――本年度から2026年度まで新中期経営計画がスタートしました。機械事業部門の取り組みについて。
「既存事業の重点分野に人、モノ、金を傾斜していく。加えて、新規事業の育成も進め、30年度に連結売上高3000億円、同経常利益300億円を目指している。単なる数字達成をゴールに置くのではなく、市場変化、為替変動など、どの様な環境下でも安定して経常利益300億円を稼げる体制、仕組みにしていくことが狙いだ。30年のビジョンに向けて、現行中計では経常利益が安定して200億円を稼げる体質を目指していく。本年度第1四半期時での24年度通期の経常利益予想は320億円だが、厳しい事業環境下であっても200億円以上を安定して稼げる事業体を構築することに比重を置く」
――機種別の現状と取り組みを。
「長期的にはIP事業(等方圧加圧装置)をコアビジネスに育てたい。金属材料強化に加え、電池関係、EVのベアリングや、殺菌効果から食品分野でも需要がある。17年に買収したIP装置(等方圧加圧装置)の世界トップメーカーであるスウェーデンのクインタス社との協業では欧米の情報をクインタス社、アジア地域の情報を日本側で収集するなど、受注活動においてウィン・ウィンの関係を築けており、大きな柱となってもらいたい」
――真空成膜装置(AIP)は。
「今年8月から成都の切削工具メーカーと協業することで合意した。当該メーカーは工具・材料・加工に対して高い技術知見を持ち、先方での切削評価、材料準備も可能である。また、中国工具協会の本部がある成都に拠点を設置することで、市場開拓を加速させる」
――樹脂機械、タイヤ・ゴム機械は。
「樹脂機械は機械事業部門の柱の一つとして、お客様の設備大型化ニーズに応えることで、ポリエチレン分野のシェアを堅持する。前中計期間では中国での設備投資が盛んで、これを捕捉してきたが、これからは中東、インドなどの市場へ広げ、強化していく。タイヤ・ゴム機械は、高砂製作所、米国、インドの3拠点で連携している。インド拠点のコスト競争力を活かして、各地域で拡販して伸ばす」
――主力の圧縮機は。
「前中計期間では、エネルギー・化学分野の需要を控え目にみていたが、それ程需要が落ち込まず、ロシア・ウクライナ情勢により欧州でLNG関連設備の需要も高まっている。これを受けてLNG船向け圧縮機やLNG基地の熱交換器の受注が拡大した。今中計期間でも引き続きエネルギー・化学分野に加えて、環境用途の水素、アンモニアの需要は順調と見ており、機械事業のコアビジネスという位置づけ」
「2050年のカーボンニュートラル(CN)へ向け欧州中心に水素、アンモニアへの投資が拡大する一方で、LNGも30年頃までは需要増加が見込めるため、これら両方を取り込む。欧米からのCN関連の引き合いが強く、特に欧州は大型機の需要が伸びており、これを捉えて、CN関連の実績を増やしていきたい。例えば、CCS(二酸化炭素回収・貯蔵技術)では、圧縮容量と圧縮比に応じてターボ・レシプロ・スクリューの3機種から最適機種を提案できる当社の優位性を活かしていく」
――LNG関連も伸びていると。
「カタールからの天然ガス輸送のためにLNG船が大量発注されており、これらに当社の圧縮機が搭載されている。天然ガス液化基地およびLNG受入基地の双方で当社の熱交換器が利用されており、これも30年頃まで需要が見込まれる。30年以降に向けて、高砂製作所では液化水素用のORV気化器を新たに設置し、気化性能の実証試験を25年3月から開始する。当社グループが提案する『ハイブリッド型水素ガス供給システム』の実証試験を前進させる。再生可能エネルギーの太陽光から水電解式水素発生装置(HHOG)で水素を製造する。当社の素形材事業部門で使用する加熱炉に水素を利用する燃料転換の実験も行う予定」
――汎用圧縮機では三浦工業と提携しています。
「汎用圧縮機部門の当社グループ会社コベルコ・コンプレッサが三浦工業と協業しており、良好に連携は進み、三浦工業が持つボイラー分野のストックビジネスにおけるノウハウなども活かしている。国内外でさらなる協業の効果発揮を期待する」
――機械事業部門の組織変更の効果が出始めましたか。
「3年前に実施し、組織に横串を通す形で組織改革を行った。マトリックス型組織を採用、部分最適から全体最適の考えに移行し徐々に成果が出ている。以前は海外拠点など機種別の運営だったが、今中計期間では、各拠点や部門間の連携強化により地域ごとの需要やニーズを吸い上げ、さらなる全体最適運営を目指す。従来は機種別の考え方が多くを占めていたが、徐々に柔軟な考え、対応ができるようになってきた」
――中国経済が低迷していますが、取り組みの見直しは。
「中国経済が低迷しているといわれているが、神鋼無錫圧縮機は堅調だ。太陽光発電向けポリシリコン需要を取り込み、レシプロ圧縮機が伸展した。エネルギー・化学分野は今のところ好調を維持している。青島にはタイヤ・ゴム機械の販売・サービス拠点、神鋼産機系統工程があり、無錫中心に各拠点が連携して地産地消でどのようにストックビジネスを取り込んでいくか、戦略を策定して進めている」
――中国では近年、自動車や建機などでローカルメーカーが躍進し、日系メーカーが苦戦しています。産業機械の競争も激化していませんか。
「現状は自動車、建機ほどではない。今後、ローカルメーカーとの差別化を進めることで、対抗していく」
――新規事業は。
「昨年4月にシリコンウエハーの検査装置などのメニューを持つコベルコ科研を機械事業部門の所管とした。半導体検査装置については両社の持つ強みを生かし、コベルコ科研が研究、開発を、当社が設計、生産、調達を含めたモノづくりに軸足を置き、協業体制を敷く。本社、神戸総合技術研究所とも連携して、長期目標を掲げて業容を拡大する。全固体電池でも製造に電極と電解質を密着させる工程で、我々のIP装置が使用されハードを提案できる一方、コベルコ科研は評価技術を持っており、両者で連携し新規事業として育成していく。全固体電池は自動車や電池メーカーも開発を進めており、協力して事業化に向けた初期検討も実施している」
――ストックビジネスの取り組みは。
「前中計期間に工場を強化・拡大した韓国の拠点や、欧州ではドイツの拠点を活用してストックビジネスを拡大していく。ドバイ現地法人では非汎用圧縮機のアフターサービス、ドーハ事務所では熱交換器のアフターサービスを提供している。さらに、サービスへの需要が旺盛と見込まれるサウジアラビアでの展開を進めていく。これら中東の各拠点を統括する体制も検討している」
「タイヤ・ゴム機械は、日本・米国・インドの3拠点で事業を展開している。2030年頃までにインドを設計も含めたモノづくりの大きな拠点としたい。現在はタイヤ・ゴム機械だけの拠点だが、今後は圧縮機等も展開できる体制にする。圧縮機については、10年位かけてインド拠点の体制を整え、今後徐々に伸びていくインド市場は元より、アフリカ、中東、さらには欧州市場をカバーできるように強化していく」
――高砂製作所での施策は。
「インド拠点では、タイヤ・ゴム機械の製造に関して図面をモニタで投影しているが、国内では未だに紙の図面を見てモノづくりをしている。高砂製作所のデジタル化が喫緊の課題であり、ものづくりのデジタル化・生産性向上の取組みを推進中だ。高砂製作所では人に頼った仕事が多く、整然としたモノづくりを行うためのデジタル化や見える化を進めており、業務効率化に向けた既存システムの再構築も進めている。また、少子高齢化の中で、全社的に推進しているAIなどを活用しながら業務の効率化を図っていく」
――現中計を27年度からの次期中計にどうつなぎますか。
「30年度に安定的に連結売上高3000億円、同経常利益300億円を創出できる事業体を確立するためには、高砂製作所を中核として、海外拠点のナショナルスタッフを活用しながら、いかに海外事業を拡大できるかが次期中期のテーマである。今後も成長が見込めない機種は縮小・撤退する一方で、新規事業など成長が期待できる機種にリソースを傾斜することで持続的に成長していく。合わせて、既存事業の重点分野でのボリュームゾーンをしっかり確保していくことも大事だ。新興国の追い上げが激しい中で、ボリュームゾーンを維持しながら、新規事業を伸ばすことで基盤を強める。今は重点分野に位置付けられている事業が、将来的に縮小する可能性もある。変化に柔軟に対応する」