2024年12月26日

鉄鋼新経営 描き挑む成長のビジョン/日本鋳造社長/鷲尾勝氏/ロボ新設 スマート化着々/航空宇宙分野・グリーン製品注力

――足元の需要状況は。まず鋳鋼品を手掛ける素形材関連から。

「素形材関連のマーケット環境は良くない。品質認証問題などに伴って、自動車分野が低調に推移した影響を受けており、機械加工品など関連マーケットにもマイナス影響を及ぼしている。建設機械分野も低迷している。一方、半導体製造装置分野は好調で、今期の受注金額は前期を上回るペースが続いている。この分野の川崎工場の生産重量に占める割合は3割程度だが、工数を要する製造難度の高い製品が多く、中子造型や加工・仕上げの各工程が能力ネックになっており、さらなる生産性アップが課題になっている」

――橋梁部品や建築用柱脚などを扱うエンジニアリング関連は。

「エンジニアリング関連は高速道路の補修工事向け受注が堅調であり、至近では大阪モノレールの延伸工事に伴う軌道向け支承が増えている。ただ建設の2024年問題による影響が顕在化しており、需要家への納期が延びる現象が生じている」

――2024年4―9月期決算をどのように評価しているか。

「前年同期比で減収になり、赤字に転落した。素形材関連の受注が少なく、生産・販売量が大きく減ったのが主な要因。下期はこれが回復するとみており、またエンジニアリング関連も好調が持続することから、通期では黒字化を見込んでいる」

――25年3月期から3カ年の中期経営計画がスタートした。

「各施策を着実に進めているが、現中計の策定時から取り巻く環境が大きく変化している。トランプ氏の大統領再登板の市場に与える影響が不透明であり、動向を注視したい」

――川崎工場の取り組みは。

「23年10月に池上工場の操業を休止し、川崎工場に機能を移管した。需要家の品質認証は8割程度取得済みで、川崎工場と中国・無錫市に製造拠点を置く企業とでOEM契約を締結し、鋳造品を購入。当社で品質管理・品質保証を行い、需要家に出荷している。川崎はスマートファクトリー化に向けて進めており、自動押し湯切断ロボットに加えて、24年3月に溶接補修ロボットを新設した。自動押し湯切断ロボットは対象品種を拡大し、現時点で6割程度をカバーしており、最終的には全ての鋼種に適用したい。溶接補修ロボットは戦力化しつつあり、半導体製造装置向け鋳鋼品に係る欠陥補修に適用しており、省人化・生産性改善に寄与している。今後は砂型造型設備のミキサーを更新する。大型ミキサーを集約して作業効率をアップし、生産性を高めていきたい」

――鋳鉄水平連続鋳造棒「マイティバー」などの鋳鉄品を生産する福山製造所はどうか。

「24年4月に10トン高周波誘導電気炉を導入した。これまで低周波誘導電気炉2基を設置していたが、両炉ともに稼働率が低く、間欠操業が続いていた。新設した高周波炉に集約して連続操業に切り替えたことで溶解効率が大幅にアップし、短時間での鋳造が可能になり、生産性が高まっている。川崎で取り入れている動線解析を横展開し、所内レイアウト最適化などを図る」

――低熱膨張合金「LEX(レックス)」シリーズ、製造プロセスにおける温室効果ガス(GHG)排出量をゼロとした鋳造品「GREENCASTINGS(グリーンキャスティングス)」の状況を。

「LEXシリーズは、国内は半導体製造装置向けが好調。輸出は国内と同様に半導体製造装置用で米国向け輸出を手掛け、サンプルトライから徐々に採用数量が増えており、今後の受注増に期待している。また、LEXシリーズの熱膨張ゼロ合金『LEX―ZERO(レックス・ゼロ)』を用いた3D積層造形製品が宇宙観測プロジェクトに採用された。宇宙観測衛星のニーズはさらに高まる可能性があり、今回の採用を機に航空宇宙分野市場に本格参入する。LEXシリーズの今期売上高は前期並みを見込む。グリーンキャスティングスは採用実績が増えるようアピールを強める。川崎で製造するカーボンフリーの鋳造品販売量について、日本海事協会から第三者認証を取得しているが3D積層造形製品、福山の鋳鉄品についても認証取得を計画する」

――新しい鋳造方法を開発した。

「3D積層造形技術を活用し、鋳包み材に3D積層造形製品を用いる新しい鋳造方法を開発した。2024年9月に国内特許を取得済みで、すでに実用化しており、従来の方法に比べて作業時間が半減しており、効果を発揮している。鋳造する前にシミュレーションツールで湯流れ解析や凝固解析を行うが、欠陥が生じる可能性がある箇所に3D積層造形による鋳包み材を鋳型に組み込んで鋳造品と一体化させる。用いる金属粉は水アトマイズ法で製造し、普通鋼に近い成分で、800キログラムの鋳造品に対して、1%前後の重量になる。実用化後、3D積層造形装置がフル稼働になり、24年4月に1台増設し、2台体制としたが、さらなる増設も検討する」

――カーボンニュートラル(CN)実現に向けての進捗状況を。

「24年度末には川崎でCNを実現する見通し。北陸電力からCO2排出量ゼロとなる再生可能エネルギー由来の非化石証書を使用した電力を購入していたが、24年7月には東京ガスから同証書を使ったガス購入を始めており、CO2排出量が実質ゼロになった。現中計のCO2排出量削減目標について、30年度までに13年度比70%削減、50年度までにCN化を目指していたが、川崎においては26年度でのCN実現を2年前倒しで達成する」

――DX(デジタルトランスフォーメーション)やIoT(モノのインターネット)を導入・活用は。

「川崎では操業の見える化を進めており、溶解工程の各設備の稼働状況やエネルギー使用量をパソコンやタブレット端末などで監視。不具合の早期発見などの効果を得ており、造型、機械加工の各工程にも順次導入する」

――職場環境の改善はどうか。

「働き方改革の一環として、25年4月に横浜駅周辺で新事務所を開設する。本社スタッフは予定などに応じてテレワーク、レンタルオフィスを活用しているが、横浜駅周辺にオフィスを構えることで、外勤者や出張者の業務利便性などを高める。一方、社内文書のペーパレス化を進めている。パソコンやタブレット端末からアウトプット印刷するなどの紙の使用量が前年比で9割減っており、地球環境保護や資源有効活用の観点から、最終的には完全ペーパレス化にしていきたい」(濱坂浩司)

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九州現地印刷を開始

九州地区につきましては、東京都内で「日刊産業新聞」を印刷して航空便で配送してまいりましたが、台風・豪雨などの自然災害や航空会社・空港などの事情による欠航が多発し、当日朝に配達できないケースが増えておりました。
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 今後も「日刊産業新聞」「日刊産業新聞DIGITAL」「WEB産業新聞」によるタイムリーで有用な情報の発信、専門紙としての機能向上に努めてまいりますので、引き続きご愛顧いただけますよう、お願い申し上げます。
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