2025年1月23日

非鉄新経営 描き挑む成長のビジョン/DOWAHD社長 関口明氏/長期視点で投資検討/秋田と小坂の機能高める

DOWAホールディングスは環境・リサイクル、製錬、電子材料、金属加工、熱処理の5つの事業でそれぞれ成長投資を行いながら、事業間の連携による効率化や新たなビジネス展開も模索している。関口明社長に直近の事業環境や戦略投資の進捗、2025年度にスタートする次期中期経営計画の考え方などを聞いた。

――上期(24年4―9月)の事業環境を振り返って。

「環境・リサイクルは重要施策の一つだったインドネシアのジャワ島の第2最終処分場が本格稼働し、安定的な黒字化が上期中に見えてきた。事業全体としても業績は堅調だった。製錬はPGM(白金族類)価格が低迷し、リサイクル原料となる廃触媒(使用済み排ガス浄化触媒)の集荷が悪かった。一方で貴金属や亜鉛は円安メリットが大きく、電力料金が落ち着いてきたこともあり増益で推移した」

――電子材料や金属加工は。

「電子材料はウエアラブル機器向けの近赤外LED・受光素子が中国経済の悪化を受けて不振。好調だった太陽光パネル向けの銀粉も、中国でのパネルの過剰在庫による影響を受けて7、8月あたりから下振れた。銀粉は中国製がシェアを伸ばしている影響も受けた。金属加工は、車載関連については自動車メーカーの認証不正問題による生産調整の影響が現れたが、情報通信関連が想定よりも早く回復したこともあり増益だった。熱処理は自動車向けが主体のため、不正問題の影響をもろに受けた」

――下期の事業環境をどうみる。

「環境・リサイクルは引き続き堅調だとみている。製錬は小坂製錬(秋田県)で元々、老朽化した設備修繕のため例年より長めの定修を予定していた。その影響は秋田製錬(同)も受ける。PGM価格の回復も当面は見込みにくそうで、業績的には低調に推移すると予想する。電子材料もLEDや銀粉の在庫調整はしばらく続くだろう。一方、金属加工と熱処理は自動車関連の需要が上向くとみている」

――銀粉の環境は厳しそうだ。

「中国のパネルメーカーやペーストメーカーは、品質がそれほど良くないものでもうまく使いこなす技術的な進歩がある。当社の高機能品に対する需要が落ちているわけではなく、優位性を維持するためにも技術開発を続けていかねばならない。銀粉だけでなく、新しい導電材料をいかに開発してマーケットに売り込んでいくかも次期中計以降のテーマにはなる」

――小坂の修繕とは。

「鉛製錬の定修のほか、リサイクル原料を処理しているTSL炉も稼働して20年が経過してそれなりに傷みが激しくなっている部分があるため、この辺りで少し大掛かりに手を入れる。TSL炉の修繕は特殊な部材も使うため、来年度も行わざるを得ないかなとみている」

――今年度で終了する現中計の到達度合いをどうみている。

「環境・リサイクルは数値目標を大きく上回る形で着地できる見通し。これに対し製錬は厳しい。PGM価格の影響については慌てる必要もないと考えているが、想定外だったのは電力代だ。現中計を策定したのはウクライナ戦争が始まる前で、エネルギーコストがここまで上がるというのは全くの想定外だった。製錬では小名浜製錬、そしてパルマー探鉱プロジェクト(米国)からの撤退も決めた。これらも現中計策定時には想定していなかったことで、後ろ向きの話にも見えるが、当社にとっては結果的に収支面でプラスに効いている。また、廃触媒の集荷では米国のサンプリング工場を移転し、9月にスタートした。作業動線がスムーズになり拡張余地もあるため、非常に良い工場になったと思っている」

――電子材料や金属加工は。

「電子材料は近赤外LEDのほか、燃料電池材料の複合酸化物粉体も商業生産プラントが完成しているが、マーケットの立ち上がりが当初想定より遅れている。金属加工は自動車の電装化や高度情報化を見据えた高機能なコネクター用銅合金などの上市を着々と進めており、市場環境が戻れば数値目標に近いところまでいずれ行くだろうと考えている」

――秋田でボトルネックになっていた工程内半製品処理のヘマタイト工場の増強を進めていたが。

「完工して11月に商業運転をスタートした。いまのところ順調に操業しており、これが続けば年間22万トンの亜鉛生産が安定して行えるようになる」

――小坂のTSL炉のパイロットプラント建設は。

「これも夏前に完成し、秋口から動いている。商業運転しているTSL炉のミニチュア版で、ここで新たな原料や燃料転換の実証を行う。DOWAエコシステムにこのほど製造設備を導入したバイオコークスをTSL炉の燃料に使えないかも試す。炉内での原料の挙動なども分析し、操業効率化を図るためのデータ取りにも活用する」

