2024年12月11日

経営戦略を聞く/伊藤忠丸紅住商テクノスチール 田中康博社長/省力化商品 早期に拡充/事業高付加価値化へM&A検討

――2024年度の需要環境認識を。工期遅れの根本要因の一つである人手不足は容易に解消されないようだが。

「ゼネコンは受注残を3年分くらい確保しているが、主に人手不足が理由で施工能力が落ちており、工事の進ちょくが良くない。例えば10カ月で竣工する予定の案件が11カ月かかると鋼材使用量が約1割減る。こうしたことが多く起こっていると考えている。 工事現場のほか、設計や地方自治体の事務など至るところで人手不足が発生しており、簡単に解消できる問題ではないだろう」

――中長期的に需要をどうみるか。

「再開発や半導体関連含めた企業の設備投資、物流施設、データセンター、防衛施設投資、北海道およびリニア新幹線含む国土強靭化投資などで3年から5年の間は仕事があっても工期がかかる状況が続き、現状と同レベルの受注環境となるだろう。長期は見通しにくいが、影響が大きいのは人口減だろう。長期的には人口が減ることで住宅などさまざまな建築ニーズが減少していくと予測され、鋼材需要は低下していくとみている」

――24年度の業績について上期を総括し、下期にどう仕上げていく。

「前年同期と比べ扱い数量、収益とも少し減ったが、当初計画の範囲内で推移している。昨年度上期に出た大型案件の反動による減少は想定通りだが、想定以上に鋼材需要が減少している。ただ、これまで取り組んできた省人化に寄与するファブデッキやKHトラスなどの独自商品や鉄骨工事などがカバーし、緩やかな減少にとどまった。下期も上期同様に進むとみており、新たな取り組み分野で数量減分をカバーし、当初計画は達成できると考えている」

「伊藤忠丸紅テクノスチールと住商鉄鋼販売が統合して8年になるが、その統合効果が出てきたと思っている。昨年度の税後利益42億円は統合後最高益。伊藤忠商事、丸紅、住友商事の各グループの情報を取り込み、収益につなげることができる営業体制が整いつつある」

――人手不足を背景に省力化商品のファブデッキの販売が堅調だが、事業戦略をどのように進めていくか。

「昨年4月に設立したデッキ事業推進部を中心に事業強化を進めている。ファブデッキの生産体制については、FDテクノの株式の一定割合を保有いただいたトーアミとの取り組みを始めた。それほど遅くない段階でその具体的な内容を発表できると思う。ラインナップの充実については、新商品の開発を進めており、1年以内には形にしたい」

――グループ会社の業績動向や強化策について。

「北陸鉄鋼センターは主に川田工業向けの床版用鋼材の加工を扱っており、道路改修に伴い床版需要が当面見込め、安定的に収益が確保できるだろう。平鍛造はメジャー株主のNTNとの成長戦略を共有しながら収益力を上げる取り組みを進めている。東鋼産業は東北の需要が低迷する中、現状に合わせてどのように変革させるかが今後のテーマ。SMCサミットはベトナムの不動産需要減少、金融機関の機能不全などがあり業績は思わしくなく、MISIにも相談しながら対策を進めていく。太平産業は統合効果で煙突工事の受注が伸びており、さらに拡大させていく」

――課題に掲げるDXの取り組みは。

「導入したミライソータは順調に稼働し、ミルシートの仕分けを行っているが、客先からデータで欲しいとの要望などにも対応するのが次の展開になる。また、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の研修会を全社員の約4分の1に受けて貰い、事務職系の業務を中心にRPAで代替できるケースがいくつも出てきた。さらに、部長以上向けに意識改革を促し、RPAを理解し、部下からの提案をバックアップするためのDX研修も始めた。DXを推進し、業務の効率化で生じた空き時間を利用し、新たな展開に振り向けていくのが次の狙いだ」

――機能強化に向けて投資戦略をどう進めていくか。

「物量は増えない中、どのように収益を取り込むかを考える必要がある。単に鋼材を売るだけではなく、鋼材と機能や付加価値を客先に提供する。そうした部分を担う会社があればM&Aを検討したい。昨年100%子会社化した太平産業は煙突工事事業を展開しているが、当社の物件情報などを活用して成果が上がってきており、シナジー効果が出ている。太平産業に工事でキャリアを重ねた人材がいるので、当社の鉄骨工事をより充実させて請けられる体制にしていきたい。その機能を強化するためのM&Aも考えている。また、橋梁メンテナンス事業も力を入れており、2年前に関西支社の土木建材部にインフラ鉄構課を設置した。現在は関西が中心だが、今後は関東も含めた他の地域でも事業を進めたいと考えており、そのために必要であればM&Aを検討したい」

――さらなる収益改善や事業の構造改革への取り組みの考えを。

「従来の鋼材トレードのビジネスはこれまで通りしっかり安定収益を確保していくが、伸ばすことは難しいため、デッキ事業の強化や工事などのサービスの強化、その他鋼材の付加価値を取り込める機能の強化を成長戦略として掲げ、投資は着実に行っていく方針だ。個別の投資、M&Aのほか、グループ会社の再編なども含め事業の最適化のために必要に応じて柔軟に取り組んでいきたい」

――需要減に伴い鋼材市況は軟調だが、販売価格の状況をどう捉えているか。

「鉄スクラップ価格が8―9月で下がったため多少その影響が出るとみている。ただ、価格については、この数年の経験から競争して数字を伸ばす動きや、安く売って量を確保する動きが余り出ていないので、価格が下落するリスクはそれほど想定していない。だが、国際マーケットをみると、中国を中心に状況が悪く、とくに薄板などに影響が出てくると、建材と分野が異なるが多少引きずられる可能性はある」

――物流2024年問題の影響は。

「物量が余り出ていないので、運転手が足りない話や製品が運べない話をほとんど聞かず、現実的に問題は起きていないと認識している。価格については、当社は工事案件ごとに見積もるため、運送業者から値上げの話があれば、その分は鋼材の値上がり分を転嫁するのと同様に転嫁している」

――カーボンニュートラル(CN)へ対応する取り組みを挙げると。

「ハウスメーカーがCN対応商品の開発を進めており、この商品に使われるグリーン鉄筋を、MISIのMIeCO2(ミエコ)を活用したスキームで供給する取り組みを検討している」

――人材確保はどうする。

「新卒採用については、当社の未来を担う人材確保を目指して会社説明会やインターンシップを積極的に行っており、今年は17人の新入社員を迎えた、例年15―20人くらいの採用を目指している。さらに、工事や設計、経理、人事などで実績のある人材を採用して人員を強化している。その中で営業を担当する女性社員も増やしてきている」

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