2025年1月15日

非鉄新経営 描き挑む成長のビジョン/JX金属社長 林陽一氏/コア技術は国内保有/資源・製錬、リサイクルへの転換推進

JX金属は半導体材料と情報通信材料のフォーカス事業を成長エンジンとして強化中だ。祖業である資源・製錬のベース事業はリサイクルを中心とする事業構造へと転換する。東京証券取引所に株式上場を申請中の同社にとって2025年はどのような年になるのか。今後の成長戦略やグループ運営の方針などを林陽一社長に聞いた。

――昨年の振り返りから。

「注力するスパッタリングターゲットを中心する半導体材料は、生成AI関係の需要が拡大した。ボリュームゾーンのデバイス関係はパソコンやスマートフォンが回復途上で全体的な力強さは感じられなかった。情報通信材料は顕著に立ち上がってきた。例えばチタン銅だ。生成AIサーバーのコネクターに採用されており17年を100とすると24年上期は140―150に成長している。価格の適正化も進めた。ひたちなか新工場(茨城県ひたちなか市)の建設も順調だ。資源・製錬はポートフォリオを入れ替えている。良質で競争力のある鉱山と、競争力の高い製錬所をリサイクルを中心にした事業体に変革していく」

――今年の展望を。

「AIサーバーというプラットフォームが構築される過程でそこに搭載されるデバイスは必須だ。当社の半導体材料はそういう分野での成長が期待できる年になりそうだ。チャットGPTの活用が広がりエポックメイキングのような事が起これば、さらにデバイスの需要が跳ね上がる期待感もある。金属価格は今の需給バランスを考えると高値圏での推移が続きそうだが、製錬事業は買鉱条件が非常に悪く厳しい環境に置かれる。引き続きリサイクルを中心とする事業構造に変えながら、皆様に賛同いただいているサステナブルカッパー・ビジョンを進めていく」

――米トランプ政権の事業への影響をどう考える。

「基本的には今の米中対立の路線が変わることはないだろう。その中でトランプ政権の政策がどう影響してくるのかしっかり見極める必要がある。当社の材料がなければ半導体は造れない。需要が無くなることはないので大きな心配はしていない。ただし関税の問題は出てくる。米国に半導体用ターゲットの最終工程はあるが、関税が大幅に引き上げられるようなら、もう少し前の工程をブラックボックス化した上で出すことも検討する必要がある。本当にキーになる技術は日本に残す」

――米中対立によるサプライチェーンへの影響はどうか。

「直接的な大きな影響はないと考えているが半導体材料は40種類以上の金属を使っている。中国が輸出に関して厳しい対応を取れば影響が出るかもしれない。すでに取り組んでいるが調達先の多様化は必要だ。自分自身での資源開発や製錬技術を活用しながら調達先を多様化する」

――米半導体大手インテルの業績悪化で半導体用ターゲットの事業への影響は出ているか。

「われわれは各半導体メーカーのシェアに応じて材料を供給しているので、特定のメーカーの業績悪化は心配していない。ただし特定の1社だけが強くなり過ぎる状況は素材メーカーにとっては決して好ましい状況ではないので、インテルさんには頑張ってほしいと思っている」

――昨年10月に東証に上場申請した。

「半導体材料と情報通信材料を中心に成長するため、それに見合うキャピタルアロケーションやスピード感で事業を判断する。成功のためには多くの失敗も必要だ。失敗を恐れずチャレンジできる会社、社風にするためにも、できるだけ早く上場を実現したい」

――半導体分野は変化が激しい。収益安定化はどのように。

「半導体用ターゲットはもちろんだが、光通信に使う化合物半導体インジウム・リンなどの結晶材料やリソグラフィ材料などもある。大量のデータを保持するためのハードディスクなどメディア系の分野でも磁性材など非常に高い収益率を持った製品が徐々に増えてきている。こうした収益率の高い製品を増やしていくことが収益の安定化につながると考えている」

