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高強度の研究では、建築や土木分野での実用化をめざし、引張強度800メガパスカル(MPa)の厚板鋼材および2000MPaの超高強度ボルトの開発を進めている。現在、土木・建築用の厚板鋼材は400MPaが主流。また、ボルト素材は強度が上がると遅れ破壊が問題となるため、1000―1200MPaが使用限界だ。
鋼の強度は、組織の微細化がカギをにぎる。組織の結晶粒径は、従来は100ミクロンオーダーだが、超鉄鋼は1ミクロン以下。組織を微細化することで、強度と靭性という相反する性質を両立。希少の合金元素を使わずに、従来鋼の2倍の強度と寿命を持つ鋼材の製造を可能にする。
ポイントは、加工熱処理による組織制御で、結晶粒を微細化する。破壊の要因となる転位が結晶粒界を横断するのにある程度の力を要し、次々と粒界を横断する必要がある。結集粒が小さければ、それだけ転位に力が要り、結果、鋼材の強度が高まる。組織は高強度のマルテンサイトとなるが、難点は水素。遅れ破壊を引き起こす水素が、鋼中で拡散しないようコントロールする。水素トラップサイトとなる析出物の特性を解析。ナノスケールのチタン炭化物を分散させると吸蔵水素量が増すことを確認した。
現在、1800MPaの素材開発まで進み、2期は2000MPaに挑戦している。構造物の軽量化を図ることができ、建築や橋など今の構造設計や材料を置きかえる新たな可能性を秘めている。
超微細粒鋼の研究は、日本では他に、JRCMが「超微細粒鋼創製基盤技術開発プロジェクト」(02―06年)を推進。海外も日本の後を追い近年、韓国が「ハイパー21」、中国が「ニュー・ジェネレーション・スティール」、欧州もプロジェクトを組んでいる。
厚板は深い溶け込みが要る。鋼材の組織が変化するため熱を与えたくないが、能率が下がる。センターは、自在に波形が作れる20キロワットCO2レーザーを使い、電気的にウェービングをかけることで母材にためる熱量を減らした。20ミリ厚の板の入熱は通常、消耗電極MIG2万ジュール(J)だが1万Jに半減。小入熱化を図った。
また、溶接時にモニタリングする、新しいセンシング技術も開発している。溶接状況を随時キャッチすることで、作業中の変化に対応する。
発電所で使われる耐熱鋼の用途はタービンと、タービンに細い管を通して蒸気を送るボイラー系。センターは使用量の大きいボイラー系に研究を絞った。ボイラーチューブ(300―500ミリ径)は、溶接部分の酸化が激しく、温度差で伸縮し熱疲労を起こすので耐熱性が求められる。
現在、発電所の蒸気使用条件は600℃。センターは、ナノサイズの窒化物で析出強化する新しい材料設計手法によって、650℃で強度2倍・寿命10倍の9Cr―3W系鋼の開発に成功した。700℃の炭素フリーマルテンサイト合金や15Crフェライト系組織鋼も開発し、開発鋼の大型化を進めている。
また、ニッケルフリーの高窒素ステンレス鋼も開発している。海中では応力部や高温部で腐食が進み、また貝などでの隙間腐食や孔腐食(食孔)が起きる。開発のポイントは(1)多量の窒素(2)素材の清浄化。加圧式ESR装置を国内で初めて開発し、窒素ガスを加圧することで鋼材中に1%以上混入。合金の世界では大きなパーセンテージであり、窒素が腐食防止に働く。
鉄スクラップを鉄源とすることで、環境負荷や設備費が低く、多品種少量生産に対応した新しい製造設備体系を構築する。
超鉄鋼―新世代の鉄誕生へ
日本発、強度・寿命2倍
日刊産業新聞 2004/1/1物質・材料研究機構の超鉄鋼研究センターは、1997年度から01年度までの5年間にわたり、強度2倍・寿命2倍の「超鉄鋼材料プロジェクト」を進め、組織の結晶粒径を微細化することに成功した。02年度からの第2期5カ年プロジェクトでは、実用化・構造化をめざしプロトタイプ化を進めている。鉄の概念、構造材のコンセプトを変える力を持つ「超鉄鋼」。日本発の新たな原理として今、誕生しようとしている。 |
▼疲労・遅れ破壊に強い新マルテンサイト組織
