスコンディダやロス・ペランブレス、カセロネス鉱床などの現場を取材した。 (増田 正則)