2024年9月20日

神鋼商事の成長戦略―中期経営計画2026―/(9)新事業推進室長/高橋淳執行役員/「飛び地」分野にも挑戦/外部と連携、半導体・脱炭素に注目

――新たな事業を創出する新事業推進室を本年4月にスタートさせた。新組織を設けた背景、狙いとは。

「国内の鉄鋼生産は減少傾向にあり、また鉄鋼業は脱炭素という新たな課題に向かっている。当社の主力事業分野である自動車産業ではEV化やギガキャストなどの製法の変化により、鉄鋼や非鉄金属の製品や原料は需要の変化が想定される。一方で再生可能エネルギーやCO2排出削減の技術導入など新たなビジネス機会が生まれている。将来に向けて新たな事業の柱を作る活動が必要と考え、従来と異なるアプローチから新たな事業価値を創出することを目指し、営業本部から独立した組織として設置した。事業環境の変化を捉え、新しい事業に挑戦し、企業の成長につなげる。環境に配慮した製品開発や事業が実現できれば顧客の環境負荷軽減や競争力の強化が期待できる。IоTやAIを活用したサプライチェーンの構築やサービス・技術の提供など高くアンテナを張っていく」

――新事業の開拓をどう進めていく。

「まずは探索と評価だ。新規のコネクション作りで情報収集ルートを広げながら、潜在的な新事業の評価やビジネスモデルの検討を行う力を高める。2つ目は新事業の企画と立ち上げ。探索した新事業のビジネスプランを策定し事業計画を立案する。収益性の評価やリスク分析、資金調達や必要なリソースの確保などから検討する。3つ目は外部との連携強化。業界団体や研究機関との協力関係構築やスタートアップ企業との事業連携、取引先との協力を進める」

――具体的にターゲットとする分野は。

「例えば半導体分野で取扱商品を増やし、産業機械では脱炭素や省エネに関する商品を今まで以上に取り扱っていく。従来の事業ポートフォリオを広げるのと並行して、従来にない、いわゆる『飛び地』の事業分野も開拓する。これについてはSX(サステナビリティートランスフォーメーション)として全社が取り組む方向性を明示した。持続可能性と変革を追求し、社会課題の解決と収益力強化につながる投資と事業に取り組む。昨年の脱炭素ファンドへの出資を契機にCCUS(二酸化炭素の回収・貯蔵・有効利用)、水素、リサイクルといった分野の新技術の開発に取り組むスタートアップ企業と知り合う機会が増え、現在、複数のスタートアップ企業から新しい技術や考え方を学んでいる。水素やアンモニアの分野で大きな事業を当社が手掛けるには現在は知見や資金力が足りないが、当社にできるやり方で価値ある商品を供給する。すでに発電所向けにバイオマス燃料を供給し、アルミスクラップのアップグレードリサイクルも始めている」

――目標到達への道筋をどう描くか。

「新事業推進室が手掛ける新事業は中期経営計画に合わせて3カ年で本格的に立ち上げるつもりだ。2024年度は新事業のアイデアを多く出し、情報収集を進める。自社のサイズに見合うビジネス規模まで拡大が可能かという成長の可能性、当社の知見やリソースを使えるかという親和性、既存のポートフォリオとのシナジー効果などを考え、有力な案件についてプランを検討し事業化調査を行う。2年目はトライアルの年で複数の新事業を実行段階に移していきたい。試作品の開発やテストを行い、マーケティングを進め、外部パートナーとの組み方や量産に向けた資金調達の方法を検討する必要もある。3年目に売り上げの計上を目指し、『商売が回る』形を作る。もちろん前倒しで達成できればよいが、一から始める新事業開発はそんなに簡単にできるものではないと考えている」

「室員は7人で営業ユニット、海外現法、経営企画部と組織をまたいで人選し、うち4人は海外駐在を経験している。私が室長として指揮を執り、全社一丸で進めていく。新事業はメンバーの目利きとアイデア創出、なにより熱意と好奇心によるところが大きい。今はメンバーが、自分が詳しく興味のある分野から探索を進めている」

――各ユニットとの連携が重要に。

「営業本部やユニットはそれぞれ新事業を進めている。ユニットで検討した新事業がユニットの本来事業と異なる、あるいは収益化に時間を要し資金負担が課題となる場合には新事業推進室が引き継ぐことも考える。反対に新事業推進室での検討案をシナジー効果の高いユニットに移管することもあり得る。新事業推進室での議論を営業に持ち帰ってもらうため、各ユニットからスポットでミーティングに参加するようにした。また、新事業推進室が主催して、当社が出資する微細藻類バイオベンチャーのちとせグループの藤田朋宏CEOの講演会を今年6月に行うなど社内の新事業推進の意欲を高める啓発的な活動も行っている」

――投融資額や利益の目標額は。

「目標ありきではなく、中長期的な視点で収益の柱になる事業を探す。既存事業からの『飛び地』を想定しているが、1件当たりの投資規模はバランスシートに大きな影響を与えない程度とし、リスク分散の観点から事業パートナーとの共同出資を積極的に考える。投融資額は中期計画の全社230億円の1割程度を想定しているが経験と実績を積み重ね、機動的な投資や一定のリスクを負った案件に挑戦していきたい」(植木 美知也)(連載終わり)

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