2024年12月20日

商社の経営戦略―需給・収益構造対策―/阪和興業 中川洋一社長/物流協業で輸送最適化/資本効率追求し利益成長図る

――国内の鋼材需要はかつての8000万トンから5000万トン規模に縮小しており、加工・物流機能の構造対策を急ぐ必要がある。

「『ユーザーのために』『ユーザーとともに』という独立系商社ならではの基本姿勢を全グループ社員と共有し、社会・市場構造の変化に対応して『流通のプロ』の立場で、持続可能な透明性の高いサプライチェーンを構築する方針を打ち出し、具体的な施策を実行している。物流について西日本ではグループ会社の在庫・物流拠点のネットワーク化による配送効率を追求している。関東については、習志野にある阪和流通センターの岸壁を活用し、西日本からの船便による大型形鋼など条鋼類を荷揚げし、田中鉄鋼販売、阪和ダイサンを通じて在庫販売することで全体の輸送効率を引き上げている。本社の基幹システム完成に続いて、グループ全体で共有するシステムの構築を急ぎ、在庫・加工・物流に関する情報・データを踏まえた、より柔軟に需給変動に対応できる態勢を整備する」

――東日本の物流についてはアイ・テックとの協業の検討を開始した。

「鋼材の販売とは切り離して、物流についてのみ協力する『商物分離』のスタンスで実務者ベースの協議を25年初頭に開始する。全日本トラック協会とも連携し、企業、業界の枠を超えて課題解決に取り組む。両社が保有するバースの活用による海上輸送を含めた鋼材輸送の最適化を追求。積載率向上による物流効率化、CO2削減にも取り組む。旗を掲げることで、賛同される鋼材流通企業の合流も期待している」

――収益構造対策の一環として、数量・シェア重視からスプレッド・利益優先にスタンスを転換している。

「引き続き数量・シェアも追求するが、同時にスプレッドや利益額に加え、ROICの導入による資本効率などの項目を人事評価制度に組み入れた。商社なのでマーケットシェアを意識することは重要ではある。一方で、需要が縮小する中で、社員のマインドをリセットする。ROICについては、全社一律に設定するのではなく、セグメントの特性に応じたものにし、結果のみならず工夫や努力などプロセスも評価する制度としている」

――国内で需要が増える分野もある。

「カーボンニュートラル、国土強靭化などに関連する需要は広がっていく。洋上風力発電は、重電メーカーへのアプローチを加速している。公共投資は地産地消が求められる傾向にあり、物流効率化の観点も加えて、北海道や東北で取引がある地場の加工・物流機能をネットワーク化して、新たな需要をしっかり取り込んでいく」

――需要が拡大する鉄スクラップは、安定調達が課題となる。

「国内では高炉メーカーによる電炉プロセスの導入が進展し、冷鉄源の需要が急拡大するだろう。製鉄資源部が中心となって、グループ会社や納入先からのリターンスクラップの回収・調達を拡大。第一世代が解体時期を迎えた風力発電設備、設備集約が進む石油精製プラントなど大型構造物の解体事業からの鉄スクラップ調達も、建設リサイクル営業部での解体請負含め強化している。海外でも鉄スクラップの調達先を広げていく方針で、蓄積量は多いが需要が少ない豪州に現地法人を設立し、活動を開始している」

――日本最大の金属リサイクル企業を目指している。

「昭和メタル、正起金属加工、阪和メタルズ、日興金属がチタンやレアメタル、アルミ、銅、特殊金属などのリサイクル事業を国内各地で展開している。海外ではオランダにある三菱マテリアルとのEスクラップのリサイクル事業、タイのUACJ向けアルミのCANtoCAN事業をそれぞれ拡充している。阪和本体のトレーディング機能をベースにグループ企業の集荷・加工・物流機能を活用し、太陽光パネルや二次電池のリサイクル事業も視野に入れて、仕入・販売先を巻き込みながらクローズドループを拡充していく」

――主力の鉄鋼、非鉄金属に加えて、木材、石油、食品など幅広い事業ポートフォリオが収益構造対策として奏功している。

「木材事業は年間売上高が1000億円規模になってきた。今期から鉄鋼事業のプレハブメーカー向け部門と合併し、住宅向けの木製・鋼製部材の販売を総合的に手がける体制とし、住宅分野向けの基礎鉄筋や鋼製野縁の拡販を進める。また、ロックウール・ジャパンへの一部出資を通じてROCKWOOL製の耐火・断熱材『ストーンウール』の国内販売契約を締結した。この商品は、1000℃を超える耐火性能に加えて室内温度を保つ断熱性能、吸音・遮音性能、耐久性など数多くの優位性があり、福島県内にリサイクルプラントも建設中。住宅、プラント、高層建築など幅広い建設分野における拡販活動を展開していく」

