2024年11月25日

財務・経営戦略を聞く/JFEHD副社長/寺畑雅史氏/印電磁鋼板戦略を加速/成長へ北米展開、重要性増す

――通期の連結事業利益予想を1600億円と前回予想から1000億円下方修正し、修正分のうち鉄鋼事業が950億円と大半を占めた。国内外の需要が低調で減産を余儀なくされている。

「海外自動車の回復が想定を下回り、建設の需要が予想以上に低迷している。上期の単独粗鋼生産は1103万トンと前回から30万トン減り、下期予想は1140万トンと30万トン、通期予想は2240万トン程度と60万トン下方に修正した。第1四半期は国内自動車の品質認証問題による減産が響き、第2四半期も内外自動車減産の影響を受けた。国内自動車生産は下期に一定程度戻ってくると思うが、従来のような力強さは感じられない。建設は大型物件の時期が後にずれ、計画の内容を見直すものもある。鋼材輸出は第1四半期に抑え、第2四半期に少し増やした。設備の稼働率を一定程度維持するために下期も第2四半期並みの汎用品の輸出を見込むが、そのために下期は販価・構成が少し下に振れる。JFEスチールのセグメント利益は700億円、棚卸資産評価差等が800億円あり、今年度の実力の利益は1500億円となる。中期計画目標の2300億円に届かないが、構造改革を実行していなければさらに苦しい状況に追い込まれていた。なんとか改革が間に合い、厳しい市場環境の中でも利益を確保できている」

――スプレッドは前年並みを維持するが、トン当たり利益は中計目標を下回ることに。

「鉄鉱石と原料炭の価格は下落というプラス要素がある一方、為替の円安や諸物価の上昇、海外での鋼材価格下落というマイナス要素もある。販価については、主原料価格に連動して下がる部分があるものの、物流費・労務費を含む諸物価の上昇分を転嫁することで前年並みのスプレッドを維持する。ただ、24年度の棚卸資産評価差等を除いたトン当たり利益予想は8000円と、残念だが中計目標の1万円は未達となる。今年度の状況を踏まえ、来年度からの次期中期経営計画を詰めていく」

――25年度はこれまでの投資効果が表れ、収益の改善が期待できるが、肝心の国内外の厳しい事業環境は好転が見込みにくい。

「倉敷地区で電磁鋼板製造設備の増強工事が完了し9月に生産を始めている。インドの電磁鋼板製造のティッセンクルップ・エレクトリカル・スチールインディア(tkESI)買収が年度内にクロージングする見込み。豪州のブラックウォーター炭鉱の権益を取得し、収益の安定化に効いてくる。JFEエンジニアリングが取り組む洋上風力向けのモノパイルの製造は25年度下期に本格化する見通し。戦略投資が徐々に具体化し、25年度の収益改善に寄与する。ただ、考えなければならないのは粗鋼生産の将来にわたる見方だ。内需は長期のトレンドとして毎年減少していく見通しだが近年は下落幅が大きい。新型コロナ禍後、内需は前年を下回り続けている。鋼材需要の動向、経済の行方をよくみて25年度からの次期中計を組み立てなければならない。成長市場のインドはJSWスチールとの戦略を前に進め、大きな需要を抱える米国での投資の可能性を検討する」

――電磁鋼板増強の一環で印tkESIの買収を決めた。

「よい案件と思っている。JSWとの方向性電磁鋼板の合弁会社JSWJFEエレクトリカルスチール(J2ES)は27年度のフル生産を予定しており、それより先にtkESIが効果を上げる。年度末までに買収が成立するとみており、J2ESと併せてインドの中でリーダー的立場を築ける。将来的にはJSWから母材の供給を受け、インドの中で電磁鋼板を一貫で製造できる。JSWはインドで唯一の電磁鋼板の母材供給会社となり、競争力をさらに増すことで拡大する需要を取り込んでいく。輸入マーケット主体のインドの方向性電磁鋼板市場で国産化を進めていく」

――トランプ政権となり、変化が見込まれる米国市場でどのような手を打っていくか。

「トランプ次期大統領は消費を増やすなど景況を改善する政策を実施するとみられ、プラスの効果は海外にも波及するだろう。マーケットインの戦略を強める必要がある。自動車の電動化は州の法律で決まっているところもあり、トランプ政権下でもある程度は進むのではないか。また、HV・PHVもBEVとほぼ同じ数量の電磁鋼板を使用することを考えると、大きな流れとして電磁鋼板の需要量は増えると見ている。JFE商事の加工拠点など投資を継続して検討していく。一方で保護貿易は気になるが、それだけに米国内での事業展開が重要となる」

――JSWが韓国POSCOと合弁でインドに新製鉄所を建設する。JFEとして参画あるいはJSWとの上工程の協力の考えは。

「JSWとは09年に包括契約を結び、長いつき合いの中で信頼関係を築いている電磁鋼板については両社で進めていくがJSWはいろいろと成長戦略を考えている。JSWとPOSCOの協業には電池材料など業容拡大の話があり、JSWが成長していくのはJSWの株主でもある当社にとって好ましいこと。詳細は話せないが、JSWとは当社も将来に向けて広い観点で検討を進めている」

――JFEエンジの通期利益予想は200億円と前回通りだが、JFE商事は450億円と50億円下方修正した。来年度以降の見通しは。

「JFEエンジは今年度もごみ焼却炉など廃棄物発電分野の受注が好調だ。基幹インフラ関連も橋梁改築の案件がかなりあり、利益水準を維持していく。JFE商事は市場の変調を受けて利益予想を下方修正したが、中計目標の400億円は超える見通しだ。米国でCEMCOやSTUDCOを買収した効果が表れている。STUDCOの収益効果はこれから本格化するし、東欧のセルビアで建設する電磁鋼板の加工拠点もあり、投資効果は今後さらに高まる。米国やメキシコ、中国、インド、東欧に構える電磁鋼板の加工網の強みをいかに生かしていくか。JFEスチールの電磁鋼板の生産能力を海外でどう増強し、JFE商事の拠点に供給していくかは成長戦略の重点ポイントの一つとなる」

――年間配当を1株100円に前回予想110円から変更した。利益が大きく減少する見通しの中で前期並みを維持するのは。

「従来は収益のボラティリティが高く、それに伴って配当が大きく変動し、株価に影響していた。株主は安定配当を求めており、安定的な利益還元を考えている。成長や脱炭素に多額の投資を必要とする中で配当性向を維持するのは大変なことだが、資本市場からどうみられているか意識し、課題を解消していくことで企業のプレゼンスを高めていきたい」(植木 美知也)

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