2024年12月5日

財務・経営戦略を聞く /日本製鉄 副会長兼副社長/森高弘氏/幅と厚み増し高収益確保/インド能力増強とUSS施策重点

――通期の単独粗鋼生産3450万トンと前回予想並みとしたが、前年より50万トン少ない。下期以降も厳しい状況が続く見通しか。

「自動車生産は上期に品質認証問題などで減少し、下期は回復しつつあるが昨年下期(432万台)並み、年度で840万台を予想している。その他の製造業と建設分野も上期に落ち込み、下期はわずかな回復にとどまるとみている。中長期経営計画で国内鉄鋼需要を5400万トンと想定したが、今年度予想は5050万トンと経営計画の前提を下回る水準だ。内需は90年代に9000万トンまで増えたが、今は5000万トンを切る可能性すらある。鋼材輸出は上期が前年並みで下期は減少する見通し。粗鋼生産は低い水準にとどまるが、現状レベルが続く前提で考える必要がある」

――在庫評価差を除く実力の通期連結事業利益予想は7800億円と前回予想を据え置いたが前年度の実績を下回る見込みだ。

「確かに減益となるが、前年度は9350億円と最高益だった。前年度の下期以降、市場環境の悪化を受け、数量は減り、マージンも低下、海外事業も悪化している。一方でコストの改善に加え、カナダ炭鉱のEVRに出資した効果で前回予想を堅持できている。競合他社に比べて高い利益を確保しているのは、主に海外と国内の事業会社の『幅』に加え、原料事業などの『厚み』を増していることが大きい。また、ひも付き分野と店売り分野の価格をしっかりと分断できているところも大きい。販売の6割がひも付き分野向けであり、市況品の価格変動リスクにさらされる部分が他社より少なく、市場悪化の際の耐性を強くしている」

――来年度以降も市場は厳しい環境が続く見通しだが、25年度に実力の連結事業利益9000億円以上を目指す計画に変更は。

「計画は変わらない。今年度末に東日本製鉄所鹿島地区の鉄源1系列を休止することでコスト削減効果400億円を見込む。インドのAM/NSインディアで第2高炉が25年度に立ち上がり、能力拡張の効果を年度の半ば以降から得ることができる。豪州のブラックウォーター炭鉱への出資を今年度末までにクローズできれば25年度からフルに連結損益に貢献することになる。さらに通常のコスト削減にもう一段踏み込む。製造ラインによっては競合他社にコストで劣るところがある。改善すべきところはまだ多く、変動費の引き下げや生産性の向上などでコスト差を縮めたいと考えている」

――米国でトランプが次期大統領に選ばれたが、USスチール買収の取り組みにどのように影響するのか。

「トランプ次期大統領は減税や関税引き上げの方針を示している。米国の中で事業を行う重要性がより際立ってきているが、USスチール買収はトランプ氏の考えに沿っていると言える。トランプ氏は外資を呼び込んで米国経済を浮揚させようとしており、今回の案件の本質を理解していただければ、反対ということにならないと思う。モンバレー製鉄所の組合幹部が大統領選の際に遊説で訪れたトランプ氏に支持を伝え、その日の夜にFOXテレビにその組合幹部が出演して当社の買収を支持していると語った。当社の買収に対する理解は広がっており、最近のウォールストリートジャーナルでもそのように報じられている。USW(全米鉄鋼労働組合)の中でも当社の買収に対する賛成派がかなりの比率を占めており、今後リーダーがどう判断するか議論になると思う。USスチールとUSWの間の仲裁で当社がUSスチールとUSWの基本労働協約(BLA)の要件を順守していると認められた。USWのリーダーが疑問を呈した内容について法的に担保されていることが認められ、反対する理由がなくなっている。当社としても懸念されていることに対して一つずつ答えている」

