2024年7月23日

加速する循環経済への移行/インタビュー編/循環経済協会/清水孝太郎理事/国際規格 社会実装に時間/素材・業種別議論で先手 日本主導へ

世界的規模で循環経済への移行が加速している。大量生産・大量消費・大量廃棄の時代は間もなく終わり、資源を可能な限り循環利用しながら新たな付加価値を創出する時代を迎える。だが新時代に対応する国際的な共通ルールがなければ混乱を招く。国際標準化機構(ISO)は専門委員会(TC323)で循環経済分野の規格策定に向けて議論を重ねてきた。進捗状況や社会実装に向けた課題などを規格策定に関わる循環経済協会の清水孝太郎理事(三菱UFJリサーチ&コンサルティング経済・産業ユニット長主席研究員)に聞いた。

――循環経済の国際標準化はどの段階まで進展しているのか。

「今年5月22日に4つの項目が国際規格として発行された。1つはISO/TC323のワーキンググループ(WG)1で議論していたISO59004で循環経済の用語や定義を定めたものだ。例えば、そもそも『循環経済とは何か』といったものから、『企業間連携(バリューネットワーク)とは何か』といった項目が定義されている」

――特に日本と欧州で意見が分かれるサーマルリサイクル(熱回収)の扱いは。

「熱回収は推奨はしていないが循環経済を構成する要素の1つとして組み込まれた。ある程度の熱回収は必要という立場の日本のISOエキスパートが存在感を示したと思う。熱帯地域の途上国などは食品が腐り衛生問題に発展することもあるため、リサイクル体制が整っていない一部の途上国に配慮した側面もある」

――他の規格について。

「WG2で議論していた循環経済型ビジネスの要件を定義したガイダンス文書がISO59010として発行された。従来の線形ビジネスからどのように循環経済型ビジネスへ移行するのかといった内容が記されている。3つ目はWG3で議論されたISO59020で循環経済の指標に関する規格だ。『サーキュラリティ』というもので直訳すると『循環性』となる。だが車や家など物によって循環の期間は大きく異なるため、実用性の観点から改善の余地が大きい規格と言われている」

――不完全なまま規格が発行されたということか。

「5月のTC323の総会では、ISO59020も含め今回発行された規格について見直しの議論を始めることが決まった。ISOは発行から5年経過してから規格の見直しを行うため今回の決定は極めて異例だ」

「ISOは36カ月以内に発行しなければ廃案となり、また一から議論を始めなければならない。今回はコロナ禍で9カ月延長されたものの、それでも議論がまとまる気配がなかった。推測でしかないが、仮の規格でもいいから発行を優先して改めて議論を継続しようと考えたのかもしれない」

――残り1つの規格は何か。

「WG4で議論されてきたもので、循環経済型ビジネスの優良事例を集めた技術報告書がISO59032として発行された。世界の優良事例の中から、特に企業間連携で参考になる15事例を集めて分析したものだ。HARITA(富山県)や三協立山、JR東海などが参画した新幹線のアルミ水平リサイクルも紹介されている」

――WG5で製品循環データシートが議論されていたが、この規格はまだ発行されていないのか。

「他のWGから遅れて始まったWG5はまだ議論が続いている。おそらく今年の夏以降で何か動きがあると思う」

――今回発行された規格はすぐに社会実装されるのか。

「社会実装について具体的に触れているものではない。あくまでも循環経済型ビジネスで求められる要件など一般論しか述べていない。社会実装するには自動車や電機など業種別、あるいは金属やプラスチックなど素材別の課題を整理する必要がある」

――例えばどういうことか。

「金属スクラップを中心とする循環経済型ビジネスと自動車部品を中心とする循環経済型ビジネスでは関係するプレーヤー、そこで共有する情報、品質管理などに求められる項目が異なる。金属スクラップは素材としての循環になるので、例えば不純物を対象にした評価や情報の記録、品質管理などが求められる。一方の自動車部品は素材と異なり部品の劣化や摩耗の状況などが評価や記録の対象となる。金属スクラップとは品質管理の視点も変わってくる。こうした観点での業種別、素材別の具体的な議論がなければ社会実装は進まない」

――社会実装までにはかなりの時間がかかりそう。

「われわれ循環経済協会もそのように考えて先手を打って行動している。今年の4月から業種別の循環経済型ビジネスの事例を考える取り組みに着手した。現在の協会会員は素材メーカーやリサイクラーが多いので、ニーズの高そうな素材の循環経済型ビジネスについて何をするのか、求められる品質管理、必要なトレーサビリティなど情報連携のあり方などを検討する。今は月1回程度のペースで素材別に行っているが、いずれ自動車や家電などの最終製品にも広げて、今度は日本からISOの規格化を提案し、欧州ではなく日本が世界に先駆けて循環経済型ビジネスの要件定義をしていく」

――二次原料に関する規格を議論するJWG14の進捗は。

「ISO59014として発行はまだだが、すでに最終原案の投票が行われている。内容面での修正はなく編集上の修正をかけるだけの段階に来ている。おそらく年内には発行されると思う。内容はスクラップなど二次原料の望ましい生産の仕方について説明している。リサイクラーによるスクラップの加工プロセスなどの原理原則を述べた規格だ。二酸化炭素(CO2)の削減努力や責任ある調達、不法労働や労働安全衛生への配慮などESGの観点も盛り込まれている」

――日本では不適正ヤードが大きな問題になっている。これもISO59014に影響するのか。

「日本のような特定の事例を念頭に置いているのではない。途上国の一部で行われているような、子供などが毒性の強い薬剤を使って集めたスクラップを処理したり、廃被覆電線を野焼きして銅線を回収するなど、健康リスクを伴うようなリサイクルに対して問題意識を提起している」

――ISO59014が年内に発行されると、日本のリサイクル業界にどうのような影響があるのか。

「あくまでも原則論を説明しているので、現段階ですぐに直接的な影響を及ぼすことはない。ただし規格発行後5年が経過した時に行う見直しで具体的な要件、例えば『責任あるスクラップの要件』など、日本のリサイクル業界に影響を及ぼす内容が盛り込まれる可能性がゼロとは言い切れない。われわれ循環経済協会としては日本のリサイクル業界に悪影響を与えそうな意見が出る前に先手を打って次の規格を提案していくことになるだろう」

――ISO59014が発行されると、その前身であるISO/IWA19(二次金属の持続可能な管理のためのガイダンス原則)はどうなる。

「IWA19は金属の二次原料を対象にしたものだ。今回新たに発行される規格は金属や樹脂など全ての素材に対象が拡大する。またIWAは拘束力の弱い『インターナショナル・ワークショップ・アグリーメント』という文書だ。今回は文書ではなく少し地位の高い国際規格として発行される点が大きく異なる」(増田正則)

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