2024年7月3日

鉄鋼新経営 変化を好機に/日本高周波鋼業社長 小椋 大輔氏/半導体・医療・エネ向け拡販/高清浄度・難加工材で強み発揮

――取り巻くマーケット環境から。

「特殊鋼について、2023年度は需要家が在庫調整を行ったことで受注量は実需を下回り、富山製造所の生産量が落ち込んだ。足元の国内需要は回復には至らず、足踏み状態にあるが、在庫調整が進展したことで実需並みの受注に戻り、生産計画どおりのペースが続いている。海外は中国を中心に市場が停滞し、厳しい。ただ、円安でインドなど中国以外の国の現地需要家から工具鋼を新規で受注するケースが増えており、受注の上積みを期待している。下期にかけて半導体分野などが回復するとみられる一方、自動車の認証不正問題で生産減少と新車開発計画が後ろ倒しした場合、金型用工具鋼需要にマイナス影響が出るため、動向を注視している。タイでは中国EV(電気自動車)に席巻されて工具鋼の需要が減るだけでなく、海外メーカーとの競争も激しく、価格競争がさらに激化している。鋳鉄製品は中国経済停滞の影響を大きく受け、産業機械分野の落ち込みが続いており、回復のめどが立っていない」

――23年度を振り返ると。

「特殊鋼の国内需要が減少し、需要家の在庫調整も加わり、受注量が大きく落ち込んだ。当社は前年度比で特殊鋼が25%減、鋳鉄は23%減となり、新型コロナウイルス感染症が拡大した20年度実績を下回る。費用を最大限圧縮し、富山製造所も一時休業して集中生産することでコスト削減などに取り組むとともに、国内外でスポット受注を獲得したものの、ベース受注量の落ち込みをカバーできず、経常赤字となった」

――26年度を最終とする3カ年の新中期経営計画が始動した。

「当社は他社に比べて生産規模が小さく、高コスト体質で損益分岐点が高い。受注量の減少が収益に大きく影響する。いかなる環境下においても安定収益を確保するには高付加価値商品の比率を大きく高める必要があり、稼ぐ力を強化するにはポートフォリオを変革しなければならない。特殊鋼や鋳鉄の拡販可能性を積み上げ、26年度と30年度の目標を設定した。特殊鋼は特殊合金と特殊ステンレスを戦略商品とし、経営資源を投入する。一方、ベースカーゴである工具鋼と軸受鋼のシェアを守り、競争激化への対応に向けて事業基盤、QCDD(品質・コスト・納期・開発)を定め、中計を推進する。また、これまでサステナビリティ経営方針を策定し、魅力ある製品の提供を通じ、豊かな社会づくりに貢献、金属スクラップを使用したものづくり、副産物のリサイクル推進などに取り組んできた。ここにきて社会や個人の意識が大きく変わり、これまでの常識が通用せず、地球温暖化対策や人材不足など新たな課題にも対応する必要性が生じている。社会課題の解決、ステークホルダーへの貢献を明確に情報開示するため、重要方針の1つとしてSDGs経営を掲げた」

――半導体と医療、エネルギーの3分野をターゲットに、収益力の高い特殊合金と特殊ステンレスをさらに伸ばす方針を打ち出した。

「半導体や医療、エネルギー分野は成長が期待できるほか、当社が得意とする小ロットでニッチな高付加価値商品のニーズが多く、3分野の販売比率を引き上げる。すでにマーケットには参入しているが、販路を拡大するため、商社や流通との連携を深化させ、協業する。同時に技術サービスを強化し、提案型営業を推進するため、営業本部内に技術サービススタッフを1人配属した。将来的には航空・宇宙分野などへの参入も視野に入れていきたい。一方、受注拡大に対応するため、特殊溶解や検査能力などの生産能力を増強する。顧客のご要望を捕捉して、高機能商品の開発に繋げ、それら開発品を造り込む製造技術を確立する。高品質かつ安定した納期で高機能商品を顧客に届けることが絶対条件で、これに小ロット・多品種の対応力を合わせることで受注拡大を目指していく」

