2024年7月3日

商社の経営戦略―加速する脱炭素・市場開拓―/JFE商事 小林俊文社長/建材参入の豪州重点地域/電磁鋼板、東欧進出で供給網広がる

――2024年3月期の連結セグメント利益は前期比25%減の489億円だった。

「23年3月期は過去最高となる651億円を記録したが、上期が406億円、下期は245億円だった。24年3月期は480億円の予算を策定した期初時点で上期220億円、下期260億円と想定していた。上期が想定を上回るペースにあったため7月時点で上期260億円、下期220億円に見直していたが、上期が268億円に上振れ、下期は221億円と想定内で、通期としては期初予想通りとなった。事業環境は良くなかったが、よくやった結果だと考えている。中国は厳しい状況が続いたが、米国、アセアン、鉄鋼貿易、自動車、電機鋼材は健闘した。貿易と海外で利益が出せるようになってきている。JFE商事単体の鉄鋼国内は家電や建築などの内需減退による数量減があったが、鉄鋼貿易は円安要因もあり増益、資機材もプラスで全体としてはほぼ前期並み。国内グループ会社は建材分野の数量減で苦戦した。海外グループ会社は前期まで収益貢献が大きかった米国が市況下落で減益となったが、22年に買収したCEMCO(セムコ)など米国事業の収益力は確実に上がってきている」

――第7次中期経営計画(21―24年度)では400億円の利益を目標に掲げている。一過性要因を除いた実力ベースの利益をどう分析しているのか。

「前中計の実力が250億円だったので、4年間で150億円を上積みする計画であった。セグメント利益は22年3月期が559億円、23年3月期は651億円で、実力ベースの利益をそれぞれ350億円、450億―500億円、24年3月期は370億円から430億円と分析している。為替変動が大きいため、1ドル150円であれば450億円、130円なら400億円弱となる。円安は海外収益にプラスに働くだけでなく、輸入鋼材の抑制効果もあり、利益を押し上げる要因となっている」

――今期は500億円のセグメント利益を見込んでいる。

「市場環境は23年度から大きく改善するとは見ていないが、500億円台の回復を目指す。中計目標400億円に対しては、円安や鋼材価格などファンダメンタルズの好転材料が100億円程度あると整理している。JFE商事単体と国内グループ会社は23年度比で横ばいから微増、米国事業会社は収益が緩やかに回復すると見込んでいる。直近の米国・豪州を拠点とする鋼製薄板建材の事業会社買収の投資効果は今期に関しては買収費用の処理などがあるが、一部引き出すことで500億円に引き上げていきたい」

――投資は4年間で1200億円を計画している。

「前半の2年間で約600億円の投資を決定した。国内・海外事業会社の安全・品質強化、米国の建材事業会社の買収、国内外の電磁鋼板コイルセンターの設備増強、システム更新などを実施。前期はセルビアの電磁鋼板加工・モーターコア製造拠点に着工し、インドのアルミ脱酸剤メーカーの一部株式を取得した。今期は米国・豪州を拠点とする鋼製薄板建材メーカー、STUDCO(スタッドコ)の買収を行った。総投資額は意思決定ベースで当初の計画近くまで積み上がっている。今期も必要な案件があるので計画を多少上回るレベルに達する予定である」

