1
2024.11.27
2024年12月4日
商社の経営戦略 需給・収益構造対策/三井物産 高杉亮執行役員鉄鋼製品本部長/欧米事業、強化策が進展/電磁鋼板加工、追加投資を検討
――厳しい需要環境が国内外ともになお続いている。
「自動車生産は回復が鈍く、建築分野も人手不足などでプロジェクトの時期がずれ込んでいる。国内の需要や鋼材市況など環境は厳しく、取扱量を増やしていける状況にはない。海外をみると中国の鋼材輸出が増え、特に東南アジアは需要が低調な中で需給が緩和し市況が軟化している。中国は不動産分野が依然経済の足を引っ張り、EV(電気自動車)生産は増えてはいるが少し足踏みしている。地場系のEVメーカーが躍進し、日系・欧米系の自動車が苦戦している。政府は景気刺激策を打っているが、需要の回復につながるかは不透明。東南アジアは足踏みが続きそうだ。ベトナムやインドネシアは潜在力が高く建設関連の需要が増える見通しだが、いずれも政権が代わり、政策の実行を注視していく」
――上期の鉄鋼製品本部の利益は前年同期比2・4倍の73億円となったが、前年度の一過性損失の反動が大きい。通期予想は低調な需要や軟調な鋼材市況から200億円(前期112億円)と前回予想から50億円下方修正した。
「上期は海外出資先であるゲスタンプでの前年度の一過性損失の反動が作用 し大幅な増益となったが、実質は厳しい状況にある。国内では三井物産スチールが需要不振の中で販売を一定量確保し、鋼材輸出も手掛け、前年を若干ながら上回る利益を確保している。エムエム建材も健闘し、下期どの程度維持できるか努力しているところ。ただ、需要や市況は国内外ともに大きな回復が期待できず、通期の利益予想を下方修正した。元々下期ヘビーだが、施策によって少しでもキャッチアップしたい」
――米国のスチール・テクノロジーズとスペインのGRIリニューアブル・インダストリーズの2社は上期の利益が前年同期を下回った。市場が軟調だが、下期以降の見通しは。
「スチール・テクノロジーズは鋼材価格が第2、第3四半期(7―9月期)に低下する中で収益を維持している。四半期ごとの鋼材価格変動の影響を受けるが、自動車中心に固定顧客を確保できており、今後の景気回復による事業の拡大を期待している。上工程のスリッター・レベラー加工に下工程の加工を加え、付加価値の高いビジネスを広げようと投資を行っている。建機や鉱山機械向けの部品を製造・販売する会社を買収し、部品加工の分野に参入している。製品の付加価値を高めて顧客に提供することで収益と利益率を高めていく」
「GRIリニューアブル・インダストリーズは欧米や中国など9カ国22工場で鋼製タワーと大型フランジを製造・販売しているが、世界的に風力発電の需要の勢いがやや鈍っている。風力発電の新規プロジェクトがオイル&ガスの揺り戻しによって少し後ろ倒しになっている。ニューコアは 競争力の向上策を継続しつつ、グローバルな需要がどう振れるか注視していく。ゲスタンプは一過性要因で上期 は前年同期比で増益となったが、世界のEV生産が少しスローダウンし、当初の利益計画を下回っている。ただ、ハイブリッドカーの販売増が見込まれ、EVの車体軽量化ニーズもあり、引き続きEV対応を進めていく計画だ」
――トランプ新政権の政策によって変化していく米国市場の事業への影響をどう見通しているか。
「世界的なリスク要因は米国や中国、日本の自動車生産台数の動向、風力発電の需要、そしてオイル&ガスがどう反転していくか。米国は金利高の中で耐久消費財の自動車や家電がやや低調だが、新政権の政策にはアップサイド、ダウンサイド両面あると想定され、状況をよくみていく。金利の引き下げを進めれば耐久消費財の需要増につながる。オイル&ガスからリニューアブルエナジーへのシフトが遅れると風力発電の需要が減退していくが、エネルギー鋼管の需要は増えるかもしれない。新たな需要を刺激し、米国経済は上向くが一方でインフレが進み、金利が上がる可能性がある。通商政策による保護された市場の中で鋼材価格は上がるだろうが、一方で特にメキシコに対し関税引き上げとなった際の影響は気がかりだ。プラスとマイナスの要因が織り交ざり、依然見通しにくい情勢だ」
――電磁鋼板の加工事業が好調だ。今夏には欧州で電磁鋼板の加工機能を拡充しようと投資を決めた。
