2025年3月10日
総合商社 金属トップに聞く/双日 松浦修 金属・資源・リサイクル本部長/石炭強み最大限価値創出/本部利益500億円 安定確保が目標
双日の金属・資源・リサイクル本部は2030年の長期目標を掲げ、26年度までの3年計画を開始した。双日の強みを発揮できる分野で脱炭素やリサイクルなどの社会課題に貢献するという松浦修本部長に方針を聞いた。
――23年度の総括を。
「前中計の最終年度だが、市況に助けられた部分もあったが、予算を超過達成できた。前中計はポートフォリオの入れ替えを意識して取り組み、カナダのモリブデン事業権益からの撤退もあったが、脱炭素への先進的な取り組みとしてカーボン・エクストラクトを設立した」
――30年の本部の利益500億円に向けた中期計画。
「市況の影響がなくとも500億を安定的に稼ぐ本部でありたい。市況が好転すれば700、800、1000億くらい目指せる基礎体力を持ちたい。その経過プロセスとして中計がある。初年度は350億円と当期利益目標を置いてポートフォリオの転換は引き続きやっていく。やめる一方で積み上げもやっていくが、上期の決算発表で石炭市況を主な理由として50億円下方修正した」
――石炭は強みだが変動も大きい。
「需要家自身が権益を引き続き取得しており、将来も必要と分かっている。持っているアセットを最大限にバリューアップする。開発余地はまだまだあり、保有権益や鉱山の維持・開発に当たってDXの活用でさらに効率化も考えられる」
――中計は全社で6000億円以上投資するが本部は。
「決まっていない。経営と話しながら決める。キーワードは当社の強みがある分野だ」
――強化するのはリサイクル分野も。
「リサイクルという機能は、これからのビジネスでは欠かせない要素となる。当本部のどの取組み分野でも機能や考え方を取り入れていく必要がある。単に商品を売るだけではなく、リサイクルやリユースといった要素や、処理プロセスも含めた一貫した取組みを考えることが重要」
「炭鉱で言うと遊休地やリハビリテーション(原状回復)をしながら、早生樹などの植林を通じて、CO2固定化によるクレジット創出や石炭代替燃料として期待できるバイオマス燃料の生産・供給を追求する。さらに他社鉱山のリハビリ現場にも展開して外部収益の獲得も目指す」
「23年に出資したカナダのイ―サイクル・ソリューションズは事業拡大や効率改善に注力している。廃電子機器や被覆線等を集荷して処理し、リサイクル原料としてパートナーのJX金属に販売している。国内出資先のTES―AMMジャパンとは、中古パソコンのリユース事業で協業を深めている。またインドネシアやインドの廃触媒からレアメタルのリサイクルにも取り組んでいる。時代の趨勢でほとんどの顧客がリサイクル品の併用志向に変ってきている。全量リサイクル品に変えることは難しいし、全量バージン品で賄う時代でもない」
――リサイクル分野で新たな取り組みはあるか。
「フッ素廃棄物からフッ素を回収・再利用するため、人造蛍石生産の事業化に取り組んでいる。鉄鋼以外の化学品メーカ-向けなどにも展開し、資源循環型の事業拡大を狙う」
――脱炭素分野では新設事業会社で大気中からの二酸化炭素の直接回収技術(DAC)もある。
「カーボン・エクストラクトは全農と組んで平塚でトマトの実証実験を始めた。別途九州ではいちごもやろうとしている。当初の想定以上に早く進めている。一方、SAF(持続可能な航空燃料)の開発検討にも取り組んでいるが時間がかかる。水素の実証事業も豪州で進めている」
――ニオブチタン酸化物(NTO)は。
「東芝が製造を担い、25年には商業生産に入れる。昨年6月にブラジルで次世代電池を搭載した電気バス試作車による走行実証実験を開始した。約10分で超急速充電が可能なので同じエリアを周回するバスや商業車に向いている。またバッテリー自体が非常に長寿命だ。バッテリー製造は地球に与えるダメージも大きい。黒鉛やニッケル、マンガン、コバルト、リチウムなどの電池向け原材料は鉱山で採掘後に精製されてから使用されるが、ガソリン車に比べてEV向け金属やエネルギーの総所要資源量は数倍と言われる。バッテリー寿命が短ければ、EVの方が地球へのダメージは大きく、逆効果となりかねない」
――日本積層造形(JAMPT)は。
「試作先との関係を深化しており、色々な取り組みが功を奏して対象分野が拡大してきている。注力すべきは自動車、半導体、宇宙・航空関連だ」
――ほかに非鉄金属で取り組みは。
