――国内外の需要が低迷し、粗鋼生産は第1四半期に548万トンと前年同期の605万トンから減り、連結事業利益569億円は同33%減少した。
「国内向けは自動車の認証問題の影響を受け、鋼材輸出は安値を避けて抑えた。国内の自動車生産は昨年度を超える水準(23年度870万台)を想定していたが上期は減産が続く。第2四半期は対策として熱延黒皮やスラブの輸出について採算を考慮しながら受注を増やし、設備の稼働率を上げる。結果として輸出比率が上がり、平均販売単価は下がるが、第3四半期以降は国内外とも需要は一定程度戻るとみている。下期の自動車生産は当初見込んだ水準に回復するとみており、通年の生産台数は23年度並みを見込んでいる」
――鉄鋼事業のセグメント利益は315億円と同366億円減少した。上期は苦しい状況が続く。
「原料炭価格の下落で棚卸資産評価差等が140億円のマイナス、出資するインドのJSWスチールの想定外の減益が響きグループ会社含むその他の項目は246億円のマイナスとなった。数量・構成は粗鋼の減少の影響が大きいが熱延黒皮の輸出を減らしたことで構成差が少し改善し、80億円のマイナスにとどまった。スプレッドは海外市況の低下で80億円のマイナスとなったが、構造改革や操業改善でコスト削減180億円のプラス効果を得た。第2四半期も市場環境に大きな変化はなく、棚卸資産評価差等除いた実力の損益は第1四半期の365億円とさほど変わらないと予想している」
――JSWはじめ海外グループ会社の減益が目立つ。下期の見通しは。
「JSWは上期に設備の定期修理に加え、インドの総選挙前で公共投資が控えられ需要が一時的に停滞し、生産が減少した。インドの景気自体は堅調であり、自動車生産は上方修正の予想が示されている。JSW傘下のJVMLの新熱延設備が今年3月に稼働しており、JSWの収益は回復する見通しだ。タイやインドネシアの自動車生産が減少しているが下期はある程度回復する見込みだ」
――通期の連結事業利益予想を2600億円と前回から400億円下方修正した。前年比382億円減るが、一方で棚卸資産評価差等除く利益の予想は3080億円と前回比270億円下方修正したものの前年より118億円増える。収益力が向上しているが、25年度開始の新中期経営計画で目指す利益目標をどう据えるのか。
「現中計最終年の24年度は構造改革や操業改善によるコスト削減が進み、海外市況が低迷する中でスプレッドは23年度並みを維持する。上期中に倉敷地区の電磁鋼板設備増強が完了することもあり、高付加価値品比率50%の目標に達する見込みだ。棚卸資産評価差等除くトン当たり利益は1万円の予想で中計目標を達成し、下期だけでみるとさらに高い水準になる。海外の鋼材市況の低迷は継続し、原料価格は足元の水準が続くとみている。下期だけでみると利益は当初予想通りで中計目標に届く見通しだが、通期でしっかりと成果を出すことが大事だ。25年度からの新中計は高い利益水準を目指し、さらに先の収益倍増を目標とする『将来ビジョン』に向けて展望を示していきたい」
――新中計は成長投資、特に海外展開が大きなテーマとなるが、電磁鋼板の次の増強投資を需要が伸びる海外で行う考えは。
「現在進行中の電磁鋼板の増強投資で電動車主機モータ用トップグレード無方向性電磁鋼板の生産能力は3倍となるが、電磁鋼板の需要は中長期的に増えていく見込み。次の能力増強を検討する必要があり、需要が伸びる地域で考えたい。次の中計策定の作業に入り、設備投資やカーボンニュートラル(CN)に向けた取り組みを具体的に考えていく。国内では検討中の大型電炉導入などCN関連の投資を行うが、大型の能力増強投資は難しい。成長市場の海外が投資先となるが、具体的な検討はこれからだ。米国であればニューコア、インドとなればJSWと信頼関係にあるパートナーと共同での事業を視野に入れている」
――JFEエンジニアリングは通期利益予想200億円と前回から据え置いた。中長期的にもCN関連など高い受注が見込める。
「環境分野や基幹インフラ分野の受注が堅調であり、これから増えてくるCN関連の新規案件をしっかりと獲得していきたい。長期O&M契約を増やすことで受注による振れを抑え、安定収益に結びつけていく。地方自治体でごみ処理施設の運営などを民間に委託する動きが広がっており、収益性を考えながら対応していきたい」
――JFE商事は通期利益500億円の予想と高水準を維持する。海外企業の買収効果など新中計ではさらに上の目標を目指すことになるのでは。
「上期は北米の減速や中国経済の低迷で事業会社の米国のケリーパイプやアセアンのコイルセンターの収益が前年より減少したが下期は自動車中心にトレードの数量が増え、買収した米豪STUDCOの利益の取り込みが見込めるなど買収した各海外企業の収益効果も期待できる。JFEスチールが電磁鋼板の生産量を増やしていくためにもJFE商事の加工拠点が担う機能は重要だ。セルビアの電磁鋼板の加工拠点が立ち上がれば欧米と中国、インドの市場を押さえていくことができる。JFEエンジとJFE商事で合計700億円の利益を計上できるのは非常にありがたく、グループ全体で収益を支える体制を継続・強化していきたい」
――グリーン鋼材「JGreeX」の販売は新中計でも重要な課題となる。
「グリーン鋼材で得たプレミアムをCN対策に投じていく循環を作っていきたい。国内の需要量が減っていく中で製品の付加価値を高めていく必要がある。グリーン鋼材の価値を認めていただくことは次期中計で非常に大事な取り組みとなる。政府にはグリーン鋼材市場の醸成に向けた支援をお願いしていく。CNを進めていく上で政府のロードマップにもグリーン鋼材の普及が示されている」
――為替が足元円高に転じた。日銀の政策金利引き上げもあり、為替・金利の変動で受ける影響と対策は。
「1円円高によってフローで年間23億円のプラス、ストックで10億円のマイナスがあり、差はさほど大きくはない。ただ、販売価格の交渉の際に為替変動分を反映するので円高は交渉に影響する。輸出を受注する際の前提も変わる。需要に関しても円安を前提に企業収益を上げている輸出産業などの需要家は影響を受ける可能性がある」
「借入は固定金利での調達が多いが、変動金利については金利が1%上がれば74億円の負担増となる。金利の水準をみながら借入目標を変え、資金調達の方法など資本政策を考えていく」
――日本水素エネルギーとの間で世界初の液化水素サプライチェーンに向けて京浜地区の土地の賃貸契約を結んだ。京浜の土地利用についての今後の取り組みは。
「扇島がGI事業の液化水素サプライチェーンの商用化実証の水素受入基地に決まった。川崎市と連携し、実証開始に向けて交通アクセスや液化水素運搬船の受け入れ環境の整備を進める。扇町の土地はニトリへの売却が決まり、南渡田エリア北地区北側はヒューリックと共同で研究開発機能を中心とした街づくりを行うことを決めた。水江地区はJFEエンジがプラスチックリサイクル施設を建設する。今年度中に解体費と賃貸・売却による収入を考慮した収支計画を発表したいと考えている」(植木 美知也)