2024年7月3日

総合商社 金属トップに聞く/伊藤忠商事 猪股淳 執行役員・金属カンパニープレジデント/還元鉄拡張アジア捕捉/UAE事業、27年後半に稼働予定

伊藤忠商事の金属カンパニーは鉄鋼原料や既存資源の安定供給の強化と直接還元鉄(DRI)など脱炭素化に向けた新たな事業化を両輪で進める。新たに銅やニッケルの投資機会も狙うという猪股淳カンパニープレジデントに方針を聞いた。

――2023年度は前年最高益からの後退。

「23年度は連結純利益で2261億円だ。鉄鉱石は順調に収益を上げたが、石炭の価格下落が前年比減の主要因だ。伊藤忠丸紅鉄鋼(MISI)も22年度好調だった北米の鋼管事業の反動で減益だが順調に利益を積み上げた。トレード数量は石炭、鉄鉱石、アルミ含め全体で22年から若干伸びた。顧客へのデリバリーで役割は果たせたと思う」

――新戦力は北米原料炭のNCRか。

「北米原料炭は去年12月に商業生産を開始したが、ボルチモアの橋の事故で出荷が滞った。出荷再開したので、今後は順調にいくと思う」

――ほかに新戦力は。

「原料炭のオーストラリアのフィッツロイに去年の4月に参画した。NCRと同じAMCIがパートナーだ。カーボロダウンズ鉱区は地下400㍍で地質的に難しいところに当たって苦戦した。今年秋口からより採炭条件の良いアイアンバーグ鉱区に移る」

――24年度は増益。

「今期目標は2400億円だ。鉄鉱石も数量を伸ばすし、BHP含めて合弁事業でコスト削減貢献等々もあり伸びる。石炭は北米の石炭と豪州のフィッツロイが加わる。新しい投資案件も加える」

――投資して収益にすぐ効く。

「効くのもある。今年収益に貢献しないのは還元鉄だ。FS中だが順調にいけば12月くらいには最終投資意思決定する。稼働は27年の後半ごろになるだろう。ガス還元でADNOC(アブダビ国営石油)とのガス契約は間近だ。二酸化炭素はガスとか原油のEOR(原油増進回収)に使える」

――プラチナ系金属(PGM)のプラットリーフは。

「生産開始が来年だ。最後調整で半年遅れた。坑道をだいぶ掘っているが、採掘機器を下ろして来年の中ごろ開始だ。最初は様子を見ながら小規模開発する。鉱石処理量で70万トンくらい。鉱石はプラチナ、パラジウム、ニッケル、銅と入っている。400万トン強までもっていくフェーズ2も同時並行で進めている」

――日本にも来る。

「一部は入れたい。具体的な契約はない」

――燃料電池車向けに供給するか。

「その需要は見込みたいし、もう少し先に水素の水電解装置にも使う。水電解装置ではノルウェーのネル社と包括提携を結んだ」

――鉄鉱石の持分生産が2630万トンに増えるがBHPの合弁か。

「BHPの鉄鉱石は今の2億9000万トンから若干ずつ増やす。サウスフランクは概ねフル生産体制となっており、3年前に決めたウェスタンリッジも収益貢献が始まっている。コスト削減策は常時打っている」

――一般炭は撤退か。

「国内外の需要家に対するエネルギー安定供給という社会的要請に応えるため、トレードを通じて貢献していく」

――石炭権益は。

「原料炭はチャンスがあれば引き続き狙いたい」

――本年度の市況は。

「全体的な経済環境は23年度と大きく変わっていない。中国中心に弱含みのところはあるが総じて同じ市況環境か。わずかな差でも23年よりは厳しくなると見ている」

――グリーンアルミは。

「メインはUAEのEGA(エミレーツ・グローバル・アルミニウム)だ。EGAの電源の1つは自前でガス火力発電、もう1つはグリッドにつないだ太陽光だ。太陽光由来のものをグリーンアルミ、彼らはセレスティアルと呼んでいるが、一部供給している」

――プレミアムが付く。

「そこは課題だ」

――日本向けは。

「EGAのアルミは50万トンくらい、EGAの生産量の2割くらい取り扱っているが、(グリーンは)うち数万トン程度」

――グリーンアルミの採用は神戸製鋼所・日産以外に広がったか。

「取り扱いは複数社に広がっており、引き合いは増加している」

――EGAとはリサイクルとか金属シリコンの事業構想もあった。

「事業化に至っていないが、EGAとは毎日のように現地で会話しているし、徐々に進展させる。高純度アルミ、アルミの二次合金、リサイクル系だ」

――リサイクルは注力する。

「注力していく。なかなか集荷が難しい。集荷の機能をどこまで発揮できるかだ」

――鉄スクラップも。

「鉄スクラップを含むリサイクル事業は伊藤忠メタルズの広い業容の注力分野だ。特徴的なのはダイキン製海上コンテナ用冷凍機の販売パートナーをやっている。去年は世界シェアナンバー1になった。伊藤忠メタルズの大きな柱として展開している」

