2025年1月16日

日本製鉄 事業部長に聞く/厚板/園田裕人常務執行役員/高級鋼に軸足シフト/洋上風力設備などCNニーズ対応

――24年度下期の厚板の需給動向から。

「造船は各国とも3年以上の手持ち工事量を確保し、活動は当面堅調に推移する見込みだ。中東情勢の悪化に伴う紅海ルートから喜望峰ルートへの迂回影響で船腹需要がタイト化するものの、海上運賃の上昇には繋がっておらず、状況は極めて不透明だ。新造船マーケットは08年頃に発注した船の更新需要に加え、CO2排出抑制に伴う新燃料船への切替対応で造船各社は船隊の更新を追求し需要は旺盛。商談は28年納期以降に移っている。これらで船価も上昇している状況だ。中国造船は、新造船の世界受注の7割を占める状況で建造能力の拡大を図っている。韓国造船は受注、竣工とも直近数年から横ばいの状況が継続する。一方で日本造船は造船不況時に事業規模を縮小した経緯があり、人手不足・働き方改革により建造能力は現状で頭打ちとなっている」

「好調だった建機は低調状態に入ってきた。世界経済でインフレ圧力が和らぐものの、成長率はコロナ禍以前と比べ低くなっている。世界の建機需要環境は、欧州の金利高やエネルギー価格の高止まり、中国の景気低迷が継続、資源価格が緩やかに下落し、鉱山機械需要も減速リスクがある。北米は底堅いが、在庫調整による生産減が各需要家で発生、世界需要想定では23年度比で5ー10%減の見通し。足元は厳しい状況で、25年度上期も短期では好転しないだろう」

「土木は公共工事受注金額は14兆円前後で横這いだが、資材・労務費の高止まりなどによる鋼材消費への影響は注視が必要で、中長期的にも大きく増加していくとは想定していない。建築は25年度、特に下期以降は首都圏超高層案件の着工が集中してくると想定、足下が底と考えている」

――国内需給と日鉄の対応はどのように。

「造船分野はメーカーの手持ち工事量などから足元並みの堅調な活動を想定。建築分野も端境期を抜けて大型物件が動き始める。建機は在庫調整が一巡し、エネルギー分野では洋上風力案件も需要期に入る中で需要自体は底堅いことが見込まれる。また、米国の政権交代による関税引き上げなどの動きによる間接輸出をはじめとした鋼材需要の動向にも注視している。」

「供給面で当社は、25年度から新たに君津・大分の2拠点生産体制となる。これに向け24年度第3四期に君津で仕上げ圧延機の健全化工事も無事に終え、鹿島の圧延休止も予定している。生産移管もメドが立ち、2ミル化後の安定生産・安定品質に努める。他社の生産体制に大きな変化はないと認識しており、需給バランスは引き続き注視していく。」

――厚板事業の構造対策の進捗は。

「名古屋製鉄所で21年度末に厚板ミルを休止済みで、東日本製鉄所鹿島地区の厚板ミルも24年度末休止する予定だ。2ミル化後の供給体制を量的にも質的にも安定化させるために、24年末には君津の仕上げ圧延機の健全化工事など必要な設備投資も実行した。25年度は中期経営計画最終年に当たり厚板事業では24年度末に迎える構造対策の完遂が一つの節目となる。」

「品種高度化も踏まえて設備投資を検討していく。足元も今後も厚板事業はエネルギー向けなど高級鋼にも軸足をシフトできる体制を整え、国内のみならず全世界の需給環境を見極め、スループットと収益のバランスを最適化していくことがテーマだ。その中で必要な設備投資については、厚板ミルにとどまらずグループ会社を含めて柔軟に検討・実行していく」