「色々と取り組んでいる。粛々とトレードをやったりはしているが、次世代素材も含め取り組んでいる」
――中国が鉱物を輸出規制しているが、調達ソース拡大は。
「経済安全保障の問題は重要だと思っているので、寄与したいと考えているし、双日としても商機としていくつか追いかけている。新しいソースの確保を考えている。フッ素原料製造拠点の建設取組みも継続してやっている」
――調達先が偏っているもの。
「それは絶えず意識している。偏在性の問題は足元で調達先が偏っているもののみならず、将来需要の先読みを通じて、重要になってくるにも関わらず調達量が限定的なものも対象になる」
――中国がまだ禁輸していないもの。
「中国に一定量を依存しているものはもちろんだが、これは中国に限らない問題。EVの時代だからといって、双日が機能や役割を持たないままリチウムに取り組んでも強みを発揮できない。双日の強みが出せて競争優位性が持てて、社会的意義もある、そういうやるべき商材や領域を日々検討している。無理やりではなく自然に機会もあり、機能発揮できるものこそが取り組むべき領域と考えている。上流、中流、下流という障壁をなくして全ての領域で商機を見ている。こうした中でまだまだの段階の案件もあれば、大詰めを迎えるなど色々なステージのものがある」
――メタルワンとの連携の面では。
「メタルワンは本部にとって最大の資産規模、資産効率の観点からもしっかりと連携を取っている」
――直接還元鉄は。
「強みを生かせる形でやる。当社は直接還元鉄の原料となる高品位鉄鉱石を長年にわたり様々な原産国から取り扱っており、機能発揮が見込める分野でもある。カナダの高品位鉄鉱石の開発計画のカミプロジェクトに参画する。従来からブルームレイク鉱石の日本向け販売を担い、加チャンピオン・アイアン社とも強固な協力関係を築いていた。引取権を確保、安定供給する」
――グリーンアルミや低炭素材料は。
「それも意識している。低炭素や脱炭素に寄与する原材料というのはかなり意識している。結構詰めているものもあり、今後1、2年で複数のものが具体化するステージだ」
――トランプ大統領の就任に際しては。
「過度には何も考えていない。関税とか、我々が扱っているものは自動車とか半導体とか、電池材料とかすそ野が広いので、必ず影響は受けると思うが、直接的には何か破壊的にもたらすものではないと思っている。ただ、もっとファンダメンタルに物事を見ていかないといけない」(正清 俊夫、田島義史)
――23年度の総括を。
「前中計の最終年度だが、市況に助けられた部分もあったが、予算を超過達成できた。前中計はポートフォリオの入れ替えを意識して取り組み、カナダのモリブデン事業権益からの撤退もあったが、脱炭素への先進的な取り組みとしてカーボン・エクストラクトを設立した」
――30年の本部の利益500億円に向けた中期計画。
「市況の影響がなくとも500億を安定的に稼ぐ本部でありたい。市況が好転すれば700、800、1000億くらい目指せる基礎体力を持ちたい。その経過プロセスとして中計がある。初年度は350億円と当期利益目標を置いてポートフォリオの転換は引き続きやっていく。やめる一方で積み上げもやっていくが、上期の決算発表で石炭市況を主な理由として50億円下方修正した」
――石炭は強みだが変動も大きい。
「需要家自身が権益を引き続き取得しており、将来も必要と分かっている。持っているアセットを最大限にバリューアップする。開発余地はまだまだあり、保有権益や鉱山の維持・開発に当たってDXの活用でさらに効率化も考えられる」
――中計は全社で6000億円以上投資するが本部は。
「決まっていない。経営と話しながら決める。キーワードは当社の強みがある分野だ」
――強化するのはリサイクル分野も。
「リサイクルという機能は、これからのビジネスでは欠かせない要素となる。当本部のどの取組み分野でも機能や考え方を取り入れていく必要がある。単に商品を売るだけではなく、リサイクルやリユースといった要素や、処理プロセスも含めた一貫した取組みを考えることが重要」
「炭鉱で言うと遊休地やリハビリテーション(原状回復)をしながら、早生樹などの植林を通じて、CO2固定化によるクレジット創出や石炭代替燃料として期待できるバイオマス燃料の生産・供給を追求する。さらに他社鉱山のリハビリ現場にも展開して外部収益の獲得も目指す」