――鉄スクラップの需要増に対応は。

「伊藤忠鉄原会という全国のリサイクル企業の組織を作っている。基本的には鉄原会の会員の各社と協力して発生を押さえる。加えて海外だが、アメリカのPNWメタル・リサイクリング社というスクラップディーラーに去年投資して1人駐在員を派遣した。メタルズからの投資でオレゴン州・ワシントン州だ。日本に持ってくることもあるし、日本以外のアジアにも持ってくる」

――拡大する目標は。

「設定していない。UAEでの還元鉄が第1フェーズのHBI(ホット・ブリケット・アイアン)で250万トン。メタルズのスクラップ取扱量は300万トンくらい。それを増やしていく」

――DRIは今後も中東が中心か。

「相対的に中東、中でもUAEは環境が整っている。ガスが豊富にある。水素も製造計画があるし、CO2の利用先もある」

――鉄鉱石の調達は。

「ブラジルだ。中東のプロジェクトはペレットとHBIを作る。全部で600万トンのペレット用鉄鉱石の契約はCSNミネラソンとエミレーツ・スチールが結んでいる。将来的にカナダ、ヴァーレ、アングロなどの鉱石も入れていくことで原料の確保はほぼ済んでいる」

――MISIに収益拡大の期待は。

「もちろん大いに期待している。彼らの強みの1つは海外だ。国内もやっているが、海外の地産地消型のビジネスモデルを確立している。人的交流も2人来てもらっている。1人はカーボンニュートラル推進室。顧客が鉄鋼メーカーなので共同で何かできないか。もう1人は還元鉄のチーム。うちの船舶・プラント部隊にも人を出してもらって厚板の話をしている。MISIも投資の方に重きを置いて色々手を打っている」

――成長投資に舵を切る。

「両方だ。鉄鉱石を中心とした既存の優良資産があるので、資産が劣化しないように新しく更新投資を続けないといけないし、拡張もしないといけない。それだけだと減耗していく資産なので、新しい事業も進める。トレードと事業、この両輪だ」

――二次電池関係、EV対応は。

「プラットリーフのニッケルとか銅は小さいので、ニッケルを中心に案件を追いかけている。トレードはシンガポールを中心にインドネシアのニッケル銑鉄も合わせてやっている。弱みは銅だ。やりたいが、既存の権益に入っていくと高くなる。探鉱からの立ち上げも選択肢として取り組んでいる。伊藤忠鉱物資源開発が中心に独自展開もするし、海外の産銅プレイヤーと組んで一緒に探鉱するパターンもある。どちらかというと後者の方が多い」

――探鉱からは時間がかかる。

「それでも良いものはやっていく」

――アフリカの可能性は。

「プラットリーフはやっているが、南アフリカならまだ良いが、コンゴなどリスクの高い国に行くというのはハードルが高い」

――探鉱は何カ所くらいでやっているか。

「3カ所。ドリルを打っているのはチリとカナダ。銅の需要が伸びるのは確実なので、それを捕捉する思いは強い」

――ニッケルは製錬、精製、正極材への出資と何を狙うか。

「基本的には山(鉱山)と製錬をパッケージにして。インドネシアはそういうところばかりだ。ただ中国のニッケルは将来米国に持っていけなくなる不安感もある。中国資本の薄い、インドネシアのニッケルは面白い。オーストラリアもカナダも見ている」

――電池用か。ニッケル銑鉄も盛んだが。

「両方見る。うまくバランスしている。電池需要がしんどくなりつつある。それを離すわけにいかないし、ステンレス原料はインド向けが伸びる」

――脱炭素ではCCSなど案件がある。

「発表した北九州の拠点整備と、水素・アンモニアの需要喚起で旗振り役をしている。拠点整備支援とか水素・アンモニアの値差補填支援とか政府の支援が非常に重要。水素は地産地消の色合いが強いので、デンマークのグリーン水素生産会社、エバーフューエルに大阪ガスと出資した。すぐ隣の石油精製に使う水素を我々の事業体で生産する。地産地消をベースに、パイプラインがつながっているので隣国のドイツに水素を送るとか、大阪ガスと一緒にノウハウ、知見をアジアに持ってくる。デンマークは風力が多いが再エネが豊富。水電解から水素を作り製油所に送る。関連して原子力も注目している。元々ウランの取り扱いが結構ある。日本も大量の水素を作るのであれば原子力の夜間電力を使った水素も考えないといけない」

――10年後は。

「先行投資する還元鉄は拡張して日本だけでなくアジアの還元鉄需要も捕捉できるように伸ばしたい。銅も入れたい。ニッケルも。水素もだ。顧客のニーズに応え、社会にも貢献しながら三方良しでの成長だ」(谷藤 真澄、正清 俊夫、田島 義史)

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