「ポーランドに新たな加工拠点のPMSを設立した。工場の建設を始め、26年4月の稼働開始を目指している。オランダEMSは方向性電磁鋼板,カナダTMSは無方向性電磁鋼板の比重が増えて安定している。追加投資を昨年来実施しているが、電磁鋼板の需要は変圧器事業が好調でEVやハイブリッドも伸びていくので追加の投資を検討していく」
――オイル&ガス用パイプラインの補修・技術サービスを手掛ける英国のスタッツの昨年に買収した成果は。
「スタッツを100%子会社化し、確実に運営している。パイプラインのメンテナンスの需要を着実に取り込んでいるが、これから補修について事前のモニタリングや事後の検査など付随する機能を付加していく。パイプラインのメンテナンス分野におけるライフサイクルに合わせた総合サービスの展開を検討している。北米でも行っている事業は拡大が見込め、中東や欧州でも新しい展開を視野に入れている」
――米国のインフラ補修事業者のストラクチュアル・テクノロジーズに昨年に出資するなど米国での事業強化策が進んでいる。スチール・テクテクノロジーズも日本製鉄によるUSスチール買収が成立すれば、事業成長のチャンスにつながるのでは。
「ストラクチュアル・テクノロジーズは事業を順調に拡大している。米国は老朽化した橋梁が多く、橋梁補修の案件が西海岸中心に増えており、着実に確保していく。米国の事業会社は市場の成長が続く中でしっかりと需要を取り込み、収益を高めていく。投資を続け、優良なアセットを確保していく。スチール・テクノロジーズはUSスチールといろいろと接点を持っており、日本製鉄によるUSスチール買収が決まればさまざま形で支援していきたいと考えている。
――高い将来性が見込めるインドとアフリカの市場をどうつかむ。
「インドで投資の機会を探している。すでにサプライチェーンを持ち、鋼材輸出も行っているが、国内の中にどれだけ入っていけるかが重要になる。産業用モーター製造の事業会社があり、増える需要を確実に捉える。鋼材販売に限らず、成長投資の手を積極的に打っていきたい。アフリカは南アなど南部中心にそれ以外の地域も含めて市場の可能性を探査している。当社の他の本部が関わっている現地の有力なパートナーとの合弁含め有効な投資を検討する。この数年の中で具体的な投資に向けたステップを進めたいと考えている」(植木 美知也)
「自動車生産は回復が鈍く、建築分野も人手不足などでプロジェクトの時期がずれ込んでいる。国内の需要や鋼材市況など環境は厳しく、取扱量を増やしていける状況にはない。海外をみると中国の鋼材輸出が増え、特に東南アジアは需要が低調な中で需給が緩和し市況が軟化している。中国は不動産分野が依然経済の足を引っ張り、EV(電気自動車)生産は増えてはいるが少し足踏みしている。地場系のEVメーカーが躍進し、日系・欧米系の自動車が苦戦している。政府は景気刺激策を打っているが、需要の回復につながるかは不透明。東南アジアは足踏みが続きそうだ。ベトナムやインドネシアは潜在力が高く建設関連の需要が増える見通しだが、いずれも政権が代わり、政策の実行を注視していく」
――上期の鉄鋼製品本部の利益は前年同期比2・4倍の73億円となったが、前年度の一過性損失の反動が大きい。通期予想は低調な需要や軟調な鋼材市況から200億円(前期112億円)と前回予想から50億円下方修正した。
「上期は海外出資先であるゲスタンプでの前年度の一過性損失の反動が作用 し大幅な増益となったが、実質は厳しい状況にある。国内では三井物産スチールが需要不振の中で販売を一定量確保し、鋼材輸出も手掛け、前年を若干ながら上回る利益を確保している。エムエム建材も健闘し、下期どの程度維持できるか努力しているところ。ただ、需要や市況は国内外ともに大きな回復が期待できず、通期の利益予想を下方修正した。元々下期ヘビーだが、施策によって少しでもキャッチアップしたい」
――米国のスチール・テクノロジーズとスペインのGRIリニューアブル・インダストリーズの2社は上期の利益が前年同期を下回った。市場が軟調だが、下期以降の見通しは。
「スチール・テクノロジーズは鋼材価格が第2、第3四半期(7―9月期)に低下する中で収益を維持している。四半期ごとの鋼材価格変動の影響を受けるが、自動車中心に固定顧客を確保できており、今後の景気回復による事業の拡大を期待している。上工程のスリッター・レベラー加工に下工程の加工を加え、付加価値の高いビジネスを広げようと投資を行っている。建機や鉱山機械向けの部品を製造・販売する会社を買収し、部品加工の分野に参入している。製品の付加価値を高めて顧客に提供することで収益と利益率を高めていく」