――中計で掲げた重点テーマの一つ、市場開拓を意識した「海外建材事業の強化」は大きく進展した。

「米国では22年のCEMCOに続き、STUDCOを買収した。STUDCOの米国事業会社はニューヨーク州最北部のウェブスターに本社・工場があり、米国東部を中心に鋼製フレームなどの製造販売を行っている。CEMCOはカリフォルニア州北部のピッツバーグ、南部のロサンゼルス、コロラド州、テキサス州の4カ所に製造拠点を持ち、鋼製フレームでは全米3位のポジションにいる。両社で地域的に補完し合いつつ、製造・販売面のシナジーを追求していく。また、STUDCOの豪州事業会社はビクトリア州メルボルンに本社・工場があり、シドニー、ブリスベン、パースに営業拠点を持ち、鋼製フレームで全豪2位のシェアを握っている。今回の投資を通じて豪州薄板建材市場への本格参入を図る。豪州は次の重点地域と考えており、4月から本部格化の組織変更を行い、現地で素早い意思決定ができる体制にした。従来の原材料ビジネスに鉄鋼ビジネスを加え、脱炭素関連ビジネスの機会も探りつつ、地域戦略を策定していく。建材事業についてはアセアンやインド市場への参入も機会を探っていく」

――中計テーマの「電磁鋼板のグローバル加工流通ナンバーワン体制の確立」も進展している。

「新規市場として東欧にターゲットを絞って欧州進出の検討を進めてきた。セルビアはバルカン半島のほぼ中央部に位置し、多くの東欧諸国と国境を接し、数多くの自動車、EV関連産業が進出している。また工科大学をはじめ教育環境が整っており、優遇税制も確認していた。自動車部品関連の大手需要家の強い要望があり、中国や韓国企業が進出するとの情報もあって、約1年前にセルビアへの進出を決めた。23年7月に着工し、25年1月の竣工、7月頃の本格稼働を目指している。日本に加えて中国、アセアン、インド、北米で加工流通拠点を展開しており、東欧拠点の稼働によってネットワークが大きく広がる。EVモーターコア用の無方向性電磁鋼板の需要が急増する中国では、浙江川電鋼板加工が第3工場を拡張した。浙江川電は、JFE商事グループのモーターコア事業のマザー工場で、技術力はじめ総合力で最先端を走っており、同社を中心に中国国内のEV需要の増加を補足していく。北米のJSAが無方向電磁鋼板の対応力を強化しており、カナダのJSCは得意とする方向性電磁鋼板対応の設備増強を完了した。グローバルの戦線が大きく広がる中、人材の育成が大きな課題となっている」

――3つ目のテーマ「自動車向け鋼材のSCM強化」については。

「海外の自動車対応のコイルセンターはタイのSASC、中国の広州川電鋼板、インドネシアのJSSIがあり、メキシコではJFEスチールとニューコアの自動車鋼板合弁事業の隣接地に設立したJSSBが23年4月に本格稼働を開始した。JSSBはJFE商事グループとして初めてで、メキシコにおいても第1号機となる大型レーザーブランキングラインを導入し、試運転を開始している。ドイツ製の広幅対応の大型最新鋭設備で当社にとっても新たな試み。自動車関連需要はさらに伸びていくので、加工数量を伸ばしながら収益性を高めていく。国内はハイテン対応の加工能力アップなどの設備増強が課題となってくる」

――4つ目のテーマ「国内鉄鋼需要の徹底捕捉」は。

「当社にとって国内鉄鋼は最も重要な市場だ。国内では劣化設備の更新とハイテン加工への対応が必要だと考えている。自動車向けだけでなく、建材分野でも必要な投資は検討していきたい。本格化する洋上風力発電の関連需要の捕捉、物流問題の解消に向けてもグループ会社の機能を強化していく」

――脱炭素化に向けた機能強化策として、JFEスチールへの鉄スクラップの安定供給が求められている。

「JFEスチールが計画中の西日本製鉄所倉敷地区の電炉が稼働すると年間200万トン規模で鉄スクラップの消費量が増える。当社の取扱量は国内外含めて年間150万―200万トン規模。M&Aの効果が限定的な分野なので、調達地域と取引先の拡充・関係強化を地道に進め、JFEスチールへ安定供給するための態勢を整えていく」