センターでは高強度・長寿命の2つのテーマで取り組み、高強度では構造物として使用するための溶接技術、また長寿命では耐熱鋼・耐食鋼の研究を進めている。高強度の研究では、建築や土木分野での実用化をめざし、引張強度800メガパスカル(MPa)の厚板鋼材および2000MPaの超高強度ボルトの開発を進めている。現在、土木・建築用の厚板鋼材は400MPaが主流。また、ボルト素材は強度が上がると遅れ破壊が問題となるため、1000―1200MPaが使用限界だ。
鋼の強度は、組織の微細化がカギをにぎる。組織の結晶粒径は、従来は100ミクロンオーダーだが、超鉄鋼は1ミクロン以下。組織を微細化することで、強度と靭性という相反する性質を両立。希少の合金元素を使わずに、従来鋼の2倍の強度と寿命を持つ鋼材の製造を可能にする。
ポイントは、加工熱処理による組織制御で、結晶粒を微細化する。破壊の要因となる転位が結晶粒界を横断するのにある程度の力を要し、次々と粒界を横断する必要がある。結集粒が小さければ、それだけ転位に力が要り、結果、鋼材の強度が高まる。組織は高強度のマルテンサイトとなるが、難点は水素。遅れ破壊を引き起こす水素が、鋼中で拡散しないようコントロールする。水素トラップサイトとなる析出物の特性を解析。ナノスケールのチタン炭化物を分散させると吸蔵水素量が増すことを確認した。
現在、1800MPaの素材開発まで進み、2期は2000MPaに挑戦している。構造物の軽量化を図ることができ、建築や橋など今の構造設計や材料を置きかえる新たな可能性を秘めている。
超微細粒鋼の研究は、日本では他に、JRCMが「超微細粒鋼創製基盤技術開発プロジェクト」(02―06年)を推進。海外も日本の後を追い近年、韓国が「ハイパー21」、中国が「ニュー・ジェネレーション・スティール」、欧州もプロジェクトを組んでいる。
▼不可欠な溶接
構造材の組み立てには接合技術が必要であり、鋼材の溶接性が重要となる。溶接の熱による鉄鋼組織の軟化を防ぐ手だてとして、成分系を調整。希少元素を入れず、シリコン・マンガン系で対応した。厚板は深い溶け込みが要る。鋼材の組織が変化するため熱を与えたくないが、能率が下がる。センターは、自在に波形が作れる20キロワットCO2レーザーを使い、電気的にウェービングをかけることで母材にためる熱量を減らした。20ミリ厚の板の入熱は通常、消耗電極MIG2万ジュール(J)だが1万Jに半減。小入熱化を図った。
また、溶接時にモニタリングする、新しいセンシング技術も開発している。溶接状況を随時キャッチすることで、作業中の変化に対応する。
▼長寿命の高温・高圧用耐熱鋼
火力発電所の建設設計寿命は10年。実際は、20―30年と使いたいのが電力会社の考え。また、高温・高圧化であるほど少ない燃料でエネルギーが取れ、発電効率が上がる。発電所で使われる耐熱鋼の用途はタービンと、タービンに細い管を通して蒸気を送るボイラー系。センターは使用量の大きいボイラー系に研究を絞った。ボイラーチューブ(300―500ミリ径)は、溶接部分の酸化が激しく、温度差で伸縮し熱疲労を起こすので耐熱性が求められる。
現在、発電所の蒸気使用条件は600℃。センターは、ナノサイズの窒化物で析出強化する新しい材料設計手法によって、650℃で強度2倍・寿命10倍の9Cr―3W系鋼の開発に成功した。700℃の炭素フリーマルテンサイト合金や15Crフェライト系組織鋼も開発し、開発鋼の大型化を進めている。
▼耐海水性耐食鋼
大気腐食の成果と微細粒鋼の成果をドッキングして、超高度耐食材を開発。耐候性鋼は錆びで錆びを防ぐ。主流のニッケル添加は高価であり、リンは溶接性を低下する。シリコンやアルミの酸化物で鋼表面にバリアをはる。また、ニッケルフリーの高窒素ステンレス鋼も開発している。海中では応力部や高温部で腐食が進み、また貝などでの隙間腐食や孔腐食(食孔)が起きる。開発のポイントは(1)多量の窒素(2)素材の清浄化。加圧式ESR装置を国内で初めて開発し、窒素ガスを加圧することで鋼材中に1%以上混入。合金の世界では大きなパーセンテージであり、窒素が腐食防止に働く。
▼リサイクル鉄の超鉄鋼化
鉄スクラップの中で悪とされていた不純物元素を積極的に利用。鉄スクラップを鉄源に強度1・5倍の超鉄鋼を製造する。凝固から始まる組織制御で、不純物も合金元素として扱っている。リンは鋼の靭性を損なう可能性があるため、溝型のロールで多方向加工することで強度・靭性バランスを改善、リンの無害化に成功した。鉄スクラップを鉄源とすることで、環境負荷や設備費が低く、多品種少量生産に対応した新しい製造設備体系を構築する。