――商品戦略でもカーボンニュートラル(CN)ニーズなどへの対応を推進、高付加化に取り組んでいます。

「CNに向けた産業界・需要業界を挙げた取組みが加速、カーボンニュートラルスチール(CNS)の供給ニーズも高まっている。厚板はプロジェクト案件への適用、リピート採用が進捗。23年度第2四半期から24年度第4四半期の採用社数は増加している。エンドユーザーが価値を認めて頂き、最終製品にまで価格 反映された事例も相次いでいる。CNニーズ、人手不足などの社会動向、個別ソリューションなど、需要分野・業界ニーズに対し、当社のシーズが的確に貢献する開発を基本とする。CNニーズに対しては洋上風力向け設備や化石燃料代替エネルギーのLCO2(液化二酸化炭素)、アンモニア、水素などの貯蓄、貯蔵、運搬の施設に求められる高機能鋼を開発中だ。社会動向、施工・溶接などの省力化やLCC(ライフ・サイクル・コスト)などのニーズに対しては橋梁補修における鋼床版急速取り換え工法SーCAP工法による省力化に代表されるようなソリューション展開を加速したい。CORSPACE(コルスペース)も塗装周期延長による塗料費用削減によるLCC削減だけでなく、塗装時のGHG(温室効果ガス)排出量削減として46%減効果を定量化・提示、公共案件などへの適用を国内外で進めている」

――価格政策について。

「為替影響や物流の24年問題・労務費などの各種コストが高止まりし、不可避なコストアップについて、サプライチェーンでの公平なコスト分担を顧客と協議し、これまでに一定のご理解をいただいた。引き続きフェアなコスト分担について協議していく。労務費の継続的な上昇と脱炭素対応も巨額投資の必要性も踏まえると当社自助努力のみで製造コスト負担を全て負うことは難しく、顧客に対しては適正な鋼材価格への反映について理解活動に努めたい。取引形態などの見直しは紐付き分野では、市場変化に臨機応変に対応するため、価格の先決め化などに取り組んでおり、顧客からもご理解をいただいている」

「今後は電力含めたエネルギーコストなどのコストアップの要素が継続すると想定され、引き続きフェアなコスト分担について協議、将来的なカーボンニュートラルへの転換も踏まえ、商品の価値やユーザーへの貢献などの付加価値を価格へ適切に反映するべく取り組む」

――「輸入材の動向について。

「厚板関連では主に敷板になるが、中国からの輸入状況を警戒。中国内需が低調な中で敷板向けなどの輸入材シェアが高まっており、引き続き輸入材動向のモニタリングを通じ動向を注視する。国際需給は引き続き厳しい状況にあると認識している」

「輸入材の動向は量、価格とも注意深く動向を注視している。仕向け国並びに向け先需要分野、荷揚げ地域などに詳細情報は確認できており、適切に対応する。国際市況との内外価格差は理解しており、為替が円安方向にある中でも一定水準の入着は想定し、動向を警戒していく」

――商慣習、諸物価変動への対応は。

「物流の2024年問題に関連した物流費・労務費変動に関し、円滑なデリバリー体制維持・向上に向け、サプライチェーンでの応分のご負担を一定程度ご理解頂いている。今後も情勢を見極めつつ、モーダルシフトや契約形態の変更、陸送のオーダー早期化などの協力をサプライチェーンと共に検討、実行し、無理・無駄のない円滑なデリバリー体制維持・向上に努めたい。厚板・建材の供給体制再編成を受け、量とデリバリーを含めた質の両面で最適なスループットを追求し、顧客のビジネスに貢献していきたい。その過程で生産ラインナップや鋼材エキストラの最適化について業界の状況を注視しつつ、今後もマーケットやサプライチェーンとの対話・連携を深めながら、必要に応じた見直しを実行したい」

――サプライチェーンの維持、強化へ向けた取り組みは。

「厚板・建材事業でも『事業の厚み』を目指す。子会社化した日鉄物産との連携の議論を進めており、営業ノウハウと日鉄物産ビジネスオンライン活用などインフラを一体活用した営業力強化と効率化、シナジーを発揮していく。22年4月に統合した太陽サカコーはシナジーの目線で両社の加工・物流・分野捕捉拡大・営業窓一本化の長所をすり合わせし、顧客にとって一社では成し得なかった価値を提供する取組みを進めている。24年度も日鉄神鋼シャーリングと三橋鋼材の統合を手掛けており、今後もニーズや競争環境変化を見極めつつ、適切な施策を講じる」

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