――機械事業の収益力強化策も進展。

「公取の審査が完了し、シンクスの株式100%の譲受を7月に完了した。シンクスは焼津市内の本社工場で鋼材加工機、木材加工機を製造しており、国内13カ所に営業・サービス拠点を展開している。コラムやH型鋼、厚板の開先加工機、木材のランニングソーなどで高いシェアを握っている。人手不足による加工設備の自動化、省力化ニーズが高まる中、産業機械ビジネスを大きく拡充していく。機械事業は、産業機械販売のほかに遊園地アトラクション、プール・アスレチック施設の制作・施工・設置なども手掛けており、総合アミューズメントビジネスにも手を広げている」

――食品事業は収益構造改革が急務となっている。

「カニを中心に水産物が高値で推移したため、4-9月期の経常損益は黒字転換した。円安による海外での水産物の調達難は続いており、川上の原料・素材から川下の加工までを手掛ける垂直統合型ビジネスへの転換を急いでいる。北海道の水産加工会社、マルゴ福山水産の株式80%を取得し、ホタテなどの海外向け販売に着手。インドネシアでは、ジャポニカ米を寿司・おにぎり等の用途で外食産業や小売業等へ販売しており、今後更なる拡大を計画している。国内外で小売りやレストラン向けビジネスを拡充する『食品版そこか』など新たな手も打って収益力を強化していく」

――中国は経済低迷、鉄鋼の供給過剰が長期化する見通しで、事業構造改革が求められている。

「上海の現地法人を拠点に蘇州、東莞、広州などで鋼材加工ビジネスを展開している。売上高は伸びているが、利益面では苦戦が続いている。日本製鋼材の販売機会は縮小しているが、世界最大の市場であり、現地の大明国際など大手加工・流通との協業をベースとした地産地消ビジネスも拡大しており、中国産品を活用した中東、アフリカの市場開拓を進めていく」

――東南アジアではインドネシアにおける収益基盤を大きく拡大している。

「中国の徳龍鋼鉄との合弁、徳信鋼鉄が第3高炉の稼働を開始し、年産700万トン体制でビレット、丸棒、線材、スラブを生産している。5月には地元メーカーから分割した電炉メーカー、GYSへ大和工業と共同で参画し、当社も15%を出資した。年産100万トンの形鋼ミルで、首都移転に伴う電力供給網向けなどの大型形鋼の需要増に合わせて生産量を徐々に引き上げていく計画。世界最大のステンレスメーカーとなった中国の青山実業グループとともにニッケル銑鉄、ステンレス精練・圧延プロジェクトに参画。中国GEMや青山実業等との合弁事業で、高純度ニッケル・コバルト化合物を鉱石から一貫生産するQMBが生産規模を拡大している。阪和興業としては現地法人の社員約250人による販売網を構築しており、さらなるビジネスチャンスを探っていく」

――10月にはシンガポールのグリーン・イースチールに一部出資した。

「グリーン・イースチールは、シンガポール最大の鉄筋加工会社であるBRCアジア、マレーシアの直接還元鉄プロデューサー、アンタラ・スチールなど鉄鋼事業を幅広く展開している。還元鉄は年産80万トン規模で、今回の出資を通じてホット・ブリケット・アイアン(HBI)の販売権を獲得した。東マレーシアで年産250万トンの新工場建設計画も進めている。低品位の鉄鉱石を有効利用できる選鉱技術を保有しており、新工場は台風影響を受けにくい湾内に建設予定で、エネルギーコストを含め高い競争力に期待している。マレーシアでは、一部出資するOMホールディングスが水力によるクリーン電力でフェロシリコンなど合金鉄を生産している。日本の高炉メーカー向けのHBIの販売で他商社に先行し、合金鉄を含めた製鉄原料分野において、ゲームチェンジャーとなるチャンスを追求していく」

――インドは市場開拓が課題。

「経済成長に伴って鉄鋼・非鉄需要が拡大を続ける見通しで、日本の高炉・特殊鋼メーカーも現地事業を拡大している。いまはインドからの合金鉄の輸出ビジネスがメイン。ムンバイ、ニューデリー、チェンナイの現地法人による市場開拓を進めていく」

――北米市場は攻める分野・エリアを大きく残している。

「トランプ大統領の関税政策が実行に移されると市場構造が大きく変化する。米国内では金属スクラップや合金鉄の扱いがメインで、シアトル・シュリンプ&シーフードを核とした食品ビジネスも広げていきたいと考えている。アメリカ、カナダではブラックマスなど電池資源ビジネスも拡充していく」

――2024年4-9月期は経常利益が281億円(前年同期274億円)だった。

「国内外ともに市場環境が良くない中で、社員の頑張りによって、ほぼ期初予想通りの利益を確保することができた。エネルギー・生活資材事業で舶用石油関連商品の取り扱いが大幅に増加し、リサイクルメタル事業でも貴金属地金やアルミスクラップの取り扱いが増加して、売上高は前年同期比5%増の1兆2586億円となった。エネルギー・生活資材、食品事業などの利益率が回復し、営業利益は10%増の288億円となった」