――今後のフォーカス事業の生産体制をどう考えているのか。

「日本の製造業は安価な労働力を求めて海外に進出した結果、重要な技術が流出してしまった。その失敗を繰り返さないためにコア技術は国内にとどめておくのが基本だ。しかしBCPの観点から海外生産も欠かせない。半導体用ターゲットならメイン工場は磯原工場(茨城県北茨城市)だが、建設中のひたちなか新工場をセカンドメイン工場にして基本的な技術は国内で持つ。一方で顧客に近い場所に技術者を配置してデリバリーと品質の対応をワンストップで行える海外拠点も必要になる」

――ひたちなか新工場のデザインを。

「半導体材料がメインになる。建屋を建てておき、その後は最もタイムリーな材料に投資していく。中心になるのは間違いなくスパッタリングターゲットだが、成長期待の大きい結晶材料の可能性もあるしリソグラフィ系の材料になるかもしれない」

――上場後の社名変更の可能性は。

「JX金属という社名がようやく浸透してきた。ここで社名を変えたら採用にも響くので、少なくとも上場後しばらくの間は変えるつもりはない」

――上場後のグループ体制はどうなる。

「タツタ電線はスマートフォンのシールドなどでグローバルシェアが高い。インクペースト技術などもあるため、こうした強みを生かしながら相乗効果を引き出していきたい。東邦チタニウムとの今の関係は最適だと思っている。東邦チタニウムには半導体材料のチタンやタンタルなどの溶解技術、塩化技術、金属粉の技術もある。銅粉やタンタル粉はこの先の世界で非常に重要な要素になってくるので、そこは一体化していく。一方でチタンスポンジについては難しい判断になる。今時点ではそれなりに安定しているので当面はこの体制を続けていく。ただ当社の上場後は親子上場となるため、事業環境の変化に応じて取り込むかもしれないし、100%離れることがあるかもしれない。成長性を軸に判断していきたい」

――上場後のM&Aの可能性などは。

「現時点で大きなM&Aの可能性はない。ただし技術のすそ野を広げる可能性のあるものが出てくれば、小規模なM&Aはしていくかもしれない。M&Aにこだわらずスタートアップへの出資なども通じて技術を獲得していくことが重要だと考えている」

――銅事業はパンパシフィック・カッパー(PPC)に丸紅が参画して三井金属との3社体制になった。

「銅精鉱を海外から調達したり電気銅を海外で販売するのにPPCが単独でできることには限界がある。丸紅さんの海外ネットワークを活用した調達力と販売力でPPCの体制がより強化される。リサイクルのJX金属サーキュラーソリューションズを三菱商事さんと合弁で設立したのも同じような理由だ。リサイクル原料の集荷競争は激しく大変な状況。このためにリサイクルという大枠で全体観を持って原料を集荷し分配するような仕組みが必要になる。ある意味ブレークスルーするために商社さんのお力をお借りしている」

――レアメタルのサプライチェーン強化の取り組みを。

「今も色々な案件を検討している。ただ我々はレアメタル資源を開発する技術の蓄積が乏しい。ベースメタルと異なる部分も多いため、勉強しながら次にポジションを取れるような案件が出てくれば、そこに出資をしていくことになる」

――リチウムイオン電池リサイクルの事業化に向けた取り組みはどうか。

「初期的なラボレベルでは欧州電池指令に定義されている回収率ができている。これを商業ベースにするにはまだ技術的なハードルがあり必要な要素を開発していく」

――人材の確保や育成について。

「まずは人が辞めないことが重要。磯原工場には非常に優秀な半導体関連の技術者が多くいるが、立地場所や家族の問題や学習環境など色々な理由で退職する社員がいる。新工場を建設中のひたちなか市は東京に比較的近く通勤・通学圏内なので今いる技術者の定着が期待できる。また茨城大学の工学部などと関係を強化している。決して東京に出ていきたいわけではないが就職先が無くやむを得ず東京に出ていく方もいる。そうした方々とつながりを持てるイベントも企画している。世界トップレベルの製品供給を通じて成長性の高い魅力ある会社になることが人材の確保につながる」(増田 正則)

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