「GRIリニューアブル・インダストリーズは欧米や中国など9カ国22工場で鋼製タワーと大型フランジを製造・販売しているが、世界的に風力発電の需要の勢いがやや鈍っている。風力発電の新規プロジェクトがオイル&ガスの揺り戻しによって少し後ろ倒しになっている。ニューコアは 競争力の向上策を継続しつつ、グローバルな需要がどう振れるか注視していく。ゲスタンプは一過性要因で上期 は前年同期比で増益となったが、世界のEV生産が少しスローダウンし、当初の利益計画を下回っている。ただ、ハイブリッドカーの販売増が見込まれ、EVの車体軽量化ニーズもあり、引き続きEV対応を進めていく計画だ」
――トランプ新政権の政策によって変化していく米国市場の事業への影響をどう見通しているか。
「世界的なリスク要因は米国や中国、日本の自動車生産台数の動向、風力発電の需要、そしてオイル&ガスがどう反転していくか。米国は金利高の中で耐久消費財の自動車や家電がやや低調だが、新政権の政策にはアップサイド、ダウンサイド両面あると想定され、状況をよくみていく。金利の引き下げを進めれば耐久消費財の需要増につながる。オイル&ガスからリニューアブルエナジーへのシフトが遅れると風力発電の需要が減退していくが、エネルギー鋼管の需要は増えるかもしれない。新たな需要を刺激し、米国経済は上向くが一方でインフレが進み、金利が上がる可能性がある。通商政策による保護された市場の中で鋼材価格は上がるだろうが、一方で特にメキシコに対し関税引き上げとなった際の影響は気がかりだ。プラスとマイナスの要因が織り交ざり、依然見通しにくい情勢だ」
――電磁鋼板の加工事業が好調だ。今夏には欧州で電磁鋼板の加工機能を拡充しようと投資を決めた。
「ポーランドに新たな加工拠点のPMSを設立した。工場の建設を始め、26年4月の稼働開始を目指している。オランダEMSは方向性電磁鋼板,カナダTMSは無方向性電磁鋼板の比重が増えて安定している。追加投資を昨年来実施しているが、電磁鋼板の需要は変圧器事業が好調でEVやハイブリッドも伸びていくので追加の投資を検討していく」
――オイル&ガス用パイプラインの補修・技術サービスを手掛ける英国のスタッツの昨年に買収した成果は。
「スタッツを100%子会社化し、確実に運営している。パイプラインのメンテナンスの需要を着実に取り込んでいるが、これから補修について事前のモニタリングや事後の検査など付随する機能を付加していく。パイプラインのメンテナンス分野におけるライフサイクルに合わせた総合サービスの展開を検討している。北米でも行っている事業は拡大が見込め、中東や欧州でも新しい展開を視野に入れている」
――米国のインフラ補修事業者のストラクチュアル・テクノロジーズに昨年に出資するなど米国での事業強化策が進んでいる。スチール・テクテクノロジーズも日本製鉄によるUSスチール買収が成立すれば、事業成長のチャンスにつながるのでは。
「ストラクチュアル・テクノロジーズは事業を順調に拡大している。米国は老朽化した橋梁が多く、橋梁補修の案件が西海岸中心に増えており、着実に確保していく。米国の事業会社は市場の成長が続く中でしっかりと需要を取り込み、収益を高めていく。投資を続け、優良なアセットを確保していく。スチール・テクノロジーズはUSスチールといろいろと接点を持っており、日本製鉄によるUSスチール買収が決まればさまざま形で支援していきたいと考えている。
――高い将来性が見込めるインドとアフリカの市場をどうつかむ。
「インドで投資の機会を探している。すでにサプライチェーンを持ち、鋼材輸出も行っているが、国内の中にどれだけ入っていけるかが重要になる。産業用モーター製造の事業会社があり、増える需要を確実に捉える。鋼材販売に限らず、成長投資の手を積極的に打っていきたい。アフリカは南アなど南部中心にそれ以外の地域も含めて市場の可能性を探査している。当社の他の本部が関わっている現地の有力なパートナーとの合弁含め有効な投資を検討する。この数年の中で具体的な投資に向けたステップを進めたいと考えている」(植木 美知也)
スポンサーリンク