――2024年4―9月期決算が前年同期比で減収減益。どのように評価しているか。
「中国メーカーによる鋼材輸出が増え、国際価格も大きく下落した。当社の国内外建値とマーケットの実態が乖離したため、10月契約分の鋼材販売価格を全品種で大幅に引き下げることでマーケットに下限値を示し、市況の底入れを図っている。採算を重視した結果、輸出比率が15%弱となり、国内向け出荷も数量レベルはなんとか維持しているものの、建設用鋼材の内需が下押ししており、7―9月の鋼材出荷数量は4―6月比で減少した」
――25年3月期業績見通しを前回予想から下方修正した。
「4―9月期決算結果を踏まえて、下期の計画を立てたが、鋼材出荷数量は132万トンと上期よりも減る見通しとし、通期は283万8000トンを想定する。国際市況で反転の兆しが見られるものの、今後も中国からの輸出が続くならば、輸出比率は上期と比べて一段と低下し、また、国内向けの鋼材出荷も伸び悩むとみており、価格についても現行市況を反映させる形で計画した。鋼板類の輸出が難しくなり、田原工場や岡山工場は生産数量が伸び悩む懸念がある。また、輸入鋼材への対処も喫緊の課題だ。資源循環型社会実現への貢献、正確な納期など国内メーカーとしてのメリットを需要家にアピールする」
――10月契約分の大幅値下げで状況は変化したか。
「価格発表後、中国政府による大規模な金融緩和策と不動産市場の支援策などが発表され、為替水準も若干円安に振れた。原料価格上昇も重なり、鋼板類、条鋼類ともにマーケットは当社の『底入れを図る』という施策に理解を示してくれたと思う」
――建設マーケットの現状をどう認識するか。
「建設分野では、労働力の大きさが鋼材需要に結び付く。建設計画自体はあるものの、現場の人手不足によって、施工に遅れがみられる。労働力が戻り、施工ペースが回復するか、引き続き状況を注視したい」
――8月末で田原の酸洗ラインが再稼動した。
「順調に稼働している。需要家にサンプルを提供し、品質確認が始まった。酸洗コイルは下期で月間5000トンの生産を目指す。12月契約分では5幅サイズを含め、田原の酸洗コイルと酸洗鋼板の販売を開始する予定だ」
――岡山の連続溶融亜鉛めっきラインを改造し、冷延コイルを生産する計画の進捗を。また、その他の設備投資についてはどうか。
「情報を収集しながら、設備メーカーと研究している。設備仕様や投資金額、市場の予測などスピード感をもって多角的に検討していく。このほか、田原の製品倉庫に薄板コイルを搬送するための自動クレーンを導入するべく、現在試運転中。合計は4基で投資金額は数億円。現在は酸洗コイルの払い出しで使用を開始しており、今後自動クレーンで酸洗ラインに母材・ホットコイルを送る予定。岡山の中形工場と中形倉庫の間で形鋼を自動搬送する棟間輸送台車も新設した。人口減少・少子高齢化の環境下、歩留まり向上や電力使用原単位低減などコストを引き下げながら業務効率化を実現するため、省力化投資を推進する。また、田原に屋根置き型の太陽光発電設備を増設するなど、省エネ投資にも注力する」
――需要家との協働が進んでいる。
「電炉鋼材の環境優位性が注目され、当社の鋼材が採用されるケースが増えている。千代田鋼鉄工業との『CO2低減カラー鋼板』を、また大和リースとは柱・梁・床の構造材に当社製品を採用することで従来の立体駐車場建設に比べてCO2排出量を約55%削減する『環境配慮型自走式立体駐車場』をそれぞれ共同開発した。ヤマハ発動機は二輪車出荷用梱包枠に当社鋼板を採用するなど、市場に広めていただいている。建設業、製造業の需要家で資源循環や脱炭素で協働の話が来ており、複数の需要家と話し合っている。自動車関連では、電気炉でアップサイクル(鉄スクラップの高度利用による高付加価値製品への再生)した『グリーンEV鋼板』を、25年までに自動車産業向けに量産・供給するという目標を掲げ、人員を増強するなど社内で研究を進めている」
――物流の2024年問題への対応は。
「国内中継地を40カ所に拡充し、需要家に製品を安定供給できる体制を構築した。今後は輸送効率化を追求し、東京港―田原工場間の海上便で実施している鋼材とスクラップの交互輸送について、他工場への横展開も検討する。鋼材流通や加工業者などと協力し、陸上便で共同輸送できるかも模索している」
――25年5―6月、船橋中央埠頭に鉄スクラップ集荷拠点「東京湾岸サテライトヤード(仮称)」を開設する。
「名古屋SYと関西SYが順調に立ち上がっており、鉄スクラップ輸出が多い関東エリアでの開設を検討していた。引き続き国内での資源循環を進めていく」
――7月からグリーン鋼材「ほぼゼロ」の販売をスタートした。
「販売開始から鋼板類、条鋼類ともに実績が積み上がっており、累計20社ほどの顧客が採用し、リピート受注もみられる。鋼材流通や加工業者だけでなく、需要家に近い企業からの問い合わせもきている。炭素に価格を付けるべく、トン6000円のエキストラを公表したが、市場からは受け止めてもらっている」
――「ほぼゼロ」の構築で使用している非化石証書は段階的に使用比率を低減させる。
「田原で屋根置き型の太陽光発電設備を増設した結果、太陽光発電設備による年間発電量は全社トータルで2万300㍋㍗時となった。電力多消費型産業に属する当社が再生可能エネルギーの導入・拡大に取り組む意義は大きく、力を注ぐ。非化石証書のみならず、電力会社との連携によって全工場でデマンドレスポンスを活用し、そこで生み出した再エネの『ほぼゼロ』への使用を検討する。また、オフサイトPPAやバーチャルPPAなど社外からの再エネ調達も模索する。再エネの購入方法は多く、研究していきたい」(濱坂浩司)