2024年12月18日

鉄鋼新経営 描き挑む成長のビジョン/王子製鉄社長 貴戸 信治氏/直送率高め製造実力強化/平鋼流通と連携、二次加工ニーズ深耕

――2024年を振り返って。

「鉄鋼業全体として、建設分野は都市部を中心とする再開発、物流の2024年問題に伴う物流倉庫の設置、インバウンド需要回復によるホテル新設などで新規物件が増えると期待したものの、資機材価格の高騰や建設現場の人手不足などを背景に、案件の遅延や一部中止も見られた。産業分野は、世界的なインフレや高金利政策の継続が景気浮揚の阻害要因になっている。中国は政府の景気刺激策も効果が見られない。産業機械分野も低調で、自動車関連の回復も遅れ気味となり、鋼材需要は当初の期待に反し、前年を下回る一段と厳しい結果となった」

「24暦年の平鋼需要は厳しい状況が続いており、下期も盛り上がりを欠き、上期と同水準になると考えている。上期は建築分野で建設現場の人手不足や建築設計の遅れ、資機材価格の高騰などが重なって鈍化し、特に中・小規模物件は前年を下回る水準で、平鋼流通の販売不振が常態化した。下期は低調な需要に加えて、スクラップ価格下落で先安観が顕在化したことによる流通の大幅な在庫調整もあり、産業分野も全ての業態で振るわず、前年を下回った。普通鋼平鋼需要は月間5万3000トンと前年比7%程度の減少を予想しており、コロナ影響で悪化した20年の実績に比べて10%程度下押しする見通しだ」。

――王子製鉄の販売量はどうか。

「24年の販売量は月間2万4000トンで前年比7%マイナス。群馬工場の稼働率は7割程度で推移したが、1ヶ月の生産サイズ数は600から減らずに、1サイズ当たりの生産量が減少したため、生産性や諸原単位が悪化し、厳しい状況にある」

――主原料・鉄スクラップ価格をはじめとする各種コスト状況を。

「鉄スクラップは廉価な中国製鋼塊の東南アジア流入、一時的な円高によって国内市況は下落したものの、円安に振れたことでトン当たり4万円を超える水準で推移しており、今後も一進一退の状況が続くと考えている。製造コストは2024年問題による物流費の大幅上昇、電力とガスの値上りでコスト上昇に歯止めがかかっていない。顧客も厳しい状況にあることは理解しつつも、高品質製品の安定供給の継続を図るため、当社を取り巻く環境にご理解いただき、適正な販売価格実現に向けて引き続き丁寧に説明していきたい」

――群馬工場で推進している施策は。

「厳しい事業環境下において、省エネルギーを追求することでCO2削減に取り組むとともに、異形平鋼や特殊鋼、二次加工などで新規需要を開拓し、将来的な人手不足に備えて、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。現行中期経営計画で予定していた設備投資は完了した。省エネ追求によるCO2削減に関連し、4月に第2圧延工場粗列スタンド増設工事が完工し、上期中にカリバーレス圧延実現に向けた操業条件の最適化を終え、下期からフルに活用している。第2圧延工場の直送率は増設前に比べて10%を超える上昇率となり、CO2削減に貢献。生産量が減少する中で製鋼圧延直送率(HR率)を優先する操業を行ったこともあり、HR率は23年度平均をさらに上回り、10月には目標に掲げていた50%超に達した。その結果、燃料原単位の改善、製鋼の操業パターン最適化による電力原単位削減などエネルギー原単位トータルとして、24年度は省エネ法事業者クラス分け評価制度のSクラス認定レベルとなっている。今後は第2圧延工場のカリバーレス圧延の範囲を見極め、さらなる拡大を目指す。する。2サイクル圧延などで生産性を犠牲にしながらHR率を優先する操業を行っているが、フリーサイズ化で高い生産性とHR率を確保し、燃料以外の原単位改善も進め、省エネに尽力する」

――新規需要の開拓についてはどうか。

「23年に第1圧延工場でオンライン断面形状測定装置を立ち上げた。寸法測定時間が短縮しており、寸法精度の向上を図って需要家ニーズに応える。また10月に市場開発課を新設した。現行のフィールドに囚われず、建設、産業両分野で新規需要の開拓に挑戦する。異形平鋼や特殊鋼とともに、二次加工品の一貫効率による顧客メリット創出、需要拡大を目指す。上期に販売部と二次加工を委託するグループ会社の王鉄興業が連携し、二次加工品をPRし、一定の成果が出始めている。市場開発課が引き継いで、さらに発展させる」

――DX化が着実に進んでいる。

「WEB発注システム『e―NET』は100%の使用率を達成した。さらなる利便性向上に向け、e―NET上で契約残量や在庫量、圧延予定日を開示し、ミルシートのダウンロード機能拡充、納入依頼機能追加などユーザーの要望を聞きながらシステム構築を進めている。納入依頼と出荷システムを連動させ、出荷指示の自動化に向けた開発にも着手した。また電気炉―取鍋精錬炉―連続鋳造設備―圧延までの操業状況やトラブル、型替えに伴う圧延休止規模を共有できるようにし、『どの工程でどの程度休止が発生するか』が一目で判るようになった。今後は『他のラインが休止した際、自職場でどのようにすればロスの少ない最適操業が可能か』をガイダンスする機能を付加し、生産性を一層高める」