「23年に出資したカナダのイ―サイクル・ソリューションズは事業拡大や効率改善に注力している。廃電子機器や被覆線等を集荷して処理し、リサイクル原料としてパートナーのJX金属に販売している。国内出資先のTES―AMMジャパンとは、中古パソコンのリユース事業で協業を深めている。またインドネシアやインドの廃触媒からレアメタルのリサイクルにも取り組んでいる。時代の趨勢でほとんどの顧客がリサイクル品の併用志向に変ってきている。全量リサイクル品に変えることは難しいし、全量バージン品で賄う時代でもない」

「フッ素廃棄物からフッ素を回収・再利用するため、人造蛍石生産の事業化に取り組んでいる。鉄鋼以外の化学品メーカ-向けなどにも展開し、資源循環型の事業拡大を狙う」
――脱炭素分野では新設事業会社で大気中からの二酸化炭素の直接回収技術(DAC)もある。
「カーボン・エクストラクトは全農と組んで平塚でトマトの実証実験を始めた。別途九州ではいちごもやろうとしている。当初の想定以上に早く進めている。一方、SAF(持続可能な航空燃料)の開発検討にも取り組んでいるが時間がかかる。水素の実証事業も豪州で進めている」
――ニオブチタン酸化物(NTO)は。
「東芝が製造を担い、25年には商業生産に入れる。昨年6月にブラジルで次世代電池を搭載した電気バス試作車による走行実証実験を開始した。約10分で超急速充電が可能なので同じエリアを周回するバスや商業車に向いている。またバッテリー自体が非常に長寿命だ。バッテリー製造は地球に与えるダメージも大きい。黒鉛やニッケル、マンガン、コバルト、リチウムなどの電池向け原材料は鉱山で採掘後に精製されてから使用されるが、ガソリン車に比べてEV向け金属やエネルギーの総所要資源量は数倍と言われる。バッテリー寿命が短ければ、EVの方が地球へのダメージは大きく、逆効果となりかねない」
――日本積層造形(JAMPT)は。
「試作先との関係を深化しており、色々な取り組みが功を奏して対象分野が拡大してきている。注力すべきは自動車、半導体、宇宙・航空関連だ」
――ほかに非鉄金属で取り組みは。
「色々と取り組んでいる。粛々とトレードをやったりはしているが、次世代素材も含め取り組んでいる」
――中国が鉱物を輸出規制しているが、調達ソース拡大は。
「経済安全保障の問題は重要だと思っているので、寄与したいと考えているし、双日としても商機としていくつか追いかけている。新しいソースの確保を考えている。フッ素原料製造拠点の建設取組みも継続してやっている」

「それは絶えず意識している。偏在性の問題は足元で調達先が偏っているもののみならず、将来需要の先読みを通じて、重要になってくるにも関わらず調達量が限定的なものも対象になる」
――中国がまだ禁輸していないもの。
「中国に一定量を依存しているものはもちろんだが、これは中国に限らない問題。EVの時代だからといって、双日が機能や役割を持たないままリチウムに取り組んでも強みを発揮できない。双日の強みが出せて競争優位性が持てて、社会的意義もある、そういうやるべき商材や領域を日々検討している。無理やりではなく自然に機会もあり、機能発揮できるものこそが取り組むべき領域と考えている。上流、中流、下流という障壁をなくして全ての領域で商機を見ている。こうした中でまだまだの段階の案件もあれば、大詰めを迎えるなど色々なステージのものがある」
――メタルワンとの連携の面では。
「メタルワンは本部にとって最大の資産規模、資産効率の観点からもしっかりと連携を取っている」
――直接還元鉄は。
「強みを生かせる形でやる。当社は直接還元鉄の原料となる高品位鉄鉱石を長年にわたり様々な原産国から取り扱っており、機能発揮が見込める分野でもある。カナダの高品位鉄鉱石の開発計画のカミプロジェクトに参画する。従来からブルームレイク鉱石の日本向け販売を担い、加チャンピオン・アイアン社とも強固な協力関係を築いていた。引取権を確保、安定供給する」
――グリーンアルミや低炭素材料は。
「それも意識している。低炭素や脱炭素に寄与する原材料というのはかなり意識している。結構詰めているものもあり、今後1、2年で複数のものが具体化するステージだ」
――トランプ大統領の就任に際しては。
「過度には何も考えていない。関税とか、我々が扱っているものは自動車とか半導体とか、電池材料とかすそ野が広いので、必ず影響は受けると思うが、直接的には何か破壊的にもたらすものではないと思っている。ただ、もっとファンダメンタルに物事を見ていかないといけない」(正清 俊夫、田島義史)

