日本アルミニウム協会は、年内に2030年に向けたアルミの資源循環の指針を盛り込んだロードマップを公表する方針だ。脱炭素化でリサイクル性に優れるアルミは、自動車材や空調関連などで新たに適用範囲を広げている。他方で海外材の流入への対応が今後の懸念事項の一つと捉える。5年ぶりに会長に就任した石原美幸会長(UACJ会長)に事業活動の注力点などを聞いた。
――5年ぶりの会長就任への意気込みを。
「地球全体の持続可能性が追求される中、アルミへの期待は確実に高まっている。コロナ禍を経て自動車の車体軽量化など多くの分野でアルミの採用が進んでいる。一方で地政学リスクによる諸コスト上昇の影響を受けやすい産業のため、業界全体の課題を解決することが会長の役割の一つと捉えている」
「アルミの新たな用途拡大が欠かせない。銅価格の上昇に伴い家庭用エアコンの熱交換器のアルミ化が進んでいる。空調と給湯用途のヒートポンプにもアルミ多穴管の採用が始まっている。このほか、ワイヤーハーネスや電線、車載用バッテリーのバスバーでもアルミの採用は着実に広がっている」
――アルミ資源の循環に関するロードマップの内容とは。
「年内に資源循環のロードマップを公表し、年度末までに産官学の役割を明らかにしたい。50年に50%の展伸材の水平リサイクルを掲げる長期ビジョン『アルミニウム VISION 2050』の内容も踏まえ、当面は30年を目標にアップグレードリサイクルや日本版『グリーンアルミ』の標準化、使用済み飲料缶(UBC)の海外流出防止対応などを示す。設備投資は補助金制度の設立も含めて政府と協議したい。研究開発はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の先導研究などを通じ社会実装を図りたい」
――適正なコストの価格転嫁にも取り組む。
「会員企業の声をより反映させた形で今年度もアンケート調査を予定している。サプライチェーン全体で、公平で的確な時期に売価転嫁される仕組みづくりを図る。過去2年の調査結果を踏まえ、実効性を伴う調査を行っていきたい。今年7月には経済産業省のガイドラインに即した自主行動計画の改訂を行い、親事業者から積極的に価格転嫁に向けた協議の場を設けることを努めるよう改めた」
――アルミ缶リサイクル協会の理事長も兼任している。
「非常に良い機会と捉えている。日本アルミニウム協会はアルミが選択される社会づくりを使命にしており、一方でアルミ缶リサイクル協会はアルミの循環利用の促進に努めている。両協会間でアルミ缶の最新情報を共有したり、エコプロダクツ展に協力して出展したり連携している。当協会のアルミ缶委員会には、アルミ缶リサイクル協会もオブザーバー参加しており、UBCの海外流出に対しては両団体で連携して取り組みたい」
――今年度の缶材の需要動向は。
「缶材はコロナ禍以降の家飲み需要減や物価高騰などがマイナス要因の一方、アルコール飲料のヒット商品が需要を下支えしている。一部外資系ホテルではアルミボトル缶の水が普及している。リサイクル材を用いた付加価値の高い商品を会員各社が展開しており、需要増に寄与するとみている」
――自動車分野は。
「自動車材は不適切な品質認定問題の影響で一時的に弱含んでいるものの、今年度は比較的堅調に推移すると捉える。軽量化の観点で新車種ではドアやフードなどアルミパネルの採用比率が高まっている。バンパーなど構造材でも用いられており、自動車はアルミ需要をけん引する重要な分野だ。このほか、トラック向けも好調だ」
――建材は減少が続く。
「建材は新設住宅着工戸数の減少、住宅用アルミサッシの樹脂サッシへの移行、一戸あたりのアルミ使用量の減少などがあり、マイナス基調で推移する。今後も建材は減少が続くとみられる」
――空調分野は伸びる見込みか。
「エアコン向けは足元はマイナス基調だが、猛暑予想やエアコンメーカーの国内生産回帰の動き、銅管のアルミ化も一段と進むと予想され、需要は増加するとみている」
――電気機械器具向け箔は低迷している。
「箔は車載用リチウムイオン電池(LiB)とコンデンサー向けが足元でマイナスが続いている。24年度は国内自動車生産台数の増加に伴い車載用は伸びるだろう。民生用は大きな回復がまだ見込めない。一方でコンデンサー向けは24年度もマイナス基調で推移するだろう」
――厚板需要は復調傾向だ。
「液晶・半導体製造装置向け厚板は低迷期から底打ち感が出てきており、早ければ年内に復調もありそうだ。日本半導体製造装置協会(SEAJ)の需要予測によれば、24年度は日本製半導体製造装置の販売高が過去最高となる見通しだ。太陽光パネル製造装置向けは中国向けの一服で今年度の需要は弱いとみる」
――海外材の流入への対処は。
「アルミ圧延品の輸入量は、円安影響もあり23年度は前年度比6%減の約23万5000トンと減少傾向であるが、国内のアルミ圧延品出荷量も減少しており、輸入比率は
14%と高止まり傾向となっている。円高に転じた際に輸入材が増加することに加え、鋼材に見られるような中国国内から余剰分が日本を始めアジア地域に流入する可能性もあり懸念している」
「アルミ板の輸入に関するHSコードが細分化されて1年以上が経ち、合金種毎の輸入量と輸入国の傾向が徐々に明らかになってきた。缶材と思われる厚さ0.35ミリ以下の3000系は4万トン近くが輸入されており、9割が韓国とタイからだ。5000系は8割が中国、6000系は8割が韓国から入ってきていることも分かった。今後は更に分析を深め、国内材の競争力強化につなげたい。米国、欧州、カナダではアルミニウムはクリティカル・マテリアル(重要物資)に指定されている。各国アルミニウム協会とも連携しながら、政府などに対しアルミ産業の重要性を訴えていきたい」
(増岡 武秀)