――物流の2024年問題への対応を。

「荷役時間短縮を目指し、積込システムを改良することで製品置場の効率的な配置変更、積込製品の事前集約などの効果を確認できた。また出荷日量の平準化、高速道路・船舶・中継地の活用、指定到着時刻の緩和依頼などを進め、ドライバーの労働時間を短縮している。入退構時間を短くするための対策を進める」

――人材の育成は。

「社内で製鋼・圧延・品質・財務の教科書作成を終え、現場も含めた基礎的な教育を推進中。就任後3年以上の組長と全班長の研修は完了し、年明けにはスタッフ管理職の教育も実施する。また節目の資格昇格時に小論文作成と役員・管理職との面談を行い、『今の立ち位置と今後何をしていきたいのか』という頭を整理する仕組みも続け、部下育成力強化も定着しつつある」

――25年の需要をどのように予測するか。

「建設分野は人手不足解消が見通せず、高止まりする建設資機材価格によって、建築・土木工事の一部中止や遅延が改善するとは考えにくい。物流倉庫新設や大阪万博関連の需要は一段落するが、都市部を中心とした再開発、生産工場の新増設、ホテル新設などに期待したい。産業分野は各国インフレに伴う金利上昇に沈静化が見え始め、中国では景気刺激策が実施され、自動車生産なども復調を期待する。一方で世界的に保護貿易が進展する懸念もあり、予断を許さない。鋼材需要予測は、24年と同様に国内鉄鋼消費量5000万トン前半程度になるとみられ、普通鋼平鋼も24年と同水準を見込む」

「鉄スクラップは需要・発生ともに大幅な改善は期待できない。為替動向やメーカーへの入荷影響によって、市況が再び上昇することも十分あり得る。製造コストは全ての調達品で高止まりが見込まれ、人材確保の費用は増える。為替やエネルギー価格の変動は直接・間接的にコストに影響を及ぼし、常に不安を抱える。コスト上昇分は適時丁寧な説明を行い、販売価格への反映に理解を求める。いかなる状況下においても、当社は顧客のニーズとしっかり向き合い、求められる製品を安定供給し、王子製鉄の特徴である高品質・短納期・安定生産で製造実力ナンバーワンを目指して、評価いただける様に絶えず努力していきたい」

――25年の取り組みは。

「23―24年で実施してきた製造実力のさらなる向上に注力する。25年にはフル操業の条件下においても13年比でCO2を30%削減するべく、非化石電力購入推進などで省エネ、CO2削減を追求。市場開発課は増強し、ひも付き案件などの需要を開拓。必要に応じて、平鋼流通と連携し、複合的な二次加工品のニーズを深掘りする。異形平鋼や特殊鋼を拡販するためには品質を一段と高める必要があり、製品単位の画像AI疵判定装置や幅・厚み自動測定装置の実用化を進め、将来的には長さ・曲り測定器も導入したい。また裏面疵を撲滅するため、切断後の仕分床の搬送ラインで使用するチェーンを真鍮製から樹脂製に切り替えるべく、耐久性や品質への影響を確認中で、25年にはプロパー化し、顧客満足度を高める」

「e―NETは二次加工品との紐付けや出荷のシステム化、操業の見える化システムを進化させ、操業変動時の最適化自動指示、購買と在庫システムの連携でDXを進化させる。これから実施する課題は実行が難しくて残されていた内容が多く、これまでと同じ考えでは達成は出来ない。一人ひとりが失敗を恐れず、何をすべきか考え、実行していくことで達成可能と考える。『Swing the Bat』(自らバッターボックスに入り、バットを振っていく)をスローガンに、社員全員が挑戦し続け、『真の製造実力世界一の電炉メーカー』へ継続努力していきたい」(濱坂浩司)

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九州現地印刷を開始

九州地区につきましては、東京都内で「日刊産業新聞」を印刷して航空便で配送してまいりましたが、台風・豪雨などの自然災害や航空会社・空港などの事情による欠航が多発し、当日朝に配達できないケースが増えておりました。
 こうした中、「鉄鋼・非鉄業界の健全な発展に寄与する専門紙としての使命を果たす」(企業理念)ことを目的とし、株式会社西日本新聞プロダクツの協力を得て、12月2日付から現地印刷を開始いたしました。これまで九州地区の皆さまには大変ご迷惑をおかけしましたが、当日朝の配達が可能となりました。
 今後も「日刊産業新聞」「日刊産業新聞DIGITAL」「WEB産業新聞」によるタイムリーで有用な情報の発信、専門紙としての機能向上に努めてまいりますので、引き続きご愛顧いただけますよう、お願い申し上げます。
2024年12月 株式会社産業新聞社