――セグメント別の経常利益は。

「鉄鋼が8%増の141億円、リサイクルメタルが10%増の14億円、エネルギー・生活資材は3・5倍の51億円、食品は1億円の赤字から

8億円の黒字に転換。プライマリーメタルは商品相場下落、南ア・サマンコールの持ち分利益の減少などで49%減の34億円となり、海外販売子会社もアジアの鋼材市況下落が響いて17%減の37億円に減少した」

――主力の鉄鋼は。

「取扱量が減少し、売上高が前年同期比4%減の5839億円に後退したが、国内の一部の建設請負物件で好採算だったことや、海外子会社の一部で採算が改善したこともあって経常利益は少し回復した」

――取扱量は。

「グローバル取扱量は39万トン減の644万トンだった。単体が67万トン減の414万トン、グループ会社は29万トン増の229万トン。単体の内訳は条鋼が21万トン減の137万トン、鋼板が24万トン減の156万トン、特殊鋼・ステンレスが6万トン減の49万トン、原料が17万トン減の73万トンだった」

――在庫・為替評価など一過性要因を除いた実力をどう分析する。

「エネルギー・生活資材、リサイクルメタル、海外販売子会社でデリバティブ面のプラス影響が約20億円あり、在庫のマイナス影響などを差し引いた263億円を実力ベースの経常利益と分析している」

――2025年3月期経常利益予想は600億円(前期482億円)で据え置いた。

「第1四半期が123億円、第2四半期は157億円だった。市場環境の回復は期初想定に比べて遅れているが、600億円達成を目指す。通期予想は鉄鋼270億円、プライマリーメタル130億円、リサイクルメタル30億円、食品30億円、エネルギー・生活資材120億円、海外販売子会社80億円。鉄鋼は上期120億円、下期150億円の計画で、インドネシアの電炉事業、マレーシアの直接還元鉄事業への出資リターンなどによる下期の上振れに期待している。プライマリーメタルがニッケル国際相場の下落もあって上期は出遅れたが、インドネシアのQMBが、二次電池材料の硫酸ニッケルの生産量を年間5万トンから6万トンに引き上げており、一定の下期の収益回復を見込んでいる。エネルギー関連では、上期に停滞したバイオマス燃料ビジネスの回復も見込む」

――格付けが変更された。

「R&Iによる格付けが『A-』から『A』に格上げされた。厳しい経営環境が続く中、比較的安定した収益を確保しながら財務基盤を改善してきたことや資産リスク管理体制を見直したことなどが評価された。幅広い事業展開による収益源の分散効果も加味されたようだ。JCRは先行して23年秋に『A-』から『A』に格上げされている。日本もゼロ金利時代から脱却する方向にあり、収益基盤の拡充、財務基盤の一層の健全化、リスク管理態勢の強化に努め、格付けの維持を図っていく」

――「第10次中期経営計画」(23-25年度)は経常利益700億円を目標に掲げる。

「前中計期間は20年度288億円、21年度627億円、22年度642億円で推移した。事業分野・地域両面でビジネスが大きく広がって一過性の要因が増えており、実力値を500億円以上と分析し、今中計は最終25年度目標を700億円と設定。初年度は482億円だった。阪和ダイサンの本格稼働、田中鉄鋼販売の事業譲受などに続いて、インドネシアの電炉事業、マレーシアの直接還元鉄ビジネスなどへの一部出資などブラウンフィールドへの投融資のリターンが期待できる。ただ、ロシア・ウクライナや中東の政治情勢、中国、欧州の経済情勢、米国のトランプ次期大統領の政策など社会・経済を取り巻く環境が激しく揺れ動いている。こうした中で、積極的に新たなビジネスを開拓していくには、適切にリスクを取りながら、チャンスを取りこぼさないための対策が不可欠となる。本年4月1日付で全社横断組織の『リスクマネジメント部』を新設。重要リスクを再定義した上で、審査決済プロセスやエクスポージャー管理の高度化を目指すもので、リスクをコントロールしたうえで、事業機会を逃さないよう取り組んでいく」(谷藤 真澄)

スポンサーリンク


九州現地印刷を開始

九州地区につきましては、東京都内で「日刊産業新聞」を印刷して航空便で配送してまいりましたが、台風・豪雨などの自然災害や航空会社・空港などの事情による欠航が多発し、当日朝に配達できないケースが増えておりました。
 こうした中、「鉄鋼・非鉄業界の健全な発展に寄与する専門紙としての使命を果たす」(企業理念)ことを目的とし、株式会社西日本新聞プロダクツの協力を得て、12月2日付から現地印刷を開始いたしました。これまで九州地区の皆さまには大変ご迷惑をおかけしましたが、当日朝の配達が可能となりました。
 今後も「日刊産業新聞」「日刊産業新聞DIGITAL」「WEB産業新聞」によるタイムリーで有用な情報の発信、専門紙としての機能向上に努めてまいりますので、引き続きご愛顧いただけますよう、お願い申し上げます。
2024年12月 株式会社産業新聞社