2025年1月7日

新春インタビュー/JFEスチール社長/広瀬 政之氏/量から質への転換 一段と/長期ビジョン、パーパスと連動

――2024年度最終の第7次中期経営計画で多くの改革を実行した。仕上げに入るが、成果をどう評価しているか。

「国内需要が建設中心に低迷し、海外も中国による鋼材の大量輸出によって鋼材市況が下落するなど取り巻く環境は非常に厳しい状況が近年続いている。24年度の単独粗鋼生産予想は2240万トンと極めて低い水準だが、中計で『量から質への転換』を掲げ、構造改革を完遂し、各種施策でコスト削減を図るとともに鋼材販売価格の改善や高付加価値品比率の向上によって収益力を高め、JFEスチールとして棚卸資産評価差等除く実力の利益は1500億円を確保できる見通しだ。成長戦略投資を実行し、国内では、自動車用超ハイテン鋼板の製造能力を増強するため溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインの建設を決定した。海外においては、昨年にインドのJSWスチールと合弁で方向性電磁鋼板の製造・販売会社を設立し、豪州ブラックウォーター炭鉱の権益10%取得を進め、インドの電磁鋼板製造のティッセンクルップ・エレクトリカル・スチール・インディアの買収も決めた。ただ、実力の利益は2600億円を目指していたので1000億円近い未達となり、今後も続く厳しい事業環境や脱炭素の対策への投資を考えると収益力のさらなる向上策が不可欠となる」

――社長に就任した昨年にパーパスとバリューを策定した。パーパスの「ねがう未来に、鉄で応える。」に込めた想いとは。

「我々は何のために存在しているのか。会社と社員がともに成長するために、会社の存在意義を示すパーパスと大切にする価値観としてのバリューについて全社員参加型で全社員にアンケートをとり、ワークショップなども開いて策定プロセスを進めた。パーパスのフレーズの中に『鉄』の字を望む声が多く、鉄に対する強い愛着、誇りが伝わってきた。そのような社員の声を受け止めながら決めたパーパスとバリューの意義を各製鉄所に赴いて説明し対話も行い認知を図っている。カーボンニュートラル(CN)の実現という大きな課題に立ち向かい、未来を切り開いていく原動力はなんといっても社員の力。社員が働き甲斐を持ち、いろいろなことにチャレンジする会社にしていく。パーパス、バリューと連動した内容の長期ビジョンを、25年度からの第8次中計とともに発表し、パーパス、ビジョン、バリューの3つをそろえて次期中計に臨む考えだ」

――新中計、さらに長期ビジョンのコンセプトは。

「国内の製鉄業がコア事業であることは変わらない。強みの技術力、GX、DX、人財の力を最大限発揮し、国内製鉄事業の『稼ぐ力』を向上させる。培った技術や人材を成長領域の海外事業や国内のグループ会社の成長分野の事業、ソリューションビジネス、京浜地区の土地活用を含めた新規事業の領域に投じていく。CNは大きなチャンスでもあり、世界に先駆けて脱炭素の超革新技術を開発し、事業拡大とJFEグループ全体の成長につなげていく」

――鉄鋼の内需は24年度に5000万トン強に減少する見込みだが、新中計の前提として需要をどうみるか。

「内需は25年度に少し回復するとみているが、中長期的には人口減少の見通しから建設分野、製造業分野ともに需要が縮小していく前提で戦略を組み立てる。海外は中国の鋼材輸出の影響が続き、国際的に供給過剰な状態が継続するため鋼材輸出を増やすことは難しい。生産規模が増えない前提で国内の生産体制を考え、『量から質への転換』を続ける。高付加価値品比率を今年度に50%に上げているが、次期中計でさらに比率を引き上げていく」

――高付加価値品の電磁鋼板、自動車用の高張力鋼板(ハイテン)の能力増強を進めている。大単重厚板など新エネルギー向けの鋼材含め戦略商品の強化策とは。

「高級電磁鋼板の生産能力を24年度に倍増させたが、26年度には3倍にする計画だ。EV化の流れが世界的に鈍化しているが一方でハイブリッド車の販売が増え、高級電磁鋼板の需要は依然堅調だ。ハイテンは車体軽量化のニーズがさらに強まり、需要の伸びを考えると生産能力は足りないため、増強投資を決定した。高強度かつ加工性に優れる当社が強みとする戦略商品であり、販売を拡大していく。洋上風力発電のモノパイルに使用される大単重厚板のジェイテラプレートも拡販していく。大単重厚板が供給可能な鉄鋼メーカーは世界で限られ、日本のプロジェクトは少し遅れているが欧州の需要が旺盛で引き合いは強い。アンモニアや水素、CCS・CCU向けの鋼管も需要が旺盛であり、棒線やステンレス鋼も特長ある新商品を開発して市場を開拓していく」

――成長の大きなカギとなる海外戦略はどのような策を考えているのか。

「高級鋼の需要が伸びる国で信頼できるパートナーと一緒に技術力を生かしながらマーケットに入っていく。中長期的に注目する市場はインドと北米だ。インドではJSWとの協業を前進させる。JSWと従来の自動車用鋼板や電磁鋼板の技術協力に加え、いろいろなテーマで協業を検討しており、上工程の協力についても可能性は排除しない」