――新商品開発、難加工材の造り込み技術確立の状況を。

「例えば半導体関連装置向け材料では高強度や高耐食、低熱膨張や非金属介在物の少ない高清浄度が求められる。鋼材成分の開発に加えて、高清浄度な鋼を造る製鋼技術も確立しなければならない。難加工材を安定的に生産するため、製造条件を最適化して、材料ごとに熱間加工性を把握し、加工温度と加工率の個別最適化を図る。また、きめ細かな工程設計も超難加工を実現するには必要だ。これらが開発の要諦になる。医療でカテーテルやインプラントなどは耐食性や強度、高清浄度が求められる。エネルギー関連では原子力発電用溶接材料にニッケル合金や特殊ステンレスが使われる。顧客ごとに化学成分の要求が異なり、当社の強みが発揮しやすい分野でもある」

――鋳鉄はどうか。

「グループ会社の高周波鋳造が手掛ける鋳鉄はトラック向けと建設機械向け、産業機械向けがメイン。産業機械は産業用ロボット部品用で受注が増えており、中期も大きく伸長する。製造難度が高く、複雑形状な付加価値の高い商品をターゲットにすることで、当社のプレゼンスを高める。顧客の設計図どおりに製造する請負の受注スタイルから一歩抜け出し、開発力や技術力を生かしたソリューション提案力に磨きをかけ、顧客の課題解決に積極的に取り組むことでパートナーシップとして認められるようにする。同時に生産の上方弾力性を高めるため、製造ラインを自動化し、旺盛な需要を捕捉できる能力を先行確保する」

――累計で60億円の設備投資を計画する。

「戦略投資は特殊溶解の能力アップ、検査設備の増強、コスト競争力を高める設備の自動化、コストダウンに繋がる合理化投資などを予定する。システム投資は20年以降で基幹システムの更新を手掛けているが、操業データのDX(デジタルトランスフォーメーション)化と、そのIoT(モノのインターネット)での活用、ワークフローシステム採用やRPA導入で業務効率化を実施する。安全・環境対策はトラブルを未然に防ぐための課題を現在抽出中で、製造現場の自動化推進にも照準を合わせる。安定供給に老朽化更新は必要不可欠で、投資金額を増やしている」

――SDGs経営は。

「CO2排出量は30年度で13年度比46%削減を目指して、省エネルギー活動を進めているが、23年度実績は37%と達成までは道半ば。省エネとともに熱処理炉の統廃合、高効率バーナーへの切り替え、重油から都市ガスへの燃料転換などを手掛ける。オンサイトPPAで太陽光発電も導入する。北陸電力から非化石電源を購入し、50年でカーボンニュートラルを実現する」

「人口減少・少子高齢化を背景に、人材不足は深刻化する。人材確保を最重要経営課題として、初任給引き上げやベースアップ、工場交代勤務者の年間休日数を9日増やすなど対応を強化している。定年延長も検討する。働きやすい職場づくりが大事で、暑熱作業のロボット化などを進めながら、『こうしゅうはみんなでコミュニケーション』と題して幹部と社員が対話を重ねており、互いの信頼関係をより深めていく。現中計を完遂して業績安定化を図ることで人材の定着、採用の強化に繋がっていくと思う」

――海外での販路をどのように拡げるか。

「足元は円安環境を生かし、輸出拡大に向けて営業を強化している。中・長期的な視点でみた場合、今の為替状況がこれからも続くとは限らず、また海外は現地メーカーとの競争も激しくなる。当面はスポット取引を主体に受注を積み上げるスタイルとし、医療分野やエネルギー分野で使われる特殊合金や特殊ステンレスについては継続的に取引ができるよう、海外の顧客との関係を強化している」

――富山製造所の現状と今後の見通しを。

「能力に対して総じて余力があり、シフトダウンで生産を調整している。生産量が増えるのであれば先を見据えて、人員増強とシフトアップを講じる」

――グループ戦略はどうか。

「高周波鋳造は環境・防災や品質、リスク管理などものづくりで共通する課題があり、高周波鋼業と連携し、改善に取り組む。カムスは高周波精密の標準切削工具と特殊冶具事業を承継した結果、従来の金型一次加工から、より精度の高い機械加工にシフトできており、鋼材販売とのシナジーを発揮したい」(濱坂浩司)

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