2024年12月10日

日本製鉄 事業部門長に聞く/鋼管/永井竜一常務執行役員/SG管海外向け新規受注/高合金油井管の一貫製造強み

――まずは足元の事業環境から。

「エネルギー分野について、ウクライナ、イスラエルをはじめ地政学リスクは依然として予断を許さない状況であり、引き続き注視していく。24年度は米国での在庫調整局面もメキシコ湾深海開発は安定的な原油価格を背景に堅調に推移している。非米地域においても需要は旺盛。特に中東向けは大型案件が出件しハイエンド油井管を主体に需要増・好調な受注継続を見込んでいる。ラインパイプ分野についても油井管に付随して需要の拡大を期待する」

――中長期的には。

「世界各国のエネルギー供給不安、セキュリティ担保の動きは継続するため、オイル&ガスの開発は当面堅調に推移すると考えており、特に天然ガスについては脱炭素の新技術開発までのトランジション・エネルギーとして中東・北アフリカを中心に大型の開発案件が継続する見通しだ。天然ガス用途を中心に受注は堅調に推移している」

「当社はエネルギーメジャー各社との長期販売契約(長契)を維持(bp、SHELL、アーカーBP、エクイノールASA社)することで安定した需要を確保するとともに、定期交流による顧客ニーズの早期把握、新商品の先駆開発と早期市場投入を実現してきた。足元ではこうした関係性を活かし、中長期的にオイルメジャーの投資が増加していくCO2の回収・貯留・利用事業であるCCSやCCUSなど脱炭素事業の分野でも当社の得意とするハイアロイ油井管を中心としたハイエンド商品の拡販を進めている」

――電源開発の分野は。

「海外では原子力発電所の新規計画が増加しているのに伴い、原子力発電所向けSG(スチームジェネレーターチューブ)管の引き合いが増えており、当社も昨年度、久しぶりに海外案件で新規受注(25―26年納期)し現在製造中。また米国を中心にデータセンター拡充に伴う電源確保に小型原子炉(SMR)採用の可能性についての現地報道もあり、更なる需要拡大も期待される。今後の需要動向を注視していきたい」

「一方、中国では電力不足に加え、再生可能エネルギーの供給力不安という脆弱性から超々臨海火力発電所向けステンレスボイラーチューブ(SUPER304H、HR3C)の受注が安定して見込まれる。将来的なクリーンエネルギーへのトランジションが加速する中、在来型エネルギー需要増への対応を含め、当面の旺盛なエネルギー鋼管需要を着実に捕捉していきたい」

――非エネルギー分野は。

「非エネルギー分野の24年度は自動車分野における品質・認証問題、中国などの販売不振やEV化加速による日系OEMの活動減、建築分野も労働力不足や物流・建設コスト上昇の影響あり、今後の需要も横ばいから漸減傾向が継続する可能性が高いとみている。こうした中、自動車分野ではEV向け鋼管製品の新規需要捕捉や非日系メーカーとの取引拡大、土木建築分野では施工時の負荷軽減・省人化に資する工法などのニーズに資する製品の提案・半導体分野でのステンレス鋼管の販売などに関して一層注力していきたい」

――販売価格施策を。

「価格面については従来ご相談してきた主原料や市況原料などに加えて、24年度はさらに物流費や人件費なども上昇しており、特に鋼管は他鋼材に比べ物流効率が悪いことなどもあるため、お客様に丁寧に説明しサプライチェーン全体での応分な負担について一定のご理解を頂けている。引き続き、品質・デリバリーを含め、当社の付加価値を高め、お客様にご愛顧いただけるよう努力していきたい」

――国内電縫鋼管事業を再編した。

「中長期的に需要低迷の長期化や市場の構造変化(労働力不足、EV化、非日系対応、競合のグローバル化)が見込まれることを踏まえ、当社グループ会社による事業の一体運営や生産拠点の集約により、迅速かつ有機的な事業運営および効率的な生産が可能な事業構造に変革し、競争基盤を強化していく。当社グループとしてお客様対応力の更なる充実、サプライチェーンの強化、商品の高度化、今後の脱炭素化社会に向けた新たな需要へのソリューション提供など、これまで以上にお客様に貢献できるよう万全の体制を整える。足元はスムーズな統合が迎えられるよう、営業や製販の担当同士の交流を加速しているとともに、今後お客様への説明も丁寧に行っていく」

――カーボンニュートラル(CN)への取り組みは。

「CCS・CCUS向けのハイエンド油井管を供給しており、特にCCSについては米国で多くのプロジェクト計画がある。25年度以降、高合金油井管の更なる需要拡大に期待している。米国では高合金油井管の標準化が進んでいるが、原料から最終製品まで一貫製造出来るのは当社のみであり、その強みを訴求していくとともに、今後非米地域でも需要拡大が期待されており、積極的にPRしていく」

――水素輸送分野はどうか。

「高圧水素ステーション用途の当社開発鋼HRX19に加えて、液体水素向けHYDLIQUID(ハイドリキッド)の採用実績拡大などを図るなど、CN・水素社会実現に貢献できるハイエンド鋼管の拡販に取り組んでいる。水素・アンモニア関連では国内重工メーカーとの技術交流を充実させ、将来に向けた需要の創出と当社特殊管の採用を模索していく。また、これらの脱炭素分野にはNSCarbolex Neutral(NSカーボレックスニュートラル)の採用も働きかけていく」

――最後にトピックスを。

「SuMPO EPD(旧エコリーフ)の取得は積極的に継続しており、直近では電縫メカニカル鋼管、継目無メカニカル鋼管で2件、熱押形鋼製品で3件の認証を新たに取得した。引き続き、環境に優しいサステナブルな素材である鋼管製品の環境性能開示に積極的に取り組む。さらに当社の省力化対策を含めたDX推進については、計画策定~引き合い・受注~生産進捗~出荷在庫管理までの一連の業務効率化に寄与するシステム開発を行っている最中であり、業務最適化・高度化の実現に向けて検討を行っている」(菅原 誠)

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