2024年7月17日

住友商事グローバルメタルズ 新中期経営計画を聞く/(5)鋼材第二本部 中垣正樹 常務執行役員/地産地消ビジネス強化/印需要フォロー、北米は領域拡大

――まず鋼材第二本部が取り組んだ前中期経営計画の成果から。

「伸び行く市場で手を打って、その成果が出てきており、今後の対応を考えている段階だ。過去には苦労した時期もあったが、前中計(21―23年度)では各事業の筋肉質化を図り、収益基盤を強化、今中計では守りから攻めに転じたい」

――所管分野の状況をどう見ていますか。

「特殊鋼は市場によって需要がまちまちだが、中国、ASEAN(東南アジア諸国連合)は苦戦している。日系自動車メーカーが特に中国で伸び悩み、回復の兆しは見えない。対照的にインドは自動車の数字が伸び、23年度の四輪車生産は590万台と600万台に迫り、販売も520万台に達した。二輪車も生産は2000万台を超え、今後も伸展する予想だ。これを受けてインドの特殊鋼大手、ムカンドとのJVで線材・棒鋼の圧延ミルを擁するが、インド政府の"メイク・イン・インディア"の政策に沿って地産地消ビジネスへの対応を強化している。インド市場の伸びにどう対処していくか、能力増強を含め、検討しているところだ」

――国内市場、欧米市場は。

「国内は不透明感が増している。一方で米国は高位安定の状態。欧州はブレーキがかかり、回復の出口は見えていない」

――自動車以外の市場動向は。

「建機、工作機械など米国は悪くはないが、国内は伸び悩む。国内の建設市場ではプロジェクトは計画されているが、資材高、人手不足でなかなかスタートしない。この影響で建機も伸び悩む図式だ。半導体製造装置など回復するとの声もあるが、楽観はできない」

――本年4月にスタートした現中計での取り組みについて。

「特殊鋼については前中計と大きく方向性は変わらない。成長するインドを中心に地産地消ビジネスをより一層強化していく。将来は、インドを周辺国、さらにはアフリカ諸国を見据えて、輸出拠点とすべく、まずはインド国内の事業基盤を固めて、将来に備えたい」

――中国は。

「中国は中国製EVの台頭もあり、厳しい事業環境だ。我々は日系自動車メーカーを中核に事業を展開しており、日系自動車が盛り返さないと業績的にも反映されない。一時はメガキャスト対応も検討したが、金型を接合することで対応でき、EV化対応を進めることになるだろう。逆に中国での鍛造品事業はEV化にともなって減少していくことが予想されるため、同事業の舵取りを現中計期間内で固めていきたい」

――インドは拡大路線を進めることに。

「線材・棒鋼、二次加工事業で能力を有し、さらなる拡大を検討する。短期、中長期で落ち込むことは予見されておらず、先行者メリットを追求、速く捕捉することが重要となる。スピード感を持って結論を出したい。自動車メーカー、ティア1各社との話ではインドは可能性も秘めると言われ、自動車メーカーの動きを我々もフォローしていく。そのための一定の能力が必要となる。自動車メーカーなどではインドの地理的優位性を活用したいとしており、27年度以降の次期中計のころには、ティア1各社が進出の動きも出ていることが予想され、それを念頭にインドの体制を強める。ムカンドとのJVでもどう強くするか、増強を実施するか、いつ実施するかを明確にしたい」」

――鉄道関連など輸送機材は。

「強みを持つ北米事業を中心に付加価値のあるサービスにプラスして周辺事業を取り込み、カバーする領域を拡大する。北米にはレール輸出のほか、大和工業との米国合弁の電炉ミニミルで鉄道用タイプレートなどを製造販売するアーカンソースチール・アソシエイツ、日本製鉄との米国合弁の鍛造車輪製造のスタンダードスチールがある。タイプレートは非常に高いシェアを占め、これを核に新領域に展開を広げ、新たなバリューチェーンを構築する。大幅な増加はないが、北米の鉄道網は伸びているし、取り換え需要もあり、安定成長が見込める」