――トランプ次期大統領の政策で北米市場が変化していく。どう対処し、自社の成長に結びつける策をどう展開していくのか。

「さらに閉じられたマーケットになる可能性があり、マーケットの中に入っていく必要がある。米鉄鋼大手のニューコアとともに米国でカリフォルニアスチール(CSI)に共同出資したり、メキシコで自動車用鋼板製造会社のニューコアJFEスチール・メキシコ(NJSM)を合弁で運営しており、北米の成長戦略はニューコアとの協業を軸に考える。トランプ氏の政策によって住宅販売など経済が浮揚すればCSIにとって販売面でプラスとなるが、半製品の輸入で影響を受けるかもしれない。メキシコに対し関税を引き上げることになればNJSMの事業に影響が及ぶ可能性も否定できず、いずれも状況をみながら対策を講じていく。新政権の政策と市場の動向を慎重に見極めるが米国が成長市場であることに変わりはなく、ニューコアとは新規の事業展開を含め、さまざまな検討を続けており、将来に向けて手を打っていく」

――東南アジアや中国の市場が低調だが、事業会社の戦略をどう立て直していく。

「自動車用鋼板を製造するJFEスチールガルバナイジング・タイランドとJFEスチールガルバナイジング・インドネシアは両国とも自動車生産が緩やかに回復していくとみており、市場の成長に対応していく。ベトナムは製造業の成長が鈍く、中国からの鋼材輸入も多いが、出資するフォルモサ・ハティン・スチールは戦略に変更なく、当社としては効果的な連携策を考えていく。中国は鋼管と鉄粉の事業会社の撤退を決めたが、自動車用鋼板を製造する広州JFE鋼板は利益を上げており、事業ごとに市場の動向を注視しながら是々非々で考えていく」

――UAEの大径溶接鋼管製造子会社アル・ガービア・パイプ(AGPC)が好調だ。

「立ち上げ時は苦労したが旺盛な需要に支えられて高水準の生産が続き、収益が向上している。輸出も増やし始めている。国内外への供給量を増やす必要があり、大規模な増強投資ではなく設備改造や操業改善によって生産量を増やしていく」

――長期ビジョンはJFEホールディングスとして利益倍増を目指している。鉄鋼事業は現中計の鋼材トン当たり利益目標を大幅に引き上げていくことになるのか。

国内の製鉄事業としては、『量から質への転換』をさらに進めるとともに、海外展開を加速し、ソリューションビジネス、グループ会社、さらなる新規事業なども成長させ、鋼材トン当たり利益の引き上げを目指していく」

――中長期の成長を視野に今年度初めにDX戦略本部を立ち上げ、取り組みを強化している。

「DXの取り組みを先行させている。全製造プロセスのCPS(サイバー・フィジカル・システム)化は現中計で80%に達し、次期中計で100%を目指す。個々の製造ラインをCPS化したうえで、それらをつなげているが、全社一貫CPSを構築していくとともに、自動化や遠隔化によって生産性を高める。製造プロセスの領域だけでなく、本社などで他の業務でもDXを推進し労働生産性を上げていく。製造業向けDXソリューション『JFE レゾラス』を進めており、培ったノウハウを協業している海外鉄鋼メーカー向けに販売していくが、レゾラスには異業種からも関心が寄せられ、鉄鋼業に限らずに広く展開していく」

――脱炭素に向けてGX戦略本部が重要な推進力となり、対策が具体化していく。

「東日本製鉄所千葉地区で3つの試験設備が今年度から来年度に順次立ち上がり、実証試験を進めていく。西日本製鉄所倉敷地区で27年度に改修時期を迎える高炉1基を休止し、高効率・大型電気炉への切り替えを検討している。GX推進法に基づく『排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業』に採択されたので、年度内に意思決定を行いたい。30年代半ばまでに研究開発を進めているCR高炉や水素還元製鉄などの超革新技術開発を完了させる。グリーン鋼材市場の創出に取り組んでいるが、政府の支援が不可欠であり、経済産業省のグリーン鉄研究会のフレームワークで公共事業での調達など需要を増やす検討を進め、マーケットを作っていきたい」

――将来に向け、人材の確保・育成が最も重要な課題となる。

「人財戦略本部で方策を進め、昨年10月に人事制度を一新した。社員がより働き甲斐を持ち、チャレンジしやすい制度を作った。社員に企業文化を変えていこうと訴え、人財戦略本部の中にカルチャー変革室も設置して活動している。文化を変えるには時間を要するが、中長期的にみても社員の力が最も重要となる。企業として持続させていくには、時代や状況に応じて文化を変えていく必要がある。対話を通じながらこちらも気づくことがあり、いろいろとやることは多いが、会社全体を変えていくために一つずつ実行していく」(植木 美知也)

スポンサーリンク


九州現地印刷を開始

九州地区につきましては、東京都内で「日刊産業新聞」を印刷して航空便で配送してまいりましたが、台風・豪雨などの自然災害や航空会社・空港などの事情による欠航が多発し、当日朝に配達できないケースが増えておりました。
 こうした中、「鉄鋼・非鉄業界の健全な発展に寄与する専門紙としての使命を果たす」(企業理念)ことを目的とし、株式会社西日本新聞プロダクツの協力を得て、12月2日付から現地印刷を開始いたしました。これまで九州地区の皆さまには大変ご迷惑をおかけしましたが、当日朝の配達が可能となりました。
 今後も「日刊産業新聞」「日刊産業新聞DIGITAL」「WEB産業新聞」によるタイムリーで有用な情報の発信、専門紙としての機能向上に努めてまいりますので、引き続きご愛顧いただけますよう、お願い申し上げます。
2024年12月 株式会社産業新聞社