「現在進行している独禁法とCFIUS(対米外国投資委員会)の審査で承認されればそこでクローズとなる。選挙が終わり、ポリティカルな事情は少なくなっており、12月内の審査期限までには結論が出る。ネガティブな要素はなく、年末までに必ずクローズできると考えている。クローズ後もUSWとは建設的で良好な関係を築いていきたいので時間をかけてでも話し合いを続けていきたい。審査はバイデン政権で行われており、次期政権まで引き延ばすということはないと考えている」

――買収に関するアドバイザーのポンペオ氏がトランプ新政権の閣内に入らなかったが。

「閣内に入らなかったのはよかったと思っている。入ればアドバイザーを続けられなかったと思われ、ポジティブに考えている」

――今期に下振れしたAM/NSインディアの業績は来期に改善する見通しか。インド東部での新製鉄所建設について建設地をオディシャ州で固めたとの現地報道もあるが。

「インドの需要は伸びているが、中国材との価格差があまりに大きく、市況に影響し、マージンが低下している。25年度も中国材の影響を受けると思うが、能力増強による効果で収益は改善する。東部の新製鉄所についてはオディシャ州でもよい候補地が浮上し、他の候補地と合わせて比較検討しているが、そろそろ決めたいと考えている。既存製鉄所の能力拡張を終えれば余力がうまれるので東部の製鉄所建設検討を本格的に進めていく」

――低調な市場が続くタイのG/GJスチールの回復の見通しは。

「タイの需要が低調な中で中国からの大量の鋼材輸入で市況が低下している。加えてG/GJスチールは操業が不安定で取れるものも取れていない状況にあり、品質対応力・コスト競争力強化のため、約60億円の設備投資を実施する。スキンパスの設備を導入し、品質対策を講じて日本製鉄の品質標準を満たした製品を製造できる体制を確立する。スクラップヤードにAIを活用した選別システムを導入するなどスクラップ総合対策として支援する。日本国内の製鉄所の設備休止に伴う解体スクラップをタイに輸出し活用することも視野に入れており、一連の対策で収益力を回復する」

――ASEANの他の事業会社も苦戦しているようだが。

「タイの自動車用鋼板生産販売拠点のNS―SUSは汎用品市場の影響を受けず、タイの自動車生産も徐々に戻り、一定の収益を上げている。ベトナムのCSVCは製造業向けのラインを持つが市場の動向から建材や輸出向けの生産が中心であり、汎用品市場の影響を受けている。ベトナム市場の潜在力は高く、コストを抑えながら市場の回復を待つ。インドネシアのKNSSは現地の自動車生産が伸びる見通しであり、市場の成長に合わせて事業を展開していく」

――原料投資を続ける方針だが、自山鉱比率をどこまで高めるのか。

「自山鉱比率は鉄鉱石で20%、原料炭で35%。製品の6割を占めるひも付き分野はフォーミュラ化で外部コストの変動リスクをヘッジできているが、残り4割の汎用品は変動リスクがあり、自山鉱比率40%を目指し、追加の投資を検討している。事業として意味があれば40%にこだわらず、よい案件に投資していく考えだ」

――グループ内の鋼管事業の再編に続き、日鉄ステンレスの吸収合併を決めた。

「グローバル化やカーボンニュートラルに対応する電炉化など課題が高度化・多様化しており、研究開発や営業の強化のためには一体となって進める方がよいと判断した。今後もグループ全体の価値の最大化・効率化に資する取り組みは継続して検討・実行していく」

――さらに先の成長戦略とはどのようなものになるのか。

「まずはグローバル粗鋼1億トン、連結事業利益1兆円の実現が目標であり、そのためにもUSスチールとのシナジーの最大発揮が重要でクローズ後に強力に進めていく。老朽化しているUSスチールの設備更新費用の多くは当初に示した投資計画に含んでいるが、電磁鋼板や超ハイテン鋼板を製造する、あるいは今の品種構成でよいのかなどUSスチールの収益性を高める施策を鋭意進めていく。USスチールのスロバキアの製鉄所は広大な土地を持ち、能力拡張の余地が大きい。インドでの能力拡張を続けるとともに厚みのある経営として原料投資を進め、さらに強靭な体質を備えた会社にしていく考えだ」(植木 美知也)

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