――北米以外の輸送機材の取り組みは。

「インドは鉄道網拡大で軌道、車輪では大きな需要地となり、輸送機材事業の重点市場としても強化していく。住友商事の鉄鋼グループと同じく当社も米国、インドは重点市場と位置付けている」

――建材・厚板は。

「造船メーカーが新造船の手持ち工事量を3年程度抱えており、需要は底堅い。この一方でエネルギー関連の需要を捕捉する必要がある。洋上風力ビジネスのバリューチェーンの中で、我々は何が出来るのか、どのような価値を提供できるのかを考えている」

「建材事業は前年度はまずまずの好業績を残せた。24年度はスローダウンし、23年度より需要が落ちると見通されるが、25年度、26年度には戻ると見られている。これに向けて、先のプロジェクトを捕捉していく。大きく落ち込むことはないものの、ブレーキがかかる要因として人手不足や構造的な問題が顕在化する。ただ、大都市圏ばかりでなく、25ー26年度には地方でもプロジェクトがあると認識しており、全国で案件を刈り取っていきたい」

――洋上風力の取り組みはどの様に。

「昨年、米国は踊り場に差し掛かり、欧州は議会で極右政党の台頭でグリーン政策にブレーキがかかる懸念がある。加えて26年から欧州では国境炭素税を課す国境炭素調整措置(CBAM)が導入され、日本からの輸出は厳しくなる。斯様な事業環境で、地産地消でどの様なビジネスをつくれるかが課題だ。欧州メーカーとの協業など、現中計の中で新たなビジネスモデルを打ち出していきたい」

――国内、アジア近海は。

「日本、アジア近海はいずれ浮体式洋上風力が出てくる。高炉メーカー、造船メーカーで検討を進めており、当社として提案、エクスパティ(専門ノウハウ)を、海外を含めたサプライチェーン、バリューチェーンにどうフィットさせられるか考えている。浮体式洋上風力のサプライチェーンは複雑になることが予想され、商社機能を発揮できる分野と思う。資機材、部材調達は物価上昇の中で安定的にタイムリーに調達することが課題で、ここでスピード感を持って対応する。住友商事との連携も強みに展開を伸ばす」

「着床式洋上風力でもバリューチェーンを確立させ、今中計、次期中計でなにがしかの結果を出したい。造船メーカーは新燃料船にますます力を入れる一方、これらから洋上風力へと展開する流れにある。これをフォローし、再エネビジネスとリンクさせていく」

――カーボンニュートラルへの対応は。

「日本の鉄鋼メーカーはマスバランス方式によるグリーン鋼材を供給、厚板、建材でも実績が出てきており、その裾野を広げる。さらにその先の電炉・還元鉄で造る鉄鋼製品の販売を念頭に置く。日本からの輸出ではなく、海外から海外の取引となり、何ができるか検討中だ。欧州では27年にもスウェーデンのH2スチールが供給を始め、自動車での採用が始まる。我々も遅れずに海外でどう関与し、機能を持ち込めるか議論している」

――住友商事との連携は、どう考えられていますか。

「再生エネルギー分野で、輸送機・建機グループやエネルギートランスフォーメーショングループと連携する。自動車メーカーと電機メーカーがタッグを組んでEV開発を進めているように、再エネでのバリューチェーン構築に向け、鉄鋼商社の視点で新たなビジネスモデルをつくりたい。知見を活かし、人の入れ替えなどを考える。厚板・建材、線材・特殊鋼、輸送機材と各部から見える景色を変え、気づきを多くしていくことで一部を他の組織と組ませ、新たなビジネス領域をつくれればと思う。当本部の売上高は年間約3400億円だが、これを拡大したい。薄板以外の鉄鋼製品を扱い、取引先も多岐にわたる。多岐にわたる産業と相対するからこそできることがあると思う。その中で新たな価値を創造、伝統的手法にこだわらず、新たな領域を創出、主導していく組織としたい。現中計でどこに向かって何をやるのかを決め、実際のアクションに移していく」

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