――次期中計の考え方を聞きたい。

「目先の2年、3年ではなく2030年とか35年を見据え、新しいビジネスを展開していくためにはこれくらいの設備の装備が必要だろうという観点で投資は考える。お金がかさむからといって投資規模を抑え、減価償却費を少なくしていこうといった考えは一切ない。ただ、これから先の脱炭素化投資などは、世の中がどちらの方向に進むのかはっきりしない部分もまだあり、慎重に見極める必要はある。インターナルカーボンプライシング制度は導入したいと考えているが、具体的にどのような形で導入するのかについてはもう少し世の中の動きが固まるのを待つ。そういう意味では、投資は早からず遅からず、必要なタイミングで進めたい」

――パルマーから撤退したが、資源開発はまだ進めるのか。

「いま稼働しているティサパ(メキシコ)とロスガトス(同)の2つの鉱山で当社の亜鉛生産に必要な原料の40%くらいをカバーしている。これに国内で調達している亜鉛二次原料を合わせると大体50%くらい。長期的な目標として、二次原料を含めた自山鉱比率50%を維持したい。ティサパがあと10年程度でマインアウト(寿命)すると想定しており、そのタイミングで後継鉱山はほしい。もう一つは、二次原料を拡大する方向性がある。鉄鋼メーカーが電炉シフトすることで亜鉛二次原料の電炉ダストの発生は増えるため、しっかり買っていく。資源開発で具体的な案件は現状ないのだが、良いプロジェクトがあれば探鉱予算を振り向けるべく資源チームが有望なプロジェクトの発掘に取り組んでいる。資源ナショナリズムも厳しくなり案件を探し出すのは容易でなく、結局はカナダや米国、メキシコなどになってくるのではないか。ベースフィードになる鉱石の品質がある程度一定でないと製錬所の操業が安定しないため、製錬全体のパフォーマンスを上げる意味でも安定した自山鉱の調達は大切。一方で自山鉱100%にすると鉱山トラブルがあった際にリカバリーできないため、その意味で50%というのがちょうど良いと考えている」

――今年度末で秋田製錬に周辺の関連子会社3社を集約することを発表した。その狙いや効果を。

「間接部門が統合されることで、まず効率は非常に上がる。これまでは資本関係が違うためにできなかったが、秋田製錬の完全子会社化で制約がなくなった。技術的にも統合効果はかなり出てくると思う。秋田製錬はこれまで、基本的には天然鉱石を使って亜鉛をいかに効率的に採取するかというのが唯一の命題だった。しかし、秋田と小坂の製錬コンビナート機能をいかに高めるかという考え方ができるようになった。例えば秋田から小坂に送る中間製品の前処理を現在は小坂で行っているが、秋田で行ってボリュームを減らしたほうが輸送の効率を上げられる。DOWAメタルマイン全体で最も良い投資のあり方をフリーハンドで検討する」

――亜鉛製錬の事業環境は電力などのコスト増や鉱石の買鉱条件(TC)悪化で厳しい。来期にかけての見通しを。

「電力料金については足元少し落ち着いており、このまましばらく続くだろうとみている。一方で25年の買鉱条件はより一層厳しくなる見通しがある。この部分は受け入れざるを得ないし、短期的に何か手が打てるかというと答えはない。秋田と小坂の製錬コンビナート機能の発揮、二次原料の増強、DOWAエコシステムとのリサイクルでの連携のほか、日本の亜鉛製錬メーカーでは唯一タイに合金工場を構えている強みも生かし、総合力で持ちこたえる。また経済安全保障の観点で重要性が増すガリウムやゲルマニウムを当社は国内で精製していることも強みになる。亜鉛をキャリアにしてもっと戦略的に必要なレアメタル群の回収率を高める、あるいは新しい原料を持ってくるというのも一つの考え方だ」

――新しい原料とは。

「亜鉛以外の原料を混ぜ込んで亜鉛製錬のプラント、もしくは小坂のプラントを通じて回収元素の数を増やすことなどが考えられる。自前で行うだけでなく、日本ピージーエムのようにどこかと協業して、当社はどちらかというと前処理的なところを担い、最終精製工程はパートナーに任せるといったやり方も選択肢としてあり得る」

――バイオコークスの事業化はどうか。

「自社のプラントで実証を兼ねたデータ取りができるというのは非常に大きな強みになる。グループ内の脱炭素化に資するのにとどまらず、世の中に石炭コークスの代替として供給していくことが大きな目標になる。次の中計というより、さらに次の中計を目指すことになると思う。現在は数百トン規模のプラントだが、30年度くらいに数万トン規模までもっていきたい」

(田島義史、新保貴史)

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