――インドのアルミ脱酸剤最大手メーカー、マレーシアの合金鉄メーカーへの一部出資も決めた。

「ARFIN(アルフィン)は、製鋼用のアルミ脱酸剤、自動車用アルミ二次合金、合金鉄などをグジャラート州の工場で生産している。スクラップを主原料として製造する鉄鋼用再生アルミ脱酸剤の分野ではインド国内で最大手のメーカー。インドの鉄鋼生産量はこれから大幅に拡大する見通しで、アルミ脱酸剤の需要も伸びる。第三者割当増資に応じるかたちで一部出資し、現地や周辺国への販売を担っていくとともに、現地の鉄鋼原料ビジネスに入ることで新たなビジネスチャンスを探りたい。OMホールディングスはマレーシア・サラワク州でマンガン合金鉄やフェロシリコンなどの合金鉄製造事業等を展開している。水力発電による再生可能エネルギーを利用したグリーン合金鉄を製造しており、カーボンニュートラルの観点においても安定供給体制を整える必要があった」

――「2024年問題」が表面化している物流対策は。

「国内外の物流に関する法令遵守、持続的な輸送能力の確保、物流の脱炭素化等に向けた取り組みを推進し、グループ物流機能の強化を図るために、鉄鋼総括部に物流総括室を設置した。鋼材の物流に関しては当社が輸送を行うことは多くないので、物流の全体像を正しく把握できていない。一方、スクラップや炭素などは自前で輸送を行っている。物流対策は大きなテーマであり、鋼材、原材料で課題を共有化し、いずれ自社の物流機能を集約したい。当面は物流のノウハウを蓄積するJFEスチール、取引先と対応策を見出していく。内航船の有効活用など鉄鋼メーカー・商社の枠を超えた協業の視点も必要と考えている。将来的に物流費と品代を切り離した置き場渡し取引が主流になっていくかもしれないと考えている。それだけ物流は重要であり、物流対策は中継地点の設置など抜本的な見直しが不可欠と考えている」

――JFE商事傘下のJFE商事エレクトロニクスがGPS端末を使用した物流のトラッキングソリューションサービスの提供を開始した。

「GPS端末をトレーラーなどの車両やパレット、カゴ台車に取り付けるだけで利用でき、位置などの情報を『見える化』する。トレーラー運用の効率化や各種作業時間の改善に寄与し、物流の2024年問題の解消につなげる」

――少子高齢化が加速する中、人材不足が深刻化していく。

「人材不足への最大の対応策として、女性社員の活躍の場を広げることが重要だと考えている、昨年4月1日付で総合職と一般職を『業務職』に統合した。旧一般職の業務は過去は営業の補助的な業務が中心だったが、現在では業務がより高度化し、領域も広がっている。旧一般職社員の活躍の場をさらに広げ、管理職となる道を拓くため、昇格や処遇なども一本化した。全社員の約40%が女性社員であり、彼らの活躍が会社の発展に不可欠だ。本年4月に初めて女性の執行役員が誕生したが、2030年に女性管理職の比率を20%に引き上げ、その上で30%を目指す」

――採用難を克服する手立ては。

「関東と関西の大学出身者が大半を占めていた。国内においても人材の多様性を高める観点から地方大学出身者の採用を進めている。キャリア採用も積極的に進めている」

――国内外グループ会社を含めた連結ベースの人材活用も不可欠。

「連結人員は9000人。国内4000人、海外5000人。国内はJFE商事鉄鋼建材、JFE商事鋼管管材、JFE商事エレクトロニクス、川商フーズなどグループ会社が43社あり、経営人材の育成が大きな課題となっている。海外グループ会社は54社で、こちらも多くの会社で日本から経営トップを派遣している。経営トップが日本人でない例として、米国のケリーパイプ、JFE商事アメリカなどがあるが、買収した企業で経営が安定しているところは、本社からのガバナンスをしっかりと支援しながら、現地に運営を任せていくことも必要。ナショナルスタッフの育成と登用も重要なテーマとなっている」

――人気が高い商社でも離職率が上昇している。

「転職によってスキルを高め、キャリアを広げるという考え方もあり、仕方がない側面もある。退職者を再雇用する制度も導入している」(谷藤 真澄)

スポンサーリンク