――国内市場が振るわない。下期の回復は期待できない情勢だが、通期の連結経常利益予想は1500億円、連結純利益は過去最高の1200億円の予想で前回予想から据え置いた。
「2024年度スタートの中期経営計画では、24年度下期から需要が徐々に戻りはじめ、25、26年度にかけて回復すると想定していたが、全体の景況感として上向く様子はみえず、前年並みの需要にとどまりそうだ。機械系の受注水準が高く、電力事業は増設した発電設備が全て稼働し、いずれも収益が安定しており、全社利益を支えている。建機は想定より販売台数が減少し、通期の利益見通しを下方修正したが、機械系のアフターサービスの上積みが建機の減益を相殺する。素材系の動向が全社利益を左右することになるが、気がかりは東アジアマーケットの動向だ。特に中国では需要が減少し、余剰鋼材が輸出に向かい、アジアの市場を冷やしている。市場は第2、第3四半期も改善が見込めず、数量は厳しいが、価格改定の効果でマージンを維持していく。第1四半期の連結経常利益は350億円と前年同期比2・4%の減少にとどめた。計画に比べ数量は減ったが、マージンで取り返した。事業環境としては前回想定より下振れしているが、大幅な下方修正が必要とまでは見ておらず、通期の利益予想は前回通りとした」
――自動車と半導体の需要は下期に回復を織り込んでいたが。
「自動車は販売台数がさほど伸びず、当社としても生産台数の見通しを下方修正した。国内の自動車生産は900万台を下回る可能性がある。半導体関連は製品に近いディスク材は好調だが、銅板や製造装置向けのアルミ厚板は回復の兆しが見えてこない。ただ、半導体市場はいずれ改善してくるだろう。建築分野も都心部の大型再開発やデータセンターの建設は計画が多く、これもいずれ立ち上がってくると見ている。24年度の素材系の需要は期待できないが、25年度以降の回復を見込んでいる」
――粗鋼生産の予想は前回並みだが、環境が厳しい中で鉄鋼の在庫評価影響除く利益を310億円と前回から40億円上方修正した。素形材と建機は利益予想を下方修正し、機械は上方修正している。
「粗鋼生産は年600万トン前後(23年度597万トン)の予想で維持できると考えているが、よほど需要が落ち込めば減産で対応する。自動車の生産がさらに減ると部品メーカーが在庫調整に入り、材料調達を抑えるので鋼材の需要が下振れする。自動車生産が減る見通しなので素材系の生産量は減少する見込みだが一方でマージンは鉄鋼、鉄鋼以外ともに前回予想より改善が進む。原料炭の価格が想定より低く推移し、鉄鋼のマージンが広がっている。全般的に固定費の価格転嫁が進み、数量が減った分をマージンで取り返している。赤字のアルミ系についても価格改定が進み、収益力は上がってきている。今中期でカーボンニュートラル(CN)に向けた対策など多額の投資の意思決定を計画しているので利益をしっかり上げていかなければならない」
――建機を除く機械関連の受注の水準が高い。今後もCN関連などで受注は高位を持続する見通しか。
「エネルギーや石油化学関連など足元受注は好調で下期も高い状況が続く。直接還元鉄製造のミドレックスも変わらず引き合いは多い。ただ、機械系は生産能力を引き上げるのが難しく、ここから受注量を大きく増やすにはメニューの入れ替えの他、M&Aも選択肢の一つになってくる。アルミ板など事業環境の変化に伴い軌道修正が必要な分野がある一方で機械系は成長に向けて投資を進める。日々の事業をしっかりと行いながら、将来に描く姿を実現するために全力を傾けていく」
――為替が円高に振れているが収益への影響は。
「1円円高で約2億円のプラスに効く計算だ。10―20円円高に振れたとして数十億円の増益効果となり、利益予想のうちでそれほど大きなインパクトはないと考えている」
――宝武鋼鉄集団グループと8月に自動車用アルミパネル製造・販売の合弁会社設立で正式に合意した。
「5月の中計発表後、初の投資案件の公表となった。これから独禁法の審査を受けるが、事業環境が変化していく中、合弁会社を設立することでアルミ板の事業は強化される。EV(電気自動車)の販売シェアが拡大し、軽量化のためにアルミ板の需要が増えている。EVの普及やクローズドループでのリサイクルの要請に対応し、地場で溶解するメーカーと組むことで製造からリサイクルまで一貫で対応でき、非常に楽しみだ。現状の神鋼汽車鋁材(天津)は足元、計画に対して受注をプラスアルファで確保している。これまで、欧米系や日系の自動車向けが中心で新興の中国系自動車メーカーとの取引はほぼなかったが、これからは宝武集団グループが持つ販売ネットワーク、強力な販売力による拡販を期待している。中国側とはこの点を重点的に議論し、当社からの拡販協力に対して、中国側もサポートには自信を持っている」
――東南アジアでの事業成長のカギとなるタイのコベルコ・ミルコン・スチール(KMS)の状況は。
「タイは自動車生産がなかなか回復しないが、KMSは製品の不良率が低く生産は安定している。加えて日系の需要家からも現地での材料調達のメリットや製品品質について理解され、高く評価されている。タイは新政権が発足し、これから財政出動が期待され、インフラ工事による普通鋼線材の需要増が見込まれる。KMSは自動車向けなどの特殊鋼線材の生産がメーンだが、普通鋼線材の生産が増えれば収益改善につながる」
――グリーン鋼材、グリーンアルミの拡販の取り組みは。
「グリーンアルミはグリーン地金を調達することで供給を増すことができ、マーケット形成も比較的取り組みやすいので、本格化はこれからだが増やす方向で検討している。自動車メーカーに関しては、まだアルミを使用する範囲が小さいため、今はグリーン鋼材のコベナブル・スチールの提案を進めているが、どうしてもコストが課題となる。採用例は増えているが、大きく普及するかどうかは需要家の採用方針にも左右される。マスバランス方式による供給体制を整え、技術的には対応できているが、コストや市場などの要件がまだ整っていないのが現状。CNに向けて意識の高い企業がグリーン鋼材に関心を持ち、採用いただいている。今後そのような企業が増えてくることを期待